週刊雑記帳(ブログ)

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大学教員公募戦線物語(大学教員・研究者という生き物7 )

前回、大学教員の就職について書いた。
今回はそいつをもう少し詳しく書いてみる。
優秀なら就職できるんじゃないの?と言う問いにも答えたい。

まず、採用の方式。
大学教員になるには大きく、公募による方法と公募によらない方法がある。
公募によらない(コネ採用)も行われていたらしいが、現在は少なくとも国立では絶滅に近く、ほぼ公募によると思っていいと思う。

まず、公募でない採用方式について。
よく知られているものに一本釣り方式と呼ばれるものがある。
一昔前まではやられていたと聞くが、最近は国立大ではあまり使われない。
どんな方式かといえば、とりたい人に狙いを定めてヘッドハンティングのように口説き落として採用するというもの。
○○研の××さんが今年修了だからうち来ないかなぁ、なんてのもこれの亜種みたいなものか。
ここまでくるとコネの要素が強くなる。
ただ、こういうのはどんどん減っている。
就職の競争が激しくなってきたので、機会均等という観点から業界人に嫌われたのだと思う。

で、メインになったのが、公募による方法。
ある分野の教員が必要になった場合、研究分野や担当授業等を公表して公募を行う。
文科省系の独立行政法人がやっている大学教員向け就職サイトみたいなものがあって、そこ経由で世の研究者に知らされる。
このサイトは研究分野ごとにメール登録できるので、公募があるとメールで内容が届く。
僕のところにも心理学やら脳科学やら特別支援やらの公募情報が毎日届く。
これをもとに、ああいいな、と思ったものに応募する。
任期付きや新卒就活のため、就活に期限が切れている場合は、選んでいる場合ではなく、マッチすればどんどん出していく、ということになる。

公募で求められる書類は大学によるが、履歴書、研究業績書と書いた本や論文の現物がだいたい必須。
これに、志望動機や研究計画などなどを要求される。
人によってはダンボール箱一杯の書類になることもある。
これを一生懸命準備して、私費で送ることになる。
時間もさることながら、経済的にも、収入がない新卒や薄給の非正規には結構つらい。
ちなみに落ちるときは益々の活躍を祈るA4の紙が一枚だけ届く。

送るとまずは一次書類審査が行われる。
審査員が各種書類の内容と論文等を精査し、ほしい人をいく人かピックアップする。
この人たちについては大学に呼んでプレゼンやら面接やらの試験を行う。
昔の国立だと書類のみでパスすることがあったらしいが、最近ではあまり聞かない。
変な人を取るとあとあと面倒なので、しっかり人物を見る。
ここで最後まで残った人が採用、となる。
私立なんかだと、この後に役員面接とかそういうのを経ることもあるらしい。
たいていの場合、採用されるのは1人だけ。
出しやすい公募の場合、応募者は3ケタになることがあるらしいので、どのくらいの倍率かはおわかりいただけるだろう。

で。
問題なのは、ほしい人というのはあくまで組織側の都合として決まる点。
これが、必ずしも優秀な人、とならない。
研究だけバリバリやっているザ・研究者なタイプは研究業績の一番優れた人が採用されるべきと考える人がいるが、これは今後もそうはならないと思う。
公募が出される場合、組織の側にはほしい人像が存在する。
○○分野の××ができる人で、職務としての研究をこの程度、教育はこれくらいで、他にこんなことができてほしい、みたいなおぼろげなイメージが採用する側にある。
このイメージは理想の教員像ではなく、今いる人達の特性で決まる。
この分野が薄いから補強したいとか、この分野の研究を今いる先生と協力して進めてほしいとか、そういう組織の論理が必ずある。
雑用できる人が少なくて困っている場合は、そういうのを回せる人というのもあるかもしれない。
ところが、これらは公募の条件に載らない。
客観的でなくて数値化できない上に組織内でイメージを共有できてないことも多いので、載せようがないと言った方が正しい。

すると、研究論文の数は多いけど分野が少しずれた応募者が、分野はドンピシャだがマズマズの研究業績の応募者に負ける、と言ったことが起こる。
まだ研究分野ずれくらいならいい方で、やってもらう仕事の比率で研究の割合が少ないから、研究業績が立派すぎるので落とす、というパタンすら起こる。
研究だけしたい人を研究できないポストに採用したところで、こちらが望む仕事をしてもらえないか、すぐ出ていかれるか、不満たらたらな組織員が増えるか、なだけ。
これを警戒する。
ミスマッチは誰も幸せにならない。
まあ、優秀さってそんなに簡単には測れないってことの裏返しとも言えるのかもしれないが。

採用されるのが1人だけ、というのも運の要素を強くする。
どんなに優秀であっても、たまたますごい人が1人応募していたらやはり受からない。
公募は現役バリバリの転職組も応募するため、そういうことは起こりうる。
かくして、自他共に優秀と認める人であっても落ちることがよくあるという仕組みになってしまう。
就職活動とはお見合いのようなもの、とはよく言ったもので、うちの業界も最終的にはそこに落ち着くのだと思う。

ただ、研究者が大学での就職・転職を目指す場合、出来ることといえば研究業績(出版した研究論文)を増やすことくらいしかない。
教育力やその他の能力は客観的に書類上に表現できないので、必然的にそうなる。
だから、一生懸命研究業績を増やす。
でも、採用はそれ以外の要素に左右されやすい。
これは業界外の人にはなかなかわかっていただけないのだが、