週刊雑記帳(ブログ)

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データ分析と論文執筆には時間がかかる(研究をしよう38)

卒業研究のスケジュールを考えるで、データ分析は遅くとも11月(1月末が〆切の場合)で終わらせておくように書いた。
ただ。
どうもこのあたりが全然伝わっていないように感じることがある。
そこで、今回はこいつに絞って詳しく書いてみようと思う。

論文執筆、プレゼン資料作りには時間が必要

まず。
単純に、論文執筆とプレゼン資料作りには時間が必要である。
これに2ヶ月ほど見ておいてほしい。
単位のためのレポートを徹夜で仕上げた経験から、3日か、まあ1週間もあればできてしまう気がする学生もいるようだが、まず無理と見ていい。
よほど書くことを訓練してきた学生であっても、フルの論文を書くのは初めての経験。
いろいろなことを確認しながら書くことになるので、1週間で書ける、なんてことはまずありえない。
僕が書くとしても、分析が完璧に終わっていて学会発表等の発表済みで構造が固まっていたとして、草稿で1-2週間、寝かして直しも含めて+2週間といったところか。
それを初めての経験の学生さんが書くわけだから、それ相応に時間がかかる。
まあ、初稿提出までに数週間、そこから直しも含めると2ヶ月はほしい。

初めての卒論。
初稿の時点でもうほぼ仕上がっているということはまずない。
うちの場合だと、真っ赤にコメントが入り、それをもとに考えることになる。
コメントの大半はかなり初歩的なもので、文がおかしい、意味が通らない、論文としての体裁が整っていない、引用へん、などなど。
これらについては、いずれ別に記事にまとめるが、とにかく、真っ赤にところせましとコメントが書かれる。
場合によっては、この本を読んで文の書き方を学べ、この資料を読んで論文の書き方を学べ、なども。
よって、ここからが時間がかかる。

もちろん、プレゼン資料についてもそう。
論文の内容をもとに資料を作るのだが、論文が文中心なのに対し、プレゼンは図が命。
論文のどの部分をどのような効果的な図にするか、これを考えて作成するのはそれなりにテクがいる。
今までの発表とは勝手が少し違うので、ここでも時間が取られる。

それでも、論文執筆・プレゼン資料の内容がしっかり固まっていればいいのだが、卒論生の場合はそうはならない。
よって、さらにここに別の時間が必要になる。
これについては、次の項で書く。

考える時間が必要

ある程度、書く内容が固まっていて、あとは文にするだけ、であれば書く以外の時間はそこまでいらない。
例えば、僕ら(職業研究者)が論文を書くときは、内容をすでに学会発表等で発表していることが多いため、わりと書く内容は固まっている。
この場合は、ひたすら文字にしていけばいい。

しかし、卒論生の場合はそうはいかない。
卒論生の場合、内容について学会にて発表済みということはほぼない。
このため、構造がしっかりしている、分析が完璧、ということもほぼない。
なぜ、学会発表をすると、これらがしっかりするのか。
これは、発表にあたり、内容を精査し、図表で結果を見える化して、考えながら資料を作るから。
この過程で、内容がかなり整理される。

分析結果から、どんなことが言えるのか。
提示した仮説を支持する結果はどれなのか。
結果をどのように提示していったら、わかりやすくロジックが通りやすいか。
メインの結果に加えて、サブの結果から言えることは何か。
仮説を支持できなかった場合、それはどうしてなのか。
思いがけない結果が出た場合、それはどうしてなのか。

予想していなかった研究上の不備はあったのか。
あったとすればそれはどんなもので、結果・結論にどんな影響を及ぼすのか。
それは致命的なのか、改善点は何か、次に研究をするとすればどのようなものが考えられるか。
どんな質問が予想されるか、どう答えたらいいか。
学会発表済みの場合は、実際に他の研究者から質問・コメントをもらっている場合もある。

まあ、平たくいうと、考察、ということになるのだが、これらを一生懸命考える。
考えて考えて考えて、なお考える。
その上で、論の展開・構造を固めていく。
問題点については、可能なものは発表内容に組み込む。
受けそうな質疑については、あらかじめ備えておく。

