週刊雑記帳(ブログ)

担当授業や研究についての情報をメインに記事を書いていきます。月曜日定期更新(臨時休刊もあります)。

研究者の評価は難しい

今回は「大学教員の評価は難しい」の続き。

教員としての評価は確かに難しいが、研究者としての評価はできるのではないか。
研究論文の数を数えればいいだけだから。
研究業界では一般的に研究業績を使って研究者の評価は可能なものとして考えられている。
ただし、僕はこの考え方を支持していない。
今回はこのことについて書いていく。

一般的な研究業績の評価

一般的にはどのように研究業績の評価を行っているのだろうか。
まずは、論文や書籍の数を数えることが行われている。
今まで何本書いたか、ここ5年で何本書いたか。
そういった類。

質もみる。
論文は査読(審査)付きの学術雑誌に載ったのか、査読なしの学術雑誌に載ったのか。
英語で書かれたか否か。
査読付きの場合どの雑誌(雑誌ごとに難易度が異なるため)に載ったのか。
発表した論文はその後、別の研究にどの程度引用されたのか。
質もみるのだが、結局評価をして比較する必要上、数値に落とし込まれる。

それらの数値を「総合的に」評価している場合はまだいい。
「総合的に」という時点で、評価が難しいということをわかっている。
ただ、極端な研究者は、査読付き論文以外は評価しない、英語論文以外は評価しない、特定の雑誌に載った論文以外は評価しない、なんてことを言い出す。
特に、そういうタイプが役職者に就くと悲惨なことになる。

研究分野ごとに基準が異なる

まずはここから。
研究業績の評価基準は、研究分野ごとに大きく異なる。
年に数本、ポンポン論文を出していくような分野もあれば、じっくりと時間をかけて、数年に1本が普通という分野もある。
査読付きが、英語か否か、論文か書籍かについても、分野による。

これは、研究分野の特性による。
研究活動は、分野によってかかる時間が大きく異なる。
数ヶ月でデータ取りからまとめまで1サイクルが終わる分野もあれば、データ取得自体に数年単位の相当時間を要することもある。
英語で書くか否かもそう。
想定読者がそもそも日本人の場合や非研究者なんかが含まれる場合、日本語で書くのが適当。
例えば、日本文学の古典なんかの研究であれば、英語で書く意味はない。
日本の制度を念頭においた教育問題を扱っている場合なんかは、想定読者は研究者以外に現場の教員も含まれる。
この場合は英語で書くと、必要な読者に届かない。
雑誌の論文という形では紙数を取りすぎるため、書籍でまとめることが適当な場合もある。
査読なしの雑誌に自由に紙数を使って書いて、評価は読んでくれた他の研究者に任せるという考え方もあろう。
そんなわけだから、分野をまたいでの統一的な基準での数値評価は難しい。

それだったら、分野ごとになら可能かというと、やはり絶対的に基準を定めて評価するのは難しい。
その分野の中でも、時間や手間がかかる研究とそうでない研究が存在する。
例えば、僕の研究分野だと、発達を調べるために横断的(ある時点で各年齢のデータをとってくる)な方法は時間がかからないが、縦断的(1つの集団を何年も継続してデータをとってくる)な方法だと膨大な時間がかかる。
論文数は圧倒的に後者の方が少なくなるが、重要かつ必要な研究。
単純に数の大小で比較をすることができない。
おそらく各研究分野でも選択する方法論によって、こういう違いはあるはず。
よって、同じ分野であっても統一的な基準での数値評価は難しい。
ある程度内容を加味する必要がある。

量と質のトレードオフ

これはどんなものでもそうなのだが、量と質はトレードオフの関係にある。
質を気にしなければ量を稼ぐことができる。
一方で、質を高めまくれば量が犠牲になる。
この場合、論文数のみで評価を行うと、質を重視する研究者は損をするので、生産される論文は徐々に質の低いものばかりになる。
悪貨は良貨を駆逐する、ということ。

もちろん、そのあたりの問題をかわすための指標もある。
どんな雑誌に載せたか、その後どの程度引用されたか、の指標がそれ。
ただし、これにも問題点がある。
研究業績や分野ごとに、研究者人口や他の研究に与える影響の大きさが異なる。
盛り上がっている分野は引用数も、雑誌の格も高くなり、マニアックな分野ほどその数値は低くなる。
メジャーかマニアックかは質とは無関係なので、質の指標となり得ないことになる。
あくまで、同一分野・テーマ内での比較において質を反映することになり、これらが必ずしもすべての研究の質を絶対的に反映する指標とはなり得ない。

もっと難しいのは、質が高くて本数が少ない研究者と、質が低くて本数が多い研究者、どちらの方を高く評価すればいいのか。
これはもう個々の研究者の仕事哲学的な問題で、研究者間で一致した評価基準を設定できない。

研究業績は環境に依存する

研究者が所属している環境は多様である。
同じ研究分野でも、全ての時間を研究に使える人もいれば、他の業務の隙間時間でやっと研究を回している人もいる。
大学院生やスタッフがたくさんいて、人的なリソースが豊富な環境の人もいれば、1人で細々と研究する環境の人もいる。
研究費や設備が豊富な環境の人もいれば、どちらも劣悪で私費で研究を回している人もいる。
いずれの場合も、前者よりも後者の方が研究業績の期待値は低い。
恵まれた環境で年2本論文出している人と、劣悪な環境で年1本論文を出している人、全く同じ分野で同じクオリティの論文だと仮定しても、前者が研究者として優れていることにはならない。
しかし、評価を数値基準ベースで行うと、前者の人の方が評価される。
基本的に、このような環境の違いは数値化された時には出てこない。
こういう場合の評価もまた大変難しい。

1つの分野を深く型vs複数分野研究型

研究者は1つの分野で1つのことについて深く真理を追求しているタイプと、複数の分野で研究を行っているタイプがいる。
複数の分野で独立して研究を行っている者もいれば、複数の分野を融合させるような形で学際的に研究を行っている者もいる。
1つのことに集中しているタイプに比べて、複数分野研究型は情報収集に時間を取られるため研究業績は出づらくなる。
しかし、複合分野での研究や研究分野を跨いだ分野融合的な研究は重要。
そして、この場合、評価がまた難しい。
1つの分野・テーマで2本と、各分野・テーマごとに1本ずつの2本、同じ評価でよいのだろうか。
分野で評価した場合前者は2本、後者は1本となるが、本当にその評価は妥当なのだろうか。
分野ごとに評価基準が異なる場合はより複雑になる。
こうなってくると相対的な評価は不可能としか思えない。



