週刊雑記帳(ブログ)

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教科書・副読本探しの大変さ(教育奮闘記9)

大学教員をやっていて結構大変なことの一つに、教科書・副読本探しがある。
そこで、今回はこのネタで1本書いてみる。
これね、皆さんが思っているよりも、手間がかかっている大変な作業なのです。

大学生ともなると、授業だけで学習が完了、とはならない。
文科省の省令(大学設置基準)で定められているように、大学の単位は授業時間+授業時間の2倍の自学時間が想定されている。
当然、授業の資料以外に本を使って自分で学ぶことが求められる。
大学の授業というのは、高校までのそれとは違い、内容を授業だけで伝えるのは難しい。
分野を網羅的に扱う場合はどうしても表面的な内容にならざるを得ず、授業からもれる内容も出てくる。
一部内容を深く扱う場合は、分野を網羅的に扱えない。
これらの内容の決定は、それぞれの大学教員が自身の知識をもとに行う。
学問の最先端の内容のため、学者間で何が大事なのか見解が一致しないため、どうしてもこうならざるを得ない。
これについては、 授業の内容は教員によって違う(大学生のための学び方入門6) 授業はきっかけと心得る(大学生のための学び方入門8) にも詳細を書いているので、ここでは詳述は省く。

そんなわけだから、大学においては、本を使って自分で学ぶことは結構重要になる。
ただ、大学生くらいだと、本を選ぶのが難しい。
内容が正しいか、妥当か、レベルが合っているか。
これらの判断はある程度分野のことを知っていないとできない。
そこで、僕の授業では教科書になりうる書籍や、副読本系書籍を多く紹介するようにしている。
おそらく、教育に力を入れている教員はこれをやっている人多いのではないだろうか。

さて。
ここまでが序論。
ここからが本論。
授業で書籍を紹介する、というこの行為。
大学教員以外から見ると大変簡単なことのように思われがちだが、実は結構大変。
大学教員は研究者・専門家なんだから、日常そういう書籍を読んでいるだろう、と思われがち。
しかし、これは違う。
研究者・専門家は知識を得るために大学生向け教科書・副読本を読むことはあまりない。
どちらかといえば、自分の分野の論文や専門書によって最先端の知識を得ているので、教科書系書籍・一般向け書籍を教育目的(学生に紹介する、授業を作る)以外で読むことはあまりない。
研究ばかりやっていて、教育をしていなかったり一般向けの講座を持っていなかったりするバリバリの研究者は、教育目的の書籍はノータッチ、ということはよくある。
ド専門の分野について教育目的で書かれた本の内容については、そもそも熟知していることが多いのでどうしてもそうなる。

そういうわけだから、大学教員が教科書・副読本の調査を行う場合、研究等の専門業務とは別にわざわざ読む、ということになる。
じゃあ、なぜそういうことをするのかといえば、学生さんの側で選書するのが難しいと思っているから。
教科書として書かれた本、一般向けとして書かれた本であれば、すべて同じような内容になるかといえば、そうはならない。
前述の通り、大学教員の考える教科書的内容は教員によって異なるし、レベルも各々の書籍によって大きく異なる。
中身を読んでみて、これはわかりにくいなぁ、とか、専門書レベルだなぁ、と感じて勧められない場合もある。
ひどいのになると、内容に誤りが多くあり、有害ですらある場合もないわけではない。
これを、スクリーニングするために、日々読んでいくことになる。

大変なのは、これが永遠に続くこと。
大学教える内容は最先端の知識なので、内容は研究の進捗や国の制度、社会的な変化等々により、日々更新される。
自分の考える授業科目の内容も日々変化する。
これに合わせて、適切な書籍を選び直す必要が出てくる。
また、本は結構頻繁に、絶版になる。
せっかく、いい教科書・副読本を選んだのに、何年かしたら絶版で手に入らない、みたいなことが出てくる。
教科書指定の本がそういうことになると、また一から選び直し、ということに。
そして、コレ、わりとある。
新刊もどんどん出るので、それらにアンテナを張って、常にいい本を紹介できるようにもしたい。
と、まあ、教科書・副読本探しの終わりなき旅が続く、ということに。
これらのために使っている時間は、直接自分の研究や専門実務とは結びつかない。
研究者や実務家としての評価だけ考えるとマイナス、ということになる。
それでも、教員としてのアイデンティティを持っていると、これらの行為を大事な職務として考えて時間を使う。

と、まあ、当たり前に紹介されている、教科書やたくさんの副読本たち。
結構大変な手間がかかっているわけです。
こうやって選ばれし本たちなので、学生のみなさん、授業で紹介されている本はぜひ読んでねっていう、ね。

今回はこの辺で。
ではまた。




神宮球場か。


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2022/10/17 19:05
ひきこもり。
自宅にて。


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Update 2022/10/17
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