学会発表ではこういうことをやっているので、発表済みの場合は、これらの内容をひたすら文字に落とし込んでいくだけの作業になる。
書くことについての内容と構造がすでにある程度あるため、時間はその分少なくて済む。
卒論生はこの部分について、論文を書きながら、プレゼン資料をしながら、同時並行でやることになるのでその分時間がかかる。

追加分析の時間が必要

卒論生の場合は、さらに必要な時間がある。
それは追加分析の時間。

卒論生の場合、分析は仮説をもとにごく基礎的なもののみしかしないことが多い。
研究初心者であるため、それ以外思いつかない、といった方がいいかもしれない。
仮説をもとに分析していればまだいい方で、ほとんど何をやっていいかわからずパニックになっているような場合、分析自体が不十分なまま論文執筆・プレゼン資料作成などのまとめ作業に入ることも多い。

しかし。
この場合は、まとめの過程で必ず追加分析が必要になる。
自分の結果から考察したことについて、追加分析をして補強したくなった。
当然やっておくべき基礎的な分析を落としていた。
書きながら結果のおかしな点を指摘され、よくよく調べてみると分析方法が間違っていた。
こういうことは頻発する。

追加分析、再分析、確認の分析、生データの確認、の末に誤りに気づき真っ青、やり直しやり直し。
これらの時間はかなり必要になると思っておいた方がいい。

添削待ちの時間が必要

考えていない人が多いのがこれ。
ゼミ生が複数人いる場合、指導教員に添削依頼を出して、すぐに添削結果が返ってくることはない。
大学教員は、大学生が考えているよりもはるかに忙しい。
1、2、3年生(加えて、大学院)の授業とその準備・採点業務、入試の準備に入試、学内委員会関係、その他諸々のお仕事お仕事お仕事。
年度末は極めて忙しい。
これらに加えて、自分の研究をやっている。
このことは、この辺りにも書いていること。

そんなわけで、単純に時間がない。
添削の依頼を受けても数日、場合によっては1週間かかってしまうことがある。
僕の場合、初稿段階の卒論の場合1人に3−4時間かかる。
ただ、1日のうち3−4時間まとまって時間が取れることはほとんどなく、細切れの空き時間を使ってコツコツ進める。
たまたま、うまいこと時間が取れた場合はすぐに添削結果が返すが、このあたりはなかなかすぐにというわけにはいかない。
最優先で進めるものの、かなりお待たせすることもしばしば。

あと、忘れている学生も多いのだが、一応教員にも休養は必要。
土日休日は休みだし、平日も時間帯によってはプライベートの時間である。
このあたりは意識しておきたい。
前に、学生さんが教員のレスポンスが遅い、と不満を漏らしていて、いつ添削依頼したのか聞いたところ、金曜の夕方に依頼、不満を漏らしていのが月曜日午前中、ということがあった。
それは無理筋だぜ、と説明したら納得して反省していたけど、これはよく耳にする話。
教員だって、家族との時間を大事にする、息抜きをする等の休養時間をとる、というのは必要な時間である。
それも含めて、論文執筆のための時間を計画しておきたい。

寝かす時間、ゆっくり考える時間が必要

ラストはこれ。
書いたものって、意外と寝かす時間やゆっくり考える時間が重要である。
これに1−2週間くらい使いたい。

書き終えて、読み返していると、パッとアイディアが降りてくることがある。
これが思いがけない追加分析と発見につながるというのはある話。
そうでなくても、ふとした瞬間に構成のアイディアが浮かんできて手直しする、というのはよくある。
うちの卒論生でも、早く仕上がった組はそれでおしまいということはなく、一応書いたけど納得いっていない部分、について寝かしながら考えて修正する、というのはよくやっている。
この、書いたものを寝かす時間、ゆっくり考える時間、というのは、結構必要な時間だと思っている。

この時間、僕も自分の論文については意図的にとる。
なお、週間雑記帳ですら、寝かす時間は可能な限り取るようにしている。
おそらく、全ての書き物を熟成させるために必要な時間だと思う。



と、いうわけで、今回はここまで。
卒論生・修論生のみなさまは、初期の段階でくれぐれもこの辺りをしっかり意識していただいて。
では、また。




旅をしていたら遭遇した、いつぞやの出雲おろち号。
出雲坂根駅か。

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2024/02/13 13:20
3連休延長戦。
川崎駅タリーズにて。



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Update 2024/02/13
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