と、まあ思いつく点についてつらつら書いてみた。
そんなわけで、研究者の評価は大変難しい、というのが僕の意見。
競争原理主義の人たちは評価したがるんだけど、無理な評価はやめておいた方が研究は発展すると思っている。
研究者は元々が研究好きなので、環境さえ整えれば放っておいても研究はする。

ではまた。




たぶん、鳥取市内。


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2023/02/05 17:30
コーヒー2杯目。
鳥駅スタバにて。


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僕の研究変遷記〜学部編

先生の専門はなんですか?
時々聞かれて、わりと答えに困る質問。
今しか知らない人には一体なんの人なのか、よくわからないと思う。
授業は特別支援教育の制度の話から、ヒトの身体のことなどを担当しているし、研究は心理学とか脳科学とか言っている。
卒論生は、保育や福祉系の質問紙なんかもやっている。
いやー、我ながらよくわからない。
そこで、自己紹介的な、研究遍歴のシリーズを書いてみようと思った。
今回はその学部編。

まず。
学部は教育学部の情報系。
中高数学の免許が取れて、数学と情報が学べる場所。
情報系は当時はたくさんの学部学科があったのだけど、その中でも幅広く科目設定があるところ、というのが選んだ理由だった。
当時は仮面浪人をしていて、国立大工学系学部に在籍、電気電子工学を専攻していた。
そんなわけで、大学を中で見て新たに大学選びをした、ちょっと特殊例だと思う。
教養も含めて自由に学びたかったので、強制的に学ばせるようなスタイルの学部学科も除外した。
入る前からリベラルアーツを意識していて、学部は幅広く、専門は大学院で、という考え方を持っていた。
各大学からカリキュラム表を取り寄せ、目的に合致するところを選ぶと、全国に2つ3つしか選択肢がなく、そのうちの1つに入学した。

学部では、大変幅広く学んだ。
授業以外でも本をたくさん読んだ。
数学、情報、を学ぶ中で、ヒトの情報処理という観点から心理学や情報科学脳科学に興味を持った。
色々と学んでいくうちに、専門性としては「ヒトの情報処理」を中心としたものになっていった。
ただ、あくまで学部では教養を、というのが頭にあったので、それ以外もだいぶ読んだ。

学部も高学年になってくると、読む本は心理学や神経科学系の本が増えてきた。
それでも3年生くらいまでは大学院で選ぶ分野が絞りきれておらず、情報科学系の専門書も読んでいた。
プログラミングも多言語勉強していて、これが大学院以降、隠れた技術として役にたつことになる。
が、それを目的に勉強していたわけではなく、あくまで学ぶこと自体を目的とした勉強だった。

卒論の研究室は、情報科学について幅広く、好きにできるところだった。
同期は、OS作ったり、ネットワークのことやったり、情報教育のことやったり、本当に幅広かった。
僕のテーマは、ヒトの視覚情報処理に関するもので、ある視覚刺激(ある立体の影)を見せて立体視の起こり方を調べる心理学的な研究だった。
内容はたいしたことない。
が、ゼロからほぼ自力で組み立ててやり切ったものでもあった。
おかげで、視覚情報処理については、わりと詳しくなった。
後年、この内容を授業で教えることになろうとは、当時の僕は考えもしていない。

大学院での専門分野は数学、情報科学神経科学、認知科学認知心理学あたりを考えていた。
早い段階で数学が落ち、3年生の中盤くらいで情報科学が落ちた。
結局、認知科学神経科学が生き残り、4年生の頃には神経科学に落ち着いた。
ただ、この時点では神経科学のどの分野、というのはあまりなく、行った先でやってみて考えればいいや、と考えていた。
周りに院進学組がいなかったせいもあり、このあたりは今考えると冒険的だったと思う。
結局合格した大学院をいくつか見学して、サルを中心とした認知神経科学の研究室を選ぶことに。
おそらく、この選択をしていなかったら今頃この仕事にはついていなかったと思うから本当に不思議。
が、この話は今回は詳しく書かない。

そんなわけで、大学院修士課程へと進学する。
続きは、また次回。
ではまた。




飛行機。
どこで撮ったかはしらん。

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2023/03/11 13:29
のんびりモード。
鳥駅スタバにて。


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Update 2023/03/11
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入学後からできる卒論対策

卒業研究、卒業論文
大学生も下の学年だと、先輩からその大変さを聞いていることと思う。
どんなものかイメージできないくせに、大変だという話だけは聞く。
ちょっと不安だなぁ、と思っている人も多いのではないだろうか。

卒研・卒論とは何か。
所属組織にもよるが、基本的には大学生の一番最後にやってくる、学んできたことの集大成と位置付けられている。
これをやるために、必要なことはあらかじめ学んでおき、授業があるのであれば単位を取っておく。
そのわりに、何をしておいたらいいのかは教えてもらうことが少ない。
まあ、大学というところはそういうのも含めて自分で考えて自分で行動せよ、というところなのだけど、それを言ってしまったらここで記事が終わってしまう。
そこで、今回は入学後からできる卒論対策について書く。
なお、卒論はそれ自体から得ることがかなり大きい。
前もって下学年のうちにやっておくべきことをやっておくと、より多くのことが学べる。
どんなことが学べるのかは、 研究(卒論・修論)で身につく能力(研究をしよう31) あたりを読んでいただいて。

しておくべきこと1:書き方の基礎を鍛える

卒論では当然ながら論文を書く。
結構な量の文章を書いていくことになる。
この時に、すでに基礎的な書く力がついていると強い。

この書く力は、大学1年生から大学生活の中で身につけることができる。
一番鍛えられるのは、日々のレポート課題。
これらをしっかりと書くと、結構鍛えられる。

しかし、ただ漠然と書いていてもあまり身にならない。
なるべく早い段階で、ここで紹介している本を読んでおく。
日々のレポートはこれらの本で書いていることを実践する場として活用する。
これだけで、結構書く力は身につくと思う。
これらの本を読むのは、早ければ早いほどいい。
教員によっては、頼み込めば添削をしてくれることもあるので、時々はそういった振り返りを入れる。
これらはやればやるほど力がつくと思って間違いない。

