週刊雑記帳(ブログ)

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独学で心理学を学びたい人のためのガイド〜中級編 その2

このシリーズ、中級編の後編。
専門の心理学を学ぶためには、心理学の各論をある程度の深さで網羅的に学ぶのが大事であることは前回の記事で書いた通り。
これが中級編1本目の柱。
なお、これは別に心理学に限った話ではなく、どの学問分野であっても同様。
特に、ある程度歴史があって分野の知識が体系だって整理されている場合は、この体系的な専門知をしっかりと学ぶのは極めて重要である。
これについては前回に相当詳しく書いたので、ここでは繰り返さない。

今回は中級編2本目の柱について。
このレベルでは、心理学分野の研究や実践のための知識・技能も身につけたい。
そして、独学で学びたい人が学ぶのを忘れがちなのがこの部分でもある。
心理学部や心理学科を志した人も、この内容について入学前から知っていた人あまり多くなく、入学後に用意されていたカリキュラムによって初めてその存在に気づく、ということが多いのではないだろうか。

そもそも。
その分野の専門性を大学で深めるということの先には何があるのか。
どの分野でも、ゴールに卒業研究や大学院での研究活動がある。
つまり、教科書に載るような知識を作る、その活動を最上級に位置づけている。
分野の専門性を大学で身につけた後、その後のキャリアにおいて研究活動とどう関わるか、については分野ごとにばらつきがあるものの、職業人としてその分野で働きながら、研究活動も行う、という分野はわりとある。
例えば、医学系であれば一定数の臨床の人が研究もやっているし、工学・技術系でも企業の技術職の人が研究発表していることはよくある。
これは、教育業界も一緒で、学校には研究部があって研究活動を細々とやるし、学会発表に学校の先生が出てくることもよく見る話。

心理学についてもこの傾向は強い。
自分が研究をせずとも、教科書ではなく専門書や研究から新しい知見を学んで日々の活動に活かすというのはよくやられている。
もちろん、職業研究者ではない心理学分野で働く職業人が、自分の仕事に関連して研究を進めることもよくある話。
つまり、心理学分野の専門性を身につけるということは、研究についての知識・技能を身につけるということでもある。
このことについては、専門外の独学の徒はなかなか気づくことができない。

加えて。
心理学では、実践系の知識・技能というのもある。
心理学の専門学部・学科では、これについての実習科目がかなり手厚く設けられている。
これについては、なかなか独学で補うのは難しく、自分の中でこの部分は弱い、ということを意識しておく必要がある。
実践的な知識・技能については、助言をくれるエキスパートが身近にいて、手を動かしてみたことに対して直に指導がないと身につけるのがかなり難しい。
僕は実践家ではないので、この部分についての独学の方法は残念ながら持ち合わせないので、紹介できない。
しっかり書籍で学んだ上で、そういう現場のアルバイトなどを見つけてきて、意識して本職に教えを乞うくらいしか思いつかない。
書籍については、臨床心理学系の教科書から、心理アセスメントや療法系の専門書に行き着くことができる。
が、書籍だけではどんなにがんばっても専門技能は身につかないということは頭に置いておきたい。
実践系は間違うと人を傷つけるだけに、現場か専門教育の場で詳しい人から直に教えてもらわないとコワイ、ということは意識しておきたい。

そんなわけで。
研究や実践の知識・技能について、その学び方について、いくつかにわけて学び方を書いていく。
なお、実践系については、基礎的な能力以外は書かない。
前段落にわずかに書いてあるので、そこを参考にしていただいて。

心理統計

実践や研究の基礎としてかなり重要なのが、心理統計。
これは心理学の専門外の人には見落とされている点。

当たり前のだが、教科書に書いてある内容にはしっかりとした心理学研究が存在する。
これは概論系から専門各論系まで、すべてに当てはまる。
心理学研究では心について平均像を探し出し、それらについて記述をするものが多い。
多くの心理学を学びたい人が知りたいことも、平均的、一般的な心理学的特性なのではないだろうか。

ここで問題が起こる。
心理学では、その研究対象は心という曖昧なものである。
そして、その性質には必然的に多様性が存在する。
つまり、扱う研究対象のばらつきはもともと大きいことが予想されている。
すると、データから得られた平均値のような値が、ばらつきの中で偶然生まれたものたのか、そうではなくなんらかの意味を持つものなのか、その見極めが必要になる。
こういった問いに対して、有用な道具立てとなるのが統計学
その他にも、Aという心理特性とBという心理特性の関係、とか、どの程度ばらつくのか、とか、数字にどのようにまとめることができるのか、など、統計学が道具として使える場合はかなり広い。
もちろん実践系でも広く使われている。
こういった、統計学について、心理学でよく使うものを体系的にまとめたのが心理統計という科目である。

この科目は非常に重要で、心理学系の大学学部ではこの科目についてわりとしっかりやっているところが多い。
公認心理師のカリキュラムでも基礎科目に位置づけられており、独学の徒もしっかりと学んでおきたい科目。

