週刊雑記帳(ブログ)

担当授業や研究についての情報をメインに記事を書いていきます。月曜日定期更新(臨時休刊もあります)。

学校教員の労働環境の話

学校の先生の労働環境が悪い。
こういうことが言われるようになって久しい。
これは、だんだんと知られるようになってきたようで、最近は教員志望者が減り、現場で教員が確保できない、といったことも増えているらしい。
数値的なこと、詳しいことは書籍や新聞等に詳しいのでここでは書かない。
詳細について知りたい人は下記の本あたりが参考になる。
◇現状とその分析
「教師崩壊 先生の数が足りない、質も危ない (PHP新書)」
◇問題の背景
「迷走する教員の働き方改革 ―変形労働時間制を考える」

さて。
この問題。
僕もあまり他人事ではない。
僕は大学で教員養成に関わっている。
それゆえ、現場でヒーヒー言っている知り合いはたくさん知ってるし、つぶれてしまった話もよく聞く。
一昔前なら教員一択だったであろう学生が教員になるのを辞めてしまう。
だいたい、対象が違うとはいえ僕も教員であるので、大変さはいくらか共感できる。
そこで、この問題について一市民、一労働者として考えをまとめてみようと思った。
学生に聞かれることもあるので、その解説的な意味合いもある。
なんとか現状を変えたい、という意見表明でもある。
なお、知らない方のために書いておくと、僕のスペックは以下の通り。
・教員養成に関わる大学教員
・知り合いに現場の教員が多い
・労働法はユーザーとしては少し知っている(素人に毛が生えた程度)
この辺りを頭に置いて読んでいただければ幸い。

認識している現状と問題

単純に業務量が多い。
そして人がいない。
そのため現場に余裕がない。
余裕がないから大変な人をカバーできない。
そうすると現場はさらにブラック化する。

全部の現場がこうとは言わないが、ブラック化した現場は増える。
たまたまそこに当たった人がえらい目にあうことになる。
このあたりは僕個人としても目の当たりにすることが多い。
新卒の新人教員にいきなりそんな大変なクラスを持たせるのか、という事例はたくさん見てきた。
なお、僕がそこで働く教員から相談を受けたら、迷わず休職を勧める。
他人のために自分が壊れるのはバカバカしい。

いろいろなところからこういう話を聞いた学生は教員になるのをためらったりやめたりする。
高校生は進路として大学の教員養成課程の学部に進まなくなる。
結果として、教員採用試験の倍率が下がってしまう。

そうすると、実際に教員定員自体も満たせない事例が出てくる。
4月から担任が不在でスタート、産休・育休代替教員が来ない、なんてことが生じる。
教員採用試験の倍率が0を切ってないのだから、満たせないはずはない、という声も聞こえてきそうだが、そうはならない。
ここで足りない、とされるのは、主に非正規の教員。
この非正規の教員は、正規教員候補生でもあるのだけど、ここがどんどん足りなくなってきている。

結果として、人が足りない、いよいよ忙しい、大変すぎても誰も助けてくれない、いよいよ大変。
ブラックな職場の実態が教員志願者の学生に知られ、敬遠され、さらに人が足りない、の負のループ。
まあそんなところか。

何が問題か

ブラックな労働環境は、働き手の健康上大いに問題だが、それ以外にも問題点がある。
1番大きいのは、教育の質が落ちること。

いい教育をするには、準備に時間をかける必要がある。
教材について研究し、教え方を考え、授業の展開を練る。
こういう時間がいい教育に必要なことに異論はないと思う。
だからこそ、大学で教員免許を取得するための科目として、各教科教育の方法に関する授業がある。
教育実習に行けば、指導案を書かされ直される。
よい授業をするには、こういう準備の時間が欠かせない。

他にもある。
教える内容について教科書や指導書を超えて深く学ぶ時間。
子どもたちの発達や学習に関する様々な知見を学ぶ時間。
学校教育の分野やその隣接分野の最新知見を学ぶ時間。
こういう勉強の時間も教員の専門性としては大事になる。

ただ。
忙しすぎるとこれらの時間を十分に取ることができない。
日々、目の前の授業とそれ以外の様々な業務を回すことに追われ、準備と専門性を磨く時間が取れない。
この状況が続くと、当然に学校教育の質が落ちることになる。

教育の質、に効く要因はこれだけではない。
教員採用試験の倍率が下がるということは、人材の質が低下することも意味する。
まあ、もちろん、現場で時間をかけて育てればいいのかも知れないが、少なくとも採用時点での質は低くならざるを得ない。
教員というのは、それなりに勉強が好きで、専門的知識が豊富な人にやってほしいものだが、そういう人がどんどん減ってしまう。
せっかく教員になって現場で専門的素養を身につけたとしても、ブラックな現場に耐えられなくなってしまえば人材が流失してしまう。
現場の教員集団の持つ人材の質の低下は否めない。