なお、研究系の書く力は、ビジネス系文書全般に共通している汎用性の高い能力。
卒論に生かせるだけでなく、就活のエントリーシートや社会に出てからのビジネス文書においても役にたつ。

しておくべきこと2:読む力を鍛えておく

研究を進めるには、たくさんの論文・専門書を読むことが必要になる。
この時、読む力、読む速度がものを言う。
下級生のうちから、そのあたりを意識して読む力を鍛えておきたい。

では、どうやったら鍛えられるのか。
これは、もう、たくさん読む、に尽きる。
読んだ文字の数だけ、力がつくと思っていい。
授業で推薦されるような本、論文を読むクセをつけておこう。
別に、専門分野に関係する本でなくてもいい。
何でもかんでも読む、雑食的に読みまくるというのがおすすめ。

読んでいてもわからん、というのは読書をあまりしない人からよく聞かれる。
わからなくてもいい。
とりあえず最後まで読む。
そして数をこなす。
これを繰り返すと、いつの間にかついているのが読む力。
大学1・2年生のうちにこれをやっておくと、後がかなり楽になる。

読む力については別記事も書いているので、そちらも参考にしていただいたて。
なお、この読む力には、英語力も含む。
研究論文は、英語で書かれているものも多いため、がんばれば読める程度に力を身につけておきたい。
英語力についてはこちらも参考になる。
僕は大学入学時点では英語が超絶苦手だったが、時間をかけて克服した。
どんなに英語が苦手な人でも、無理やり使わなければいけない環境に放り込まれるとできるようになるので、語学は時間なのだと思っている。

しておくべきこと3:幅広く知識を入れておく

研究をやるためには、当然ながら研究する分野を選ばなければならない。
分野を選ぶためには、選択肢となる様々な分野のことを知らなくてはならない。
分野選びは2年生か3年生の段階で行うことが一般的。
それまでにある程度選択肢とその中身を知らないと選びようがなくなる。
そのために浅いが幅広い知識を入れておく必要がある。

入れる知識は2種類。
1つ目は選択肢となる分野の概要。
所属している学部学科コース等によって、卒論時に選べる選択肢は決まっている。
選べる教員の授業を中心に、必要に応じて本を読むなどして、どの分野でどんなことをやっているのか知っておく。
注意が必要なのは、授業だけではもれる分野があること。
授業は同じ時間に複数設定されているので全部は履修できないし、カリキュラム上、卒論分野を決めた後の学年にしか履修できないものもある。
これらは意識して書籍から学んでおかないと、知識としては入ってこない。
選択できる所属組織の教員一覧から、専門分野の名前、専攻の名前を調べて、新書なんかを読んで内容をさらっておきたい。
まあ、そこまでせずとも、卒研究発表会に顔を出して、卒論生がどんなことをやっているか聞いておくくらいは必須。
これらは早ければ早いほどいい。
分野選択の間際にあわてて調査をするともれる情報が出てくる。

2つ目。
選択肢となる分野以外の教養的な知識も入れておきたい。
卒論が忙しくなってくると、全く関係ないことを学ぶ時間が減る。
しかし、それらの知識が卒論を進める上で意外なところで役に立つことがある。
選択肢外に面白い分野を見つけてしまい、院でそちらに進みたくなるかもしれない。
院に進まずとも、選択肢として用意されている分野と選択肢外の分野の内容を結びつけて研究をする、なんてことはあり得る。
専門とか研究とかのために学ぼうとすると視野が狭くなりがちなのだけど、視野を広げるためにあえて関係ないことをインプットしておくのはとても大事。
何が役に立つかはわからない。

しておくべきこと4:PCのスキルを磨いておく

今や、PCを使わずに卒業研究を進める、卒論を書くなんてことはありえない。
苦手だと言って避けるのではなく、ある程度使えるようになっておきたい。
タイプ練習するなど、特別なことをやる必要はない。
日々の授業やその課題を進める時に、ちょっと大変でもスキルが身につくように意識して作業すればいい。
特に、時短できるような技を教わったら積極的に使いたい。
たまに、PCに苦手意識を持つあまり積極的に避ける人がいるが、これは卒論最終段階で苦しむ。
一番忙しい時期に2倍3倍の作業時間が必要になる。
早めになんとかしておきたい。

これについては関連記事(PCのスキル(なぜ学ぶのか、何を学ぶのか 13 ))も参考にしていただいて。

しておくべきこと5:演習系の授業は全力で

さて。
大学では今まで話したことを総合的に学べる場として演習系の授業が用意されている。
調査実習、実験演習、〇〇プロジェクト、などなど、名前はいろいろ。
これらの授業は、元々研究を見据えて設定されている。
よって、研究する力をつけるための、各種必要なことが盛り込まれている。
そういうものだと意識して、手を抜かずに訓練の場として使うとそれなりに力が身につく。
たいていはグループワークになるので、手を抜こうと思えば手が抜けるのも演習系授業の特徴。
ただし、それをやると必要な力が身につかないまま卒業研究を迎えることになるのであとで苦しむ。
できるだけ全力で取り組むようにしよう。

この演習系授業。
具体的に研究プロセスの一部を体験することになる。
すると、研究を進める上で必要なこと、やっておいた方がいいこと、に気づくこともある。
これらが見つかった場合は、この授業外で自主的に学んでおく、というのが大事。
もちろん、授業科目として用意されている場合もあるので、それらもうまく活用してほしい。
そもそも大学って、そういう場所。



つらつらと書いたが、長くなったので今回はここまで。
ではまた。




横浜のとあるえきにて。


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2023/02/05 15:08
ひきこもり。
自宅にて。


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Update 2023/02/05
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学会へ行こう4〜学会の準備・フォロー(研究をしよう34)

学会へ行くことにした。
具体的に何をしたらいいのか。
今回はこんな人に読んでほしい記事。
学会に行く前にすること、行った後にしておいた方がいいことを書いていく。
これまでの関連記事はこちらで確認いただいて。

