週刊雑記帳(ブログ)

担当授業や研究についての情報をメインに記事を書いていきます。月曜日定期更新(臨時休刊もあります)。

卒業研究学術論文化奮戦記(教育奮戦記11)

僕の教育の方針として、卒業研究・論文指導は1つの大きな柱として力を入れている。
正課として用意されているゼミ時間の何倍も使って指導しているし、研究の質についてあまり妥協したことは言わない。
研究室配属の前から、研究の質として、外に公開できるレベルのものを書こうぜ、と言っているし、それに共感して入ってくるゼミ生が多い。
なおかつ、僕の研究のネタを与えることはせず、自分の興味に基づき研究のネタ探しから求める。
卒論としては、結構ハードモードな運営。
ハードなことは僕自身ものすごく認識していて、代わりと言ってはなんだけど、仕事上の優先度は最優先で対応したり、一緒に勉強しよう、という姿勢ではいるようにしている。

さて。
今回は、そんな卒論大変、という話ではなく。
このような運営方針で卒論生を指導していると、書かれる卒論、結構おもしろいものが出てくる。
本職が、業績増やすために書いたであろうテキトーな論文より、はるかにおもしろい。
せっかくやったわけだから、これを世に出したい、と思うようになった。

そんなわけで、ここ数年。
仕上がった卒論をもとに、これを学術論文として公開しよう、ということをがんばっている。
ただ。
僕の研究論文への姿勢から、卒論だからそれなりの質でもいいよね、みたいなことにはならない。
論文は、できるだけていねいに時間をかけて、質については妥協はしない。
少なくともうちの卒論生の見本になるレベルくらいまでには質を高めたい。
そういう意識で取り組んでいるのだが、これがなかなか大変。
今回はその奮戦の記録を書いていく。

まず。
卒論の提出段階で、即投稿論文や紀要論文のクオリティになっていることはない。
卒論生にとってはなんていったって初めての研究。
スケジュールの見積もりは甘いことがほとんどで、ギリギリのスケジュールで仕上げてくる。
試験論文としてのクオリティとしてはなかなかであっても、それをそのまま、というレベルではない。
そこで、ここからさらに時間をかけて直していく、ということになる。

が。
卒論関係の審査が終わって卒業までは1ヶ月あまり。
引っ越しやら卒業旅行やらで、卒論生は大忙し。
よって、直しについては卒業後に繰り越しということになる。
自分で直したいか、おまかせにしたいか聞くと、だいたい半々にわかれる。

じゃあ、卒業後直せるか。
これもなかなか厳しい戦いが待っている。
ほとんどが卒業後は新社会人となる。
そうすると、思っていたよりも社会人生活が大変、ということに。
論文の直しにほとんど時間を割くことができない。
なるべく待つようにするのだけど、1年くらいでギブアップとなることが多い。
まあ、これは仕方ない。
だいたい、論文を公開したいというのは、僕の側の勝手な願望であり、卒業生にはあまり関係ない。

論文の直しを僕におまかせしたい、もしくはギブアップ、となると、僕が引き継ぐことになる。
ところが、これが思っていた以上に大変。

完成度の高い論文の場合、引用元と引用部の整合性が取れているか、結果の記述が手元に残っているデータと齟齬がないか、このあたりの確認をしていく。
この段階で、不明な引用文献が発覚したり、結果の記述によくわからない箇所があったり、手元にデータがなかったり、なんていうことが見つかる。
これを、卒論生に問い合わせることになるのだが、卒論生としても時間がたってしまって忘れてしまったり、ファイルが見つからなかったり、ということが起こる。
卒論生に問い合わせてもよくわからない箇所は、生データから分析し直したり、記述を変更したりして、なんとか形にしていく。
想像よりもはるかに時間が取られる。

完成度がそこまで高くない論文の場合はもう少し大変。
僕の研究室の教育方針により、テーマ設定が自由なため、まず僕が内容についての勉強をする、というところからスタートする。
引用文献・参考文献、その他文献を読み込んで、知識をセットしていく。
過去の卒論生のテーマがかぶったことはほとんどなく、僕の研究分野の研究テーマを選ぶこともないため、1つの論文を仕上げるのに新しく読む論文というのはかなりの数になる。
その上で、論文に足りないところを埋めていく。
うちの卒論はイントロのロジックはわりとしっかりしている(本人たちも自信を持っている)ので、時間さえかければなんとかなる。
が、時間は結構かかる。
感覚的には、進めている共同研究について、論文化するハズの主任研究者が書けなくなったので代わりに書くことになった、というような感じが近いか。

分析が足りていない、という場合はさらに時間がかかる。
が、これは時間さえあればなんとなかるのでいい。
問題は、データが足りていない、追加の実験・調査が必要な場合。
これを埋めるのは現体制では時間的にほぼ不可能で、こうなるとお手上げとなる。
最初からわかっていればまだいいのだが、作業の途中でこれに気づくと悲惨。
そこまでにかけた時間はそのまま無駄になってしまう。
研究に興味ある学生さんと共同研究などできないか、など、いろいろと試行錯誤を繰り返しているのだけど、うまい解決方法は見つかっていない。


まあでも。
最初にも書いたように、卒業研究は結構おもしろいものが多い。
どうにかして世に公開していきたい、という想いはやはり消えない。
そんなわけだから、もう少しトライと失敗を繰り返してみたいと思っている。

そんなこんなの、卒論論文化奮戦記。
たぶん続編はない。
では、また。




東京都内にて。


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2024/04/06 19:29
ちょっとだけ仕事でて、のちに休暇モード。
鳥駅スタバにて。



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Update 2024/04/06
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