学び方としては、以下の2段階。

(1)心理統計の基礎を学ぶ

まずは書籍で心理統計のことを知る。
書籍は、心理統計で検索をかけてでてくものが使える。
「よくわかる心理統計」
あたりが古くから読まれている。
その他にも、
「心理学統計法 (公認心理師の基礎と実践)」
「心理学のための統計学入門」
なんかも、書いている人からみて悪くなさそう。
(ただ、内容を熟読してないので、そこまで良し悪しは判断できない)


僕のゼミで心理統計を学ぶ時は、上記の本ではなく、以下のやり方による。
まずは基礎として。
「はじめての統計学」
「入門はじめての分散分析と多重比較」
論文読みと並行しながら、論文で出てくる統計的記述の「わからない」をモチベーションとして、上記2冊を読む。
内容は心理統計ではないものの、平易でわかりやすいため、教材としてはこちらを使っている。

その上で、さらなるトピックとして、以下をすすめることが多い。
「伝えるための心理統計: 効果量・信頼区間・検定力」

さらに、論文を読みながらわからない統計手法について、以下のシリーズ・本で学ぶ。
心理学のための統計学シリーズ
「SPSSとAmosによる心理・調査データ解析 第4版―因子分析・共分散構造分析まで」

(2)心理統計の技能を身につける

世の心理学系では、統計学の書籍による理解、だけではなく、道具として実際に使用できるところまで教育することが多い。
具体的なデータを実際にソフトを使って分析する、その技能を身につけるということ。
僕はこの辺はあまり重視しておらず、卒論をやる段階で身につければいいと思っているのだけど、世の心理学系大学学部のカリキュラムとしてはそうはなっていない。

身につけ方としては、そのタイプの演習本をひと通り試してみる、というのがよいか。
分析ソフトとしては、SPSSとRという2つがあり、それぞれについて教科書が出ている。
SPSSの方が楽チンだがソフトウェアが高価、Rの方がプログラミング的でとっつきづらいが慣れると楽で無料、という特徴がある。
心理統計の専門家はRを勧めることが多い。
「Rで学ぶ心理統計」とか「SPSSによる〇〇分析」のような本が世に出ているので、それを使うと学べる。
「ソフト名 心理統計」でAmazon検索をかけて、基礎っぽくて評価のよいものを選ぶとよいか。

心理学研究法について知る

研究論文を読んだり書いたりする上で重要なのが心理学研究の方法論。
心理学ではこれがしっかりしており、早い段階でこれを知っておきたい。
各論心理学を学ぶ上でも、どうやって調べられた知見なのかを知ることは、学びや知識に深みを与える。
また、卒業研究を進める上で、方法論を知らなくては着想にすら至らない、というのは言うまでもないだろう。
そういう理由からか、公認心理師のカリキュラムでも基礎科目として心理学研究法と心理学実験が位置付けられている。
心理学専門の学部教育では、これらについて座学で学ぶだけでなく、実習や演習形式の授業も用意していることが多い。

どうやって学ぶのか。
オススメは、以下の1冊。
「心理学研究法 (ライブラリ心理学の杜 3)」
これをまずしっかり読む。
その上で、必要に応じて各方法論別に書かれた本に進む。
だいたいは、方法論だけでシリーズ化されているので、シリーズの中から各方法論についての本に行きつくことができる。
古くから読まれている本だと、以下。
心理学マニュアル・シリーズ
最近のシリーズだと、以下がある。
心理学ベーシック「なるほど!〇〇法」シリーズ

論文を読んでみる

ここまで書いた、心理統計と各種方法論。
これを実践形式で読めるのが研究論文。
心理統計にしろ、各種方法論にしろ、研究において必要だから学ぶ、という側面が大きい。
なので、これらについて学びながから、研究論文をも読んでみる、というのは有効な方法。
心理統計にせよ、方法論にせよ、教科書で読んでいるだけでは道具として使う、という部分がイマイチよくわからない。
具体的なイメージがわからないから、学び方も浅くなってしまいがちだし、モチベーションもわかないとなってしまいかねない。
これを避けるためにも、心理統計や方法論を学びながら、同時並行で研究論文を読んでみる、というのはオススメ。
実際こういうふうに使うんだね、というのがわかると、がぜん勉強が楽しくなる。

なお。
この段階では論文は検索かけて連れてくるよりは、各論・概論などの教科書で引用されているもの、紹介されているものを選んで読むのがいい。
論文には良し悪しがあって、中級段階だとその見極めができない。
統計や方法論を学ぶという目的では、プロのセレクションが入った良質な論文の方が有効。



残りは上級編。
いつ書くかはわからない。




オレ。
鳥取市内にて。


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2024/11/25 11:36
コーヒーを飲みながら。
川崎市内にて。



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Update 2024/11/25
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