参加学会の検索と申し込み

ここの読者の場合、学会ってなぁに??という人もいることと思う。
自分の分野にはどんな学会があるかがわからない。
そんな人に一番おすすめなのは、教員に聞く、と言うもの。
ざっくりと卒論でこんな分野で研究したいんだけど、関連学会はどんなものが考えられるか。
これをできれば複数の教員に聞いてみよう。
なぜ、複数の教員なのか。
これは、教員によっては1つの学会にどっぷり、というタイプも多いから。
さまざまな学会を網羅的に知らない場合もあり得る。
偏らないためにも、何人かに聞いておくと間違いない。
教員の興味・研究フィールドと、自分の卒論の興味が異なる可能性は大いにある。

論文をいくらか読んでいる人は論文の雑誌からたどる方法もある。
読んできた論文のうち刺さった論文をいくつかピックアップする。
それらの論文の掲載されている雑誌うち、大学が発行している雑誌ではなくて、学会が発行している学術雑誌を探す。
あとは、どこの学会がその雑誌を発行しているか検索すればいい。
書誌情報には必ず雑誌名があるので、それをWebで検索かければ、出版主体が出てくる。
発行主体が大学か学会かわからない場合も、とりあえず雑誌名を検索かけるといい。

参加したい候補の学会名がわかったら次は学会大会の情報を探す。
学会へ行こう、とずっと書いてきたが、ここでいう学会とは、学術集会とか大会とか、学会の主催するイベントのことを指していた。
正確には学会とはさまざまな研究者が集まって作る組織のことを言う。
その学会組織が、年1回や2回、定期的に開催している研究発表イベントのことを学術集会とか学会大会などという。
言い方はその学会によって違うが、字面を見れば大体わかる。
多くの学会は過去の学会の情報を公開しているので、それでプログラムを確認、おもしろそうならその学会へ参加してみよう。

参加にはお金がかかることが多い。
ただ、学部生は激安のこともまた多い。
webで情報を確認して、お金がいくらかかるのか、調べておきたい。
また、参加に際しては事前参加登録をしておくのがおすすめ。
ほとんどの場合、割引価格が設定されているし、学会開催前にプログラムやWebサイト利用権などがやってくる。
事前準備もしやすいので、これはやっておきたい。

なお、当日参加も受け付けていることがほとんどなので、申し込み忘れた場合は当日参加の方法をwebで調べてから学会へ行くといい。

事前の下調べ

学会参加前にプログラムは一度眺めておきたい。
特に大きな学会の場合、複数のセッションが同時並行で行われているため、事前にどの時間はどこに行くか、ざっくりとチェックしておくといい。
当日の気分や聞いた上で別のセッションに行く、というのは自由。
自分の目的に合わせて、聞きたいセッションをゆるく決めておきたい。
なお、初参加で、広く卒論のネタ探しを目的としている場合はポスターセッションを中心に、かなり気になるシンポジウムや口頭発表等を入れ込んでいくのがいいか。

発表については、事前に抄録(研究の概要)が配られるのが一般的。
タイトルを眺めて興味ある、と思ったプログラムについては、抄録を確認して概要をチェックしたい。
概要を見ると、このセッションは違うな、となったり、これは絶対聞かなきゃならんやつだ!となったりする。

抄録はポスターや口頭発表についても1演題ごとにある。
まだ、学会うろつくだけでは理解が難しかも、と感じる人は、特に興味ある研究について事前にこれらを読み込み、当日聞きに行くというのも手。
全く知らん状態だと理解が難しくても、事前に情報があると理解ができる場合がある。
質問などもあらかじめ考えることができるので、当日の時間を有効活用できる。

事前の準備(研究内容以外)

・メモできるもの
歩き回って立って聞いてその場でメモすることが多い。
そのつもりでメモできる何かがあると便利。

・宿の確保はお早めに
大きな学会の場合、その都市の宿容量を圧迫することがある。
なるべく早めに宿を押さえおきたい。
福岡・札幌・仙台クラスの都市だと直前宿確保はかなり厳しいことが多い。
大都市でも他のイベントと重なったため宿確保が難しいことがある。
他の学会と同時開催などもあるが、最大の競合相手はジャニーズのコンサート。
これと被ると、宿の確保が相当に厳しくなる。
ジャニーズのコンサートと被ったため、泣く泣く学会の日程をずらした、という話を聞いたことがあるほど。

・名刺
大学院の進学を考えている人はマスト。
発表を聞いたあと、質問をしたあと、などなどに、名刺交換の機会がやってくる。
特に進学を考えていない人は学会名札をお見せするだけでいいと思うが、大学院の進学先を探している、後で連絡をとる可能性がある場合には簡単な名刺を用意しておくといい。
連絡先教えてくれたら、発表資料の電子版を送ってあげるなんてこともあり、あると便利なのがこいつ。
学部生で、とりあえず見て回るだけ、という場合はなくてもいい気はする。
お目当ての先生がいて、少し深くお知り合いになりたい、という場合は用意しておくといいか。

発表を聞いたあとに

学会で話を聞いて、なんとなく満足しておしまい、というのは避けたい。
後に残るように、発表を聞いた後にしておいた方がいいことがある。

まず、おもしろかった発表について。
タイトルや内容をメモする、以外にできることがいろいろある。
抄録以外の発表資料をその場で配っている場合は、それをもらっておく。
ポスター発表の場合は、ポスターのA4縮小版、口頭発表の場合はスライドを小さくした資料が多いか。
発表者がいる場合は、関連論文はもう出ているか聞いて、その書誌情報を聞く。
発表段階で、発表された研究内容が論文になっていることは少ないが、稀に出版されていることがある。
また、その発表研究の下敷きになった重要な論文を教えてもらえることもある。
学会から帰ってきたら、忘れないうちにそれらの論文を取り寄せて、読んでみる。

まだ論文化されていなかった場合でもその後論文化されることは多い。
本当におもしろい!と思ったら、著者名で時々論文検索かけると、論文化されたときに引っかかってくる。
名刺を持っている場合、論文化されたら教えてほしい、と名刺を渡すのも手。
相手に手間がかかるので、あまりたくさんやるものではないけど、本当におもしろいと思った発表を聞いた時はやることがある。