さらに。
教員の定員が満たせない、ということはもっと深刻な問題を引き起こす。
定員が満たせていないわけだから、担任がいない、教科を教える専門性を有する教員がいない、といった事態が生じる。
これの深刻さはいうまでもないと思う。
公教育において、必要な教育を受けることができていない、ということでもある。

そういうわけで、教員の働き方の問題は、教育の質の問題、ひいては教育を受ける権利の侵害につながる、社会において極めて深刻な問題である。

どうしてこうなったか

要因は複数。
1番は、労務管理の問題。
公立学校の教員は残業代が出ない。
通常の労働者は、労働基準法により、実労働時間に対して対価の賃金を払わなくてはならない。
労働者の賃金の保護性の優先順位は高く、賃金未払いに対しては労基署の指導が行われやすい。
賃金を払わなくてはならないということは、どのくらいの時間働いたかの管理もしっかり行われる。
時間外の労働には、時間数や働く時間によって通常より割増の賃金を払わなくてはならない。
そして、無尽蔵に残業させられるわけではなく、きちんと上限が決められている。
これらのいずれかが守られていなければ、労基署の行政指導の対象になる。
民間企業では、指導により悪いイメージがつくことを嫌うし、悪質な場合は刑事事件になるのでまともな経営者はこれを避ける。
やらせる仕事を減らしたり、上手いやり方で負担を減らしたり、人を増やしたりする。
それに、時間外賃金が多くなれば、業務に対して人が足りていないことが一目瞭然だし、時間外賃金に使うお金を使って新たに人を雇おう、となりがち。
つまり、残業代には、働いた時間に対価を払う以外に、長期労働を是正する効果がある。
しかし、公立学校の教員はこの残業代が法律により支払われない仕組みになっている。

はるか昔、公立学校の教員に残業代の支払いを求めて訴訟を起こされたことがあった。
裁判所としての判断は、払え、というもの。
しかし、教員は労働者ではなく聖職だから残業とかそういうものではないでしょ、という考えをもとに、時の政治家は新たな法律を作ることで残業代の支払いを回避した。
それが、「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」(給特法)。
4%多く給与を払う代わりに残業代の支払いはなし、という代物。
なお、4%は当時の月平均残業時間が8時間だったことに由来しているらしい。
これが1971年の話。
ただ、先述したように、残業代には長期労働の抑制効果がある。
その抑制効果がないまま、時間が過ぎることになった。

その間。
教育に要求されることは増えてきた。
よりていねいな子どもとの関わりや保護者対応、増える学校行事、授業以外の教育業務、部活動の全員参加などなど。
しかし、残業代が出ない仕組みであるため、適切に長期労働が抑制されない。
最終的に積もり積もった業務量と要求される労働量がいよいよ限界に達しつつある、というのが現状だと思っている。
50年は、チリが積って山となるには十分すぎる時間。


他にもある。
教員の定員が埋まらない、という話。
これが非正規教員の話だというのは、前の項で書いた。
なぜ、この非正規教員が足りなくなるのか。
これは、学校教員の志望者の減少とリンクしている。

教育現場は非正規雇用(有期雇用のフルタイムもしくは時間雇用)の教員が結構いる。
問題は、学校教育がこの非正規の教員にかなり頼っていること。
フルタイムの有期雇用だからといって補助的な業務というわけではなく、普通に担任もするし、部活などの分掌もある。
で、この非正規教員は誰がやっているのか、と言えば、正規の採用試験に受からなかった人がメイン。
もちろん、退職教員や、非正規的な働き方を望んでいる人もいるが、需要に対してかなり少ない。
すると、正規教員になりたいけど、採用に至らなかった人が非正規雇用の教員となる。

昔はこの方式でも非正規教員を十分集めることができていた。
これは、教員になりたい人が多く、非正規で教員をやりながら正規の教員採用試験合格を目指すという人が多かったから。
人が余っているのをいいことに、採用に至らなかった人材を活用して非正規教員を戦力に組み込んでいた。
しかし、教員採用試験の倍率が下がっている今、採用試験に落ちても他の自治体の採用試験に受かるなどして、非正規教員候補生自体が激減している。
教員採用試験に落ちた人が全員非正規教員候補生になってくれるわけでもなく、待遇がよい他業種他職種に正規採用が決まってしまう、ということも多い。
そのため、非正規教員候補生はいよいよ少なくなる。
まあ、そりゃそうよね、という話でしかない。

