週刊雑記帳(ブログ)

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裁量労働制と大学教員 その1 基本編

大学教員は裁量労働制という仕組みで働いている。
特に国立大学は多くがそう。
ただ、大学教員がこの仕組みを理解しているかというと、そんなことはないように思う。
そこで、今回はこの仕組みについて知っていることを書く。
自分への備忘録としての意味合いもいささか。
ちなみに、僕は弁護士でもなければ専門家でもない。
学内でとある委員会に所属したため、こいつについて少し詳しくなった。
その程度の書き物であることはご承知おきいただきたく。

なお、この制度。
労働者にとって危険があるため、さまざまな制約が課されており誰にでも適用するということはできない。
ただ、使用者にとってはメリットが大きい。
このため、これをいろいろな労働者に適用しようという法改正が議論されることがあるので、今関係ない人も知っておいた方がよいと思っている。

裁量労働制とは

裁量労働制とは簡単にいうと、仕事の進め方や働く時間を上司が指示せず労働者が決めるという制度。
仕事の裁量が使用者(上司)から労働者に大幅に委ねられているため、裁量労働制という。
上司が指示しない代わり、使用者は残業代の支払いをしなくていい。
勤務時間はあらかじめ労使で決めた時間(みなし時間)働いたとみなされる。
多くの国立大学はみなし時間を7時間45分に設定しているため、授業で90分だけ出勤しようが12時間働こうがお給料は変わらないことになる。

研究者にとってはこの働き方は便利。
研究という営みは、どこからが研究でどこからがプライベートか、よくわからないところがある。
職場でこもっていることが必ずしも研究業務が進むことを意味しない。
一気に論文を書き上げてしまいたい時や実験で朝から晩まで作業をしなければならないこともある。
こういう時、自分の裁量で仕事を進められるのはとても便利。
いつでもどこでも研究ができ、気分がのらない時は休むことができる、というのは、研究という仕事では結構大事だったりもする。
よって、研究者にはこの制度、喜ばれている。

裁量労働制のメリット

この制度は労使双方にメリットがある。

まず労働者側。
時間管理されないので働きやすい。
いつ来てもいいしいつ帰ってもいい。
勤務途中の休憩も自由自在。
上司からの仕事の進め方の指示がないのも働きやすくていい。

次に使用者。
こちらの最大のメリットは時間管理と残業代の支払い(ただし、平日の5時〜22時についてのみ)がなくなること。
労基署から怒られる最大の懸案事項が消える。
管理職の仕事が大幅に減るため、そのための人件費も減らすことが可能。

裁量労働制のデメリット

ただ。
問題点もある。

1番は働きすぎを生む可能性が高くなること。
通常、使用者には勤務時間の管理と残業代の支払い義務がある。
時間外勤務は法律や労使協定で上限が決められており、これが残業代の支払いは働きすぎの歯止めになる。
時間外勤務が上限を超えそうで現場が回らなくなりそうな場合、使用者は人員を増やすなどの対応を取らなければならない。
サービス残業などでごまかすと、労基署監督官がやってきて行政指導をしたり、悪質な場合は書類送検刑事罰の可能性がある。
ちなみに法的に決められた上限を超えて残業をさせると、サービス残業ではなかったとしても違法で行政指導や刑事罰がありうる。

このように、一般の働き方の場合、外からの力によって働きすぎに歯止めがかかる。
ところが、裁量労働制の場合これがない。
よって、働きすぎ(過労死)を生みやすい危険な制度ということもできる。
このため、裁量労働制は適用や運用にあたって、さまざまな規制的な仕組みが用意されている。

一方、使用者にとってはデメリットらしいデメリットは見当たらない。
使用者が労働者を管理できなくなってしまうので、労働者や職種によっては合法的にサボられてしまう、というのがあるかもしれない。

裁量労働制の制限

この制度、前述のように働きすぎの危険がある。
また、残業代支払いを免れるために悪用される恐れもある。
よって、そうならないようにいくらか制限がかけてある。

まずは適用できる者が限定されている。
「専門業務型」と「企画業務型」の2種があり、大学教員・研究者は前者。
「専門業務型」が適用できる業務は、この仕組みが必要なものに限られる。
大学教員・研究者だと、研究が主たる業務の教員、研究業務のみの者がこれにあたる。
ちなみに専門業務型裁量労働制で雇っていた労働者に対象業務外の業務をやらせていたとして、専門業務型裁量労働制を無効として実態に合わせた賃金の支払いを命じた判例がある。
エーディーディー事件(大阪高裁)

さらに労使協定を結ぶ必要がある。
労使協定とは労働者の代表と使用者が結ぶ約束のことで、裁量労働制の場合この書面について労基署への提出が必要。
この中で、みなし時間を設定する必要がある。

実際に労働者に裁量がある必要もある。
上司が具体的な指示をしない、勤務時間を指定しない、などがこれにあたる。
たまに教授が助教や任期付き教員・研究員に時間指示(何時までには来て何時まではいるように等)を出していることがあるが、あれは違法。

なお、裁量労働制においても休日勤務、深夜勤務(平日5時前と22時以降)の割増賃金の支払い義務は免除されていない。
これはJrec-Inの記事が役に立つか。

以上、だいたいの概要をつらつら書いた。
次回、同業者に向けて詳しく書いてみようと思う。




羽田空港にて。

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2020/08/23 18:40
今日はいい夫婦の日だってさ。
鳥駅ドトールにて。


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