演題そのもの以外にも情報がある。
それは、研究者に興味を持つ、というもの。
特に、発表を見ていると、ボス(指導教官)の名前が複数の関連研究発表に載っている場合がある。
多くは、連名発表者の一番最後に名前があることが多い。
こういう場合、大体ボス研究者の内容はある特定分野に散らばっている。
その研究者はその分野で研究を活発に行っている第一人者なことが多い。
おもしろいな、と思った分野にそういう研究者の名前を見つけたら、学会から帰ってきた後でその研究者の検索をかける。
この場合、論文検索サイトではなく、Google検索でいい。
すると、本人の個人ホームページが出てくる。
この中には多くの場合は研究業績一覧(論文リスト)が公開されている。
こられのタイトルをざっと眺めると、自分の気になる研究が隠れていることがある。
ホームページに研究業績一覧が見当たらない場合は、論文検索サイトでその研究者名を検索かけることで代用できる。
結構おすすめな、研究検索の方法。
大学院進学を考えている人の進学先選びでも、こいつは正攻法の一つだと思っている。

最近だと、研究者が実名でSNSをやっていることも多い。
おもしろいと思う発表をしている研究者がいたら、アカウントを見つけた上でフォローしてみるのもおすすめ。
研究は研究者の個人的な興味に基づいて行われるものなので、その研究者をフォローしていると、自分がおもしろいと思うような情報が発信されることがある。
おもしろそうな論文や研究のネタを探す新しい方法だと思っている。
なお、ご存じの方も多いとは思うが、僕のSNS ではこういう情報は一切出てこない。


長くなった。
今日はここまで。
ではまた。




皇居前の広場にて。


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2023/02/26 14:07
この時間くらいになると混み始める。
鳥駅スタバにて。


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学会へ行こう3〜学会の楽しみ方(研究をしよう33)

前回までに、学会の概要、発表の種類について書いた。
今回は、大学生(一般の人)の学会の楽しみ方について。
結構いろいろな楽しみ方がある。

卒論のネタを探す

大学生にまずおすすめなのがコレ。
ゼミなどで論文の探し方については学ぶ。
ただ、論文は読むのになかなか時間がかかる。
このため、数が稼げずテーマ選びに時間がかかってしまう。
また、知らないテーマのことはそもそも調べられないので、新しいテーマと出会うのは難しい。
このような問題について、学会はとても役にたつ。

参加して会場を歩き回って、発表を聞きまくろう。
卒論のネタを探すのが目的なので、とにかく見まくる聞きまくるのがよい。

特にポスター発表はおすすめ。
ポスター会場をすみからすみまで歩き回って、タイトルを眺めてみる。
その上で、おもしろそうなポスターをいくつかチェックしておいて、内容をじっくり見てみる。
大学生くらいだとよくわからないことも多いと思う。
そういう場合は、発表者に大学生で卒論のネタ探しに来た、説明してほしい、とお願いしてみよう。
おそらく、大学生のレベルに合わせてていねいに教えてくれることと思う。

ある程度、分野やテーマが絞れている場合は、その他の発表スタイルも役にたつ。
参加前にプログラムを見て、参加するセッションをチョエックしておきたい。
特にポスター会場以外は、当日探すと見たいものに気づかない場合がある。
事前にチェックしてスケジュールを立てておくと最大限楽しむことができる。

発表を聞いたら。
発表のタイトルと著者名をメモしておく。
抄録が公開されていることがほとんどなので、後で内容を振り返ることができる。
著者名とタイトルは後で関連情報を調べるのにも使える。
卒論のネタ探しなので、後で振り返れないというのは意味がない。
この辺のことは、次回詳しく書く。

卒論のテーマが決まらない!
何に興味があるのかさっぱりわからん!!
こういう学生さんは、一度学会をのぞいてみるといい。

知的好奇心を満たす

そもそも学会の存在意義はこれが大きい。
同業者が行なっている、今まさに明らかになりつつある最新の知見に触れて、ゾクゾクする。
これは大学生でも味わうことができる。

どんな問いで、どうやって調べたのか。
どこが新しくて、どのあたりがすごいのか。
これらのことが発表でわかると、おおお、まじか、すげぇとなることがある。
研究者でなくとも、これは味わえる。

大学生だと、そもそも研究の実際を知らないことが多い。
なので、それらに触れるだけでも知的好奇心が刺激される。
「おもしろい!」と感じることができるだけで、学会に行った意味がある。
学問の本質は純粋な知的好奇心、だと思っている。

各種研究技術を鍛える

研究では、問いの立て方、方法論、まとめ方、ロジカルな構成力、発表技術、質問力などなど、さまざまな技術が必要となる。
研究で必要な各種技術については、研究をしようシリーズを一から読んでいただいて。
学会では、これらの技術を鍛える、ということもできる。

例えば発表。
上手な発表は大変参考になる。
こういうのを見ておくだけでも勉強になる。
知らない方法論について、発表でざっくり知って、残りは後で調べて勉強、みたいなこともできる。
図の作り方、表の見せ方などは、見れば見るほど良し悪しがわかるようになる。
たくさん発表を眺めると、よく出てくる方法論などもわかるようになる。
帰ってから勉強してその方法論を押さえておく、なんてこともできる。
チュートリアル・教育講演のように、技術伝達が目的のセッションもあったりする。
このように、参加していろいろと聞くだけでも研究で使う各種技術が鍛えられる。

しかし。
なんといっても鍛えられるのが、質疑。
質問を一生懸命考えて、質問をしてみる。
これはかなり力になる。
質問については別シリーズにも書いてある通り。

質疑については特にポスター発表がおもしろい。
質問をしてその回答を聞いていると、それを後ろで聞いていた別の参加者が「でもさぁ、ここは〇〇ってことはないんですかね?」みたいな質問が飛んでくる。
これらのやり取りを聞いているだけで勉強になるし、内容の理解も深まる。
最初はわからないところと聞く、というだけでもいいので、ぜひ質問をしてみたい。
なお、いい質問、というのは発表者に残るもので、学会で一度すごい質問くれただけで印象に残り続ける場合がある。

