週刊雑記帳(ブログ)

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本の紹介,「アメリカの大学・ニッポンの大学(苅谷剛彦,中公新書ラクレ)」

アメリカの大学・ニッポンの大学
苅谷剛彦(著)
難易度:☆


著名な教育社会学者が、まだ新人だった頃に書いたアメリカの大学に関する本。
専門書ではなく、本人がアメリカの大学での教育経験を踏まえた軽い読み物。
数年前に読んだのを再読したのだが、おもしろかったので紹介記事を書くことにした。
大学人だけでなく、大学生や一般の人も広く楽しめる内容。
氏の専門性から、学校の先生や先生を目指す人にも読んでもほしい本。

さて。
苅谷さんといえば、教育学の人なら知らない人がいないくらい有名な人。
教育学関係の新書をたくさん書いており、ご存知の方も多いと思う。
東大で教鞭をとり、現在はイギリス・オクスフォード大で教えておられる方。
イギリスの大学の話も結構おもしろいのだけど、今回はアメリカの大学についての本。
氏が博士号をとり、東大で教鞭を取る少し前に経験したアメリカの大学のことを書く。

90年代に日本の大学にも導入されたTA(Teaching Asistannt)やシラバスの実際、アメリカの大学と比較した日本の大学、教育体験記などで構成される。
TAやシラバスについては、日本の大学教員や学生でも知っている人が多い。
が、アメリカのものをモデルとして導入されたわりに、アメリカ版のこれらは日本のとはだいぶ違う。
特にTAは日本では授業補助アルバイトくらいの位置付けだが、アメリカでは準教員的な位置付けらしい。
大学院生が学部の教育を肩代わりし、博士課程の生活費の足しにするという位置付け。
当然授業もやるし、成績もつける。
大学教員の教育業務に対する教育機会という役割を持つ、というのもおもしろかった。
よって、研修制度も整備されている。
一方で、大学教員の教育業務を安価な労働力で代替する、という側面もあり、いかにもアメリカ的だななぁと思った。

シラバスについても日本に導入されてかなり経つためよく知られている。
ただ、これについても日本のものとだいぶ違うよう。
シラバス作りが授業準備の中心を占める、というのは日本とはだいぶ異なる。
アメリカの大学は、学生側にも授業に際しかなりの予習を課すため、各回のテーマや予習として読むべき本、その入手方法まで含むという。
学生との契約、事務連絡的な性格に加え、学術情報、学習指導書的な性格を持つ文書である、というのは日本とはだいぶ違うと思った。
他にも、アメリカ流の大学の考え方がいろいろなところに埋め込まれていておもしろい。
大学人や大学生、その他大学に興味がある一般の方にぜひ読んでほしいと思った。

この本の魅力はもう一つ。
著者が実際に大学院生に向けて行った授業の体験記が描かれており、これがおもしろい。
1989年、ノースウェスタン大のサマープログラムにおいて大学院授業を担当した時の話。
サマープログラムとは夏休みに行う授業のことで、社会人の学び直しプログラムの性格も持つ。
氏は教育学の専門家であるから、アメリカと日本の教育システムについての授業を開講。
大学院生に加え、現職の校長や教員が夏休みを利用してコースをとり、その時の様子を紹介していくというもの。
学生の様子や学ぶ姿勢、授業の展開の仕方が日本とは大きく異なり、おもしろかった。
この辺りは、大学教員だけではなく、大学以外の教員として働く人にも参考になる内容。
日本とは違う部分に参考になるところがある。
ぜひ読んでみてほしい。

日本の大学制度は、改革改革で、ここ30年で大きく変わった。
その改革において、よく参考にされるのがアメリカの大学制度である。
ただ。
この本を読むと、大学制度というのはその社会・文化に根ざして作られている、というのがよくわかる。
よって、そのことをあまり考えずに制度を異なる社会・文化に入れると間違うなぁ、というのを随所随所で感じた。
その辺りも含め、様々な人たちに広く読んでほしいと思った一冊。
なお、イギリスの大学についての本もいくつか読んだが、これはアメリカとはまたかなり異なると感じた。
こちらについてもいずれ本を紹介しようと思っている。

ではまた。




岡山駅にて。

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2023/09/18 20:13
今日より真の夏休み。
横浜にて。



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Update 2023/09/18
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