ただ、こうなると、現場はさらにブラックになる。
すると、また教員志願者が減って採用試験の倍率はまたまた下がり、、、の悪循環。
まあそんなところだと思う。

どうすべきか

僕が考える対策は以下の3つ。
やりがい・魅力の発信なんていうのは、意味がないのでやめた方がいい。
目指す人は最初からそんなことわかっている。

(1)給特法の廃止と残業代の支払い

何よりも、給特法を廃止し、一般の公務員と同じように残業代を払うようにするのが早道だと考えている。
残業代を支払うことで、どんな業務で長期労働になっているのか把握できる。
その上で、不要な業務を削り、適正な人員配置を行う。
どうあっても残業代が減らなければ、必要に応じて人員を増やす政策へとつながる。
残業代による長期労働の抑制効果をしっかりと働かせるのが1番大事だと思っている。

政府や与党の案だと、給特法の「4%」を現状に合わせて増やして、というのがあるようだが、ここまで書いてきたようにこれだと問題は解決しない。
別にお金が欲しいわけではなくて、長期労働が過ぎることが原因なので、それに対する解決策としては適切ではない。
問題に対して対策が全く合っていない案だと言わざるを得ない。

学校教員の働き方を裁量労働制にしたらいいんじゃないか、という案も目にした。
裁量労働制とは、労働者に業務のやり方を任せて(使用者が指示や命令をあまりしない)自由に働いてもらおうという制度(詳しくはこちらを読んでいただいて)。
その代わりに、あらかじめ決められた時間を働いた時間とみなして、残業代は出さない。
業務に対する裁量(やり方・労働時間等)を与えて自由に働かせようというもの。
ただ、この制度は働きすぎの危険があり、対象業務はかなり限定的。
教育業務において、自由裁量が働くとは考えにくく、大学教員であっても研究がメインでない者の裁量労働制適用は認められていない。
学校教員が、自由裁量で、今日は疲れたから早く帰ろーっと、とか、今日は午後からでいいやー、とか、そういう裁量を有しているとは思い難い。
それに、業務量がここまで多い状況で、自由裁量を働かせるのは難しい。
なによりも、残業代による長期労働抑制の原理が働かないため、問題は解決しない。


(2)労基署による監督

さらに。
公立学校の教員は労働基準監督署の管轄になっていない。
地方公務員法によって、労働基準監督業務を担うのが労基署ではなく人事委員会(もしくは首長)とされている。
公務員の業務の特殊性からこうなっているらしい。
これを改正して、労働基準監督業務を労基署の管轄にしたらいいのではないかと考えている。
すでに、私立の学校、国立大の附属学校については、労基署の管轄になっている。
地方公務員でも業務によってはこうなっており、公立以外の学校教員が労基署の管轄でも問題ないことからも、わざわざ管轄を労基署から外す必要はないのではないかと思っている。
もう内部に自浄作用があるとは思えないので、労基法違反については外から指導してもらうのがいいのではないか、ということ。
これについては、関係法令や制度を熟知しているわけではないので、把握していないアナがあるかもしれないケド。


(3)余裕をもった正規教員の配置とOJT

非正規教員が集まらない、というのはもはや教員という職に人気がないので仕方ない。
よって、少し余裕をもって正規教員の採用を行うべきだと思う。
一定数、育児休暇やら傷病休暇やらが出ることはわかっている。
これをあらかじめ見込んで、正規教員を採用する必要があるのではないだろうか。
他業種へ転出した人材はなかなか戻ってこないので、早いうちに採用して人材を安定させる。

また、新人をいきなり戦力として使うのではなく、一定期間を教育期間と位置付け、副担任や少し軽い授業負担などにする。
その期間にOJTとして、教員としての技能を磨いてもらう。
2−3年後に一人前の教員としてフルに業務を任せる。
これなら潰れる人はグッと減ると思う。
どこの業界でも新人の間は教育期間として、各種サポートをするのが普通。
いきなりベテランと同じような業務をあてて潰してしまうのは、教育現場の大きな問題だと思っている。
人気がないのだから、せめて飛び込んできてくれた人を大事にしてほしい。

もちろんこれをやるには、国レベルで教育業財政の制度を整えなければならない。
しかし、我が国の外国と比した低過ぎる教育歳出を考えるに、やるべきタイミングだと思う。



おしまい

というわけで、つらつら書いてきたけど、もうおしまい。
長くなったけど、大事なことなので許していただいて。
教育は、次世代の育成であり、我が国の行末がかかっている。
ケチるべき分野ではない、と思うのだが、いかがであろうか。


ではまた。




羽田空港かな。

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2024/03/16 22:03
休暇だよ。
横浜のとあるサイゼリアにて。



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Update 2024/03/16
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