学問の広がりを知る(就活に活かす)

わりと欠けがちな視点がこれ。
でもこれ、結構大事だと思っている。

学会にはその学問に関連するあらゆる研究テーマが並んでいる。
基礎研究から応用研究まで、自分の研究テーマや知っていることからかけ離れたさまざまな分野があることに気づく。
心理系だと、実験や質問紙を用いたゴリゴリの基礎研究もあるが、保育、教育、医療に関連した心理学の応用研究もある。
と、ここまではなんとなく知っていることが多いのだが、警察や自衛隊の組織の研究があったり、トヨタやホンダといった企業に属した研究者の研究があったりする。
企業や行政、そのほか、色々な分野から研究が出ていて、自分の卒論の分野がどのような職業と結びついているのか知ることができてとてもおもしろい。
研究やその分野はおもしろいのだけど、それが職業とどう結びつくかがわからん、ということについて、少し情報をくれる。
大学院博士課程までは考えていないけど、院の修士課程くらいまで行って、就職先の候補にしよう!なんてことを考えるかもしれない。

そもそも、研究発表者が職業研究者でないことも多い。
現場で働きながら、困り感を研究の形で解消したい、調べたらまだわかっていなかったので研究をしてみた、などなど。
それぞれのモチベーションで、現場の問題を研究という形に落とし込んで発表している。
将来、研究のフィールドに進む気がない人でも、現場で研究という手法を活かす、という働き方を知っておくことは大変意義がある。
社会に出てみるとわかるのだけど、わかっていないこと、問題だらけのこと、というのは多いもので、こういう時に研究が選択肢になる、というのを知っておくのは悪いことではない。
自分の目指している職業についている人の発表を聞いて、現場の問題をどう研究に落とし込んでいるのか知ってみるというのは自分の卒論のモチベーションにもつながる。
ポスター発表だと、ざっくばらんに話ができることも多いので、研究以外でも有益な情報を得られるかもしれない。

大学院の進学先を探す

ちょっと打算的だけど、王道でかなり有効な方法がこれ。
大学院に行きたい、でも、研究室が選べない、という相談を受けることがある。
論文を読む、本を読む、ネットで情報を調べる、というのもいい。
ただ、学会をうまく利用するのも手。

やり方は簡単で、ポスター発表あたりをぶらぶらする。
興味ある発表を聞いて、質疑をする。
それが教員だったら、大学院を考えていて、いろいろ情報を集めている、と言ってみる。
受け入れが積極的な研究室の主宰者だったら、ここで名刺交換となることが多いと思う。
そうでなくても、研究室訪問の連絡をするハードルがグッと低くなる。

気になっている研究室がすでにある場合にも使える。
前もって、プログラムでその研究室の教員もしくは院生の発表をチェック。
その上で、そのテーマについて少し勉強(論文を読んでおくなど)して、当日発表を聞きに行く。
あとは、ここの研究室の進学を考えている旨を告げれば、名刺交換となったり別に話を聞く時間をもらえたりする。

この方法。
大学院生がどのレベルの発表をしているか、その教員やラボメンバーの雰囲気などについて、直接触れることができる。
大学院レベルでも、研究室ミスマッチは起きるので、こういうやり方で相性を見ておく、というのは悪くない。
学会なので、分野の教員が一斉に集まっていて、一気にこれができるのもまたよい。


と、まあこんなところか。
このシリーズ、もう少し続く。
ではまた。




横浜の港にて。


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2023/02/23 20:02
今日はお休み。
鳥駅スタバにて。


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Update 2023/02/23
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学会へ行こう2〜学会発表のスタイル(研究をしよう32)

前回は学会とはどのようなものなのか、その概要について書いた。
今回からは具体的に詳しく書いていく。
初回のテーマは発表スタイル。

学会発表というと、発表者がステージに立ち、たくさんの聴衆に向けて講演をする、そんなイメージをお持ちの方が多いと思う。
確かにそういうものもある。
ただ、そうでないものもある。
今回は様々な発表スタイルと、その楽しみ方を書く。

発表スタイルを書く前に、学会全体の話を少し。
学会というと、発表会場が一つだけあって、期間中ずっと話を聞く。
そんなイメージを持たれている方もいると思う。
小さな学会だと、そういうタイプのものもあるかもしれない。
ただ、多くは、複数の発表会場で同時並行で発表が行われ、聞きたいものを自分の興味に応じて聞きにいくスタイル。
ずっと聞いている必要はなく、興味のある演題がない時間帯は聞いたことのまとめをしたり他の研究者と交流をしたり休憩したりする。
会場にはそのための休憩スペースが設けられていることが多く、会場併設のカフェやレストランも参加者同士の交流で混み合っている。
もちろん、会場外へ出てご飯等の休憩に行くことも自由。

次は、発表スタイルごとに書いてゆく。

口頭発表

聴衆の前に出て、持ち時間内で自分の研究について話すスタイル。
スライドや手元資料をもとに、自分の1つの研究成果について紹介するというもの。
学会発表というと一般的にはこのイメージを持つ人が多いのではないだろうか。
口述による卒論発表会をイメージしていただければ大きくははずれないと思う。

学会の場合、演題募集に応じて応募し発表演題が決まる。
多くの場合は、応募のあった演題についてテーマごとにいくつかのセッションにまとめられ、分野ごとに同じ会場や時間帯で発表プログラムが組まれる。
例えば、心理系の学会だと、A会場の9:00-11:00は「発達」、B会場の9:00-11:00は「認知」などのようにセッションが設定され、それぞれの演題の内容に合わせてプログラムに組まれていく。

通常、セッションごとに司会進行役の「座長」が置かれている。
多くの場合は、セッションの分野で有名な研究者が充てられており、司会進行や聴衆と発表者の橋渡しをする。
博士課程の院生クラスになると、「座長」は知っている人の場合が多い。
発表は、決められた時間しゃべり、あとは質疑、という流れ。
時間は厳守(それをやらないと、後ろの時間帯の発表者が発表できなくなる)で、座長は結構シビアに時間を切ってくる。
質問は、フロア(聴衆)に何かないか、と問いかけ、なければ座長が2、3質疑をする、ということが多い。

