週刊雑記帳(ブログ)

担当授業や研究についての情報をメインに記事を書いていきます。月曜日定期更新(臨時休刊もあります)。

大学教育の問題 その3 時間以外編

前回は大学教育の問題について、時間の観点から書いた。
今日はそれ以外の観点から書いてみる。
時間の話と全く独立の話ではなく、主には時間配分で教育以外のことに時間を使いたくなる要因が存在する、という話。

評価の問題

大学教員は研究者である。
その評価は研究で決まる。
いくら質の高い教育をやったところで、職業人としての評価は研究でなされることになる。
特に転職の際は、この要素が大きい。
大学教員は転職を繰り返してキャリアアップしていくパタンが多いため、研究に時間を割くモチベーションになる。
組織によっては内部昇進も含め、教育が評価されることもある。
ただ、この場合も、質の高さが評価されることはほとんどない。
せいぜい、担当した科目やその数くらい。
なぜか。

これは、教育の質、というものを評価することが難しいから。
おそらく客観的に数値評価することは不可能であろう。
それに対し、研究の場合、質はともかく数については出版論文数という形で評価しやすい。
評価には一般的にそれがしやすいものとそうでないものがある。
そして、評価しやすいもののみが注目されて大きく評価されるということになる。
こういうわけで、研究論文の数という部分が過大に評価され、それ以外のものは評価されにくくなる。
研究については、論文という可視化された成果物があるため、時間をかければ質の評価も可能である。
しかし、教育について、成果を可視化することがほとんど不可能なため、それもできない。
このため、教育の質向上に時間を使った者は評価されづらいし、ここに時間を使うことは一切の個人的利益につながらない。

ここに時間を使うためのモチベーションは、教育哲学とか理想とか義務・責任感とか、評価以外の軸によることになる。
ただ、現在、研究業界は競争がとても激しいため、そういう人間は下手すると淘汰されかねない怖さを持つ。
評価の厳しさは、この記事を読んでいただければ、わかるかと思う。
この辺り、研究一辺倒な評価を改め、研究以外の多様な仕事があることを認めるなど、業界全体の意識改革が必要だと思っている。

アイデンティティの問題

大学教員は専門家である。
少なくとも、なった当初、その多くは一線の研究者。
研究業界は競争が激しいので、そうでないとなかなか大学教員になれない。
また、それがゆえに、一線の研究者であり続けるり続けるためには研究に打ち込み続ける必要がある。
これと教育が両立するタイプの人もいるものの、これには置かれた環境と当人の能力の両方が必要。
やはり、研究以外に時間を費やした分、競争には不利に働く。
これが研究ができないくらいまでに過ぎると、研究者というアイデンティティに影響する。

まあ、これは仕方ない問題で、解決はなかなか難しい。
大学教育が研究(もしくは一線の実践)と同居することで成り立っていることから考えても、両者のバランスを考えながら組織経営を行うくらいしかないと思う。
研究時間が全く取れないくらい教育業務を割り振れば、研究のために教育を犠牲にする教員は一定する出てくるというのはやむ得ないと思っている。
そして、そういう大学教育の現場は増えてきている。

まとめ

とまあ、大学教育の現場にいる者として、雑観を書いてみた。
大学も多様なので、全ての大学で当てはまるわけではない。
が、時間の問題や研究・評価の問題は多くの場合で共通していると思う。
そういうわけであるから、時間の問題、評価の問題を解決しないことには、大きく大学教育がよくなる、ということはないように考えている。
研究業績評価主義の背景には、研究業界の過当競争に根本的な問題があるため、なかなか簡単ではない。
そんなことを考えながら、僕自身は経営者でもなんでもないので、目の前のできることに向かう日々を過ごしている。

なんだ、じゃあ学生としてどうしたらいいかわからないじゃないか、と思われる方もいることと思う。
そんなことはない。
濃淡はあるものの教育にモチベーションを持つ教員というのは存在する。
授業を聞いたり質問に行ったりを繰り返す中で、どういうタイプの教員なのか見極める。
その上でうまく教員と付き合っていったらいいと思う。
なお、僕は大学教員は多様である方が望ましいと思っていて、教育がやりたい人は教育に重きを置けばいいし、研究がやりたい人はそっちをメインにすればいいと思っている。
大学の教育は研究現場が教育と同居しているところにその特色があるので、講義にあまり力が入っていない研究重視タイプの教員であっても研究指導では大きな学びが得られるということはある。

さて。
もう一つ。
これらの問題を知った上で、国の大学政策を見てみる、というをぜひやってほしい。
大学教育は政治的にも社会的にもよく議論に上がる。
しかし、問題の本質はその議論で指摘されている点にあるのか。
提案されている方法で解決するのか。
今回書いたことをあわせて考えていただき、大学教育の現場の声を聞いていただき、その上で自分なりの意見を持っていただけたら幸い。

というわけで、長くなったが、このシリーズはこれにておしまい。
ではまた。





f:id:htyanaka:20210823215246j:plain 福岡わがふるさとの夏。


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2021/08/01 18:21
休暇中。
Drop In鳥取にて。


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Update 2021/08/01
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