口頭発表のいいところは、会場で座っていると次から次へとその分野の最新研究が流れてくること。
ある程度その分野のことを知っている場合は、先端研究のアップデートにつながる。
悪い点は、発表者との距離が遠く、時間が限られていること。
精神的にも時間的にも質疑のハードルが高く、気軽な感じはない。
質疑も他の聴衆と時間を共有しているので、しょうもない質問はしにくいし、しない方がいい。

学生だと、口頭発表は発表の勉強にもなる。
発表者は、発表に慣れた人も多い。
どのように発表するのか、そのお手本になるものが多い。
しゃべり方、スライドの構成・デザイン、出てくる質疑やその受け答えなどなど。
本職や院生クラスが、学内の卒論・修論発表会では見られないクオリティの発表をしてくれるので、とても勉強になる。
ダメな発表ももちろんあるのだが、いい発表に混ざっているので、ダメな感じが結構目立つ。
それを反面教師として自分の発表の参考にする、というのもまた勉強になる。

ポスター発表

研究者だと一般的だが、それ以外の人だと、なにそれとなるのがこのスタイル。
学会にもよるが、規模の大きな学会ほどこの発表が多い。
口頭発表よりもポスターの方が演題数が多いという学会はわりとある。

ポスター発表とは。
各発表者が研究発表に関するポスターを貼り出し、その前に待機して見に来てくれた人に説明するというもの。
ポスターは映画などの大判ポスターを思い浮かべてくれればいい。
A0サイズ(横1m弱×縦1m強)等の大判ポスターが貼れるボードが発表会場にずらっと並んでおり、そこに用意したポスターを貼る。
演題数は、学会によって異なるが、大規模なものだと数百にもなる。
ポスターには、研究の目的、方法、結果、考察、結論のキーポイントが書かれており、これを使って発表者が解説する。
貼る時間、発表者が待機する時間が決められているので、その時間帯にお目当ての発表を聞きに行くというスタイル。
口頭発表同様、演題はテーマごとにまとめられているので、ぶらぶらとポスター会場を歩きながら、ポスターを眺めては面白そうな発表を探す、というようなことができるのがこのスタイルの特徴でもある。

ポスター発表の醍醐味は、なんといっても発表者との距離の近さ。
ポスターの前で会話をするように発表者から説明を聞くことができる。
聞き手の知識レベルに合わせて話してくれる発表者も多く、話をする前に、こちらの情報(どのフィールドで研究している人か、学生なのか臨床家なのか、研究者なのか等)を聞いた上で、話し方を変えてくれることが結構ある。
口頭発表よりも基礎的な確認の質問がしやすく、議論がしやすいのもポスター発表の魅力。
教科書で見るようなすごい先生が、ふつーにポスターの前に突っ立っていて気軽に教えてもらえるというのは、他のスタイルにはない醍醐味。

僕は発表者としても聞き手としてもこのスタイルがかなり好き。

シンポジウム

口頭発表に似ているが、ちょっと違うのがこれ。
簡単にいうと口頭発表のセッション丸々企画してしまう、といった感じ。
例えば、「学習障害の基礎メカニズムと支援」のように、シンポジウムのテーマが設定される。
時間は口頭発表の1セッションと同じくらいで、2時間程度が多いか。
この枠内で、企画者が各研究者にオファーを出し、発表をしてもらい、シンポジウム全体として何らかのメッセージを出す。
学習障害の例だと、基礎研究に〇〇先生、支援に関する研究に××先生、まとめの討論役に大御所の誰それ先生、というように、企画者が人を充てていく。
発表者は、企画に合わせて、自分の過去の研究を発表したり、研究のレビューをしたりする。
討論役や企画者が最後に発表を受けて議論し、議論を聴衆にもふって、シンポジウムとして問題提起を行う、結論を述べる、というような流れ。
企画は口頭発表やポスター発表と同じく、一般に募集する場合と学会の大会役員が企画する場合の2つがある。
前者の方がマニアック、後者の方がバランスが取れたものになりがち。

シンポジウムの良いところは、そのテーマについて様々な角度から掘り下げられるところ。
よくオーガナイズされたシンポジウムは勉強になり、刺激を受ける。
口頭発表とは異なり、発表者が必ずしも1つの最新研究を発表するとは限らないのが特徴。
発表によっては1つの研究を議論するというのはできないかもしれないが、過去の研究も含めて重要な研究を学べるという意味では役にたつ。
難点は、シンポジウム全体として当たり外れがあること。
口頭発表の場合は、1つ1つに当たり外れがあり、セッション全体で全部外れということは少ない。
対してシンポジウムは、シンポジウムの企画とそのオーガナイズがへぼいと全部外れという場合がありうる。

招待講演・受賞講演

学会の目玉として企画されるのがこれ。
基本的には口頭発表だけど、1つの研究だけをしゃべる口頭発表とは異なり、発表者の裁量で自由にしゃべるのがこれ。
「講演」ということはそういうこと。

招待講演は、学会大会役員が大物研究者を選んできて、お越しいただいて喋ってもらうというもの。
かなりの大物なことが多いのが特徴で、大変勉強になり刺激になる。
大きな学会だと、海外から呼ぶことも多く、英語で聞けることが前提であることもある。
キーノートレクチャーという名前がついていることもあるが、大物に講演してもらうという意味ではほとんど同じもの。

受賞講演も、大物の講演。
学会では学会の中でとてもすごい人に賞を贈ることがある。
この受賞者に記念講演をやってもらうのがこれ。
受賞するくらいの研究業績がある大物が、自身の研究を中心に話を組み立てた内容を聞くことができる。
こちらは、その人の研究史みたいなのが聞けることがあり、とても刺激になる。

これらの講演は、発表者の研究テーマについてざっくり学ぶ時に役にたつ。
研究をする者としては、コツコツ、綿密に進める一連の研究の話を聞くのもまた楽しい。

チュートリアル・教育講演

学会参加者に、学んでもらう、というのを目的に設定されているのがこれら。
研究発表ではなく、あくまで、技術や知識の伝達が目的。
対象者は、専門から少し外れた研究者だったり、研究者以外のその分野の実践家だったり、様々。
分析方法、最新の研究からわかったこと、新しい技術的なレクチャーなどなど、が並ぶ。
これらについて、その分野の一線の研究者が教えてくれるので大変役にたつ。

大学生や大学院生だと、これらをいくつか狙って参加するのも手。
取りこぼしがないように、あらかじめプログラムで提供されているものを確認しておきたい。
最近だと、事前予約が必要な場合もあるので、情報に注意しておくことが必要。

出版社・企業ブース

学会はお金がかかるので、学会に関連した出版社や企業にお金を払ってもらい、企業ブースを出してもらうことが多い。
いわゆるスポンサーってやつ。
例えば、神経系だと実験ソフトの会社や脳波計の会社などがデモ機などを出している。
心理系の学会だと、心理系の専門書・教科書の出版社は大集結している。

ここも結構おもしろい。
特に学生さんだと、出版社ブースがおすすめ。
ほとんどの出版社が、学会に関連した出版中の本をブースに並べて売っている。
本の数としては、丸善本店の教科書・専門書コーナを凌駕するほど並んでいる。
その分野に興味を持っている学生さんだと、あれも欲しい、これも欲しい、となるはず。
それらの本の著者が、その会場のどこかにいるわけだからちょっと不思議な場でもある。

学会公式懇親会

夕方から夜にかけて、懇親会なるものが設定されていることがある。
ここは、参加者同士が交流する場。
立食形式で、酒を飲みながら、というようなことが多い。
なお、強制参加ではないので、参加しない発表者も結構いる。
僕もここにはほとんど参加しない。
学会終わったら、一人でどこかに遊びにいくか、少人数の研究者・学生グループと飲みに行くのがほとんど。

僕が過去に参加した懇親会は、海外の学会で、ポスター発表の会場がポスターそのままに懇親会になるというやつだけ。
お酒を飲みながら、ポスターの前で自分の研究をしゃべったり、気になる発表のところに行って議論したりできて、とてもおもしろかった。
なんとかかんとかパーティーという名前がついていた気がする。
日本でもやればいいのにーと思うものの、日本だと業界外から批判が来そう、と思ったり思わなかったりする。


と、まあ、長くなったが、学会発表のスタイルは書き切った気がする。
これらを参考に、事前にプログラムと睨めっこしながら自分の目的に応じてどれを聞くか戦略と立てて参加することになる。
なお、これらはもちろん典型例で、学会の規模や文化によってスタイルは多少異なるので悪しからず。

次回は、目的別楽しみ方について書く。
ではまた。




横浜にて。


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2023/02/19 20:16
ひきこもり。
自宅にて。


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Update 2023/02/19
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年度末の大学教員は絶望的に忙しい(大学教員・研究者という生き物 10)

久々このシリーズ。
年度末、1月から3月。
この時期の大学教員は忙しい。
絶望的に忙しい。
いや、ほんと。
今回は、なんで?を書いてみる。

まず、卒論総仕上げの季節。
これは、最終学年になればわかるが、結構大変。
そして、この大変、は指導教員にも波及する。
計画的に余裕をもって進めばいいのだけど、もちろんそんなことはなく。
もうギリギリになった卒論生から次から次へと質問や相談がやってくる。
余裕ある組は書き上げた論文を出してきて、コメントを求めてくる。
これがひっきりなしに、しかもそれぞれのテーマでやってくるので、やってもやっても終わらない、ということになる。
年末、紅白を見ながら卒論に赤入れ、なんていうのは大学教員間ではよく聞く話。

加えて、学期末。
質問OKのオーラを出している教員だと、試験前は質問にくる学生も増える。
試験前は質問で予約がいっぱい、というようなこともしばしば。
当然試験については、その実施や採点、成績処理もある。
これも結構時間を取られる。
採点の祭典、なんてシャレが、大学教員からもれてくることもある。

学期末に加えて、学年末でもある。
学年末特有のイベントもかなりやってくる。
例えば、演習系の科目だとまとめや発表会などが設定されていたりする。
すると、これに対応して質問・相談・指導が増える。
卒論や試験前質問にこれが重なると、目がまわるくらいには多忙になる。

これくらいなら、なんとかなるのだが、まだまだある。
年度末は事務や研究もまとめの季節。
各種〆切のお仕事がやってくる。
チームで研究をやっていると、まとめの会議に呼ばれたりもする。
年度末に研究ミーティングは集中する傾向があり、あっちいったりこっちいったり。
そのための研究やそのまとめもまた、集中する。
卒論生が論文の〆切に追われている中、その後ろで教員自体が論文の〆切に追われているなんてことはわりとある話。
事務系の仕事もまたこの時期は多い。
予算の〆、書類の〆、各種手続きの〆、〆〆〆。
特に事務作業が苦手な教員は、やられる。

そろそろ、許したれ、と思うのだが、そうは問屋が卸さない。
入試のシーズン到来である。
国立大だと、共通試験、推薦、前期、後期、とこの短い期間に詰めこまれる。
これ、当たり前なんだけど、誰かが試験問題を作り、誰かが会場を設営し、誰かが試験監督をする。
ミスの許されないお仕事で、気が張り詰めるのもこの種の仕事の特徴で、大変疲れる。

そして、トドメが、次年度の準備。
シラバスのこの部分をこう書きましょう、システムが変わったので新たな入力よろしく、新入生の配る資料の作成・確認してね、などなど。
多種多様にわりとたくさんある。
年度ごとに各種係の担当がえがあるもので、その引き継ぎなんかもある。

かくして、この時期は絶望的に忙しい大学教員が量産される。
字面で見るとなんとかこなせそうな気がしないではない。
ただ。
一つ一つの仕事はそこまでではないのだけど、量がある一定レベルを超えたあたりからわけがわからなくなってくる。
作業中に、急ぎの仕事が入って中断してその仕事に移っている最中に、コンコン質問いいですかの最中に、電話で「センセイ、〆切過ぎたあの書類出てません!」的な感じで、あれ、オレ最初何やってたんだっけ???みたいになることがしばしば。
これはオレ特有の問題かもしれないが。
そんなわけだから、ぜひ、やさしさをもって見守っていただいてですね。


では、今回はここまで。
また。




東京都内にて。


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2023/02/12 17:50
ふむー。
鳥駅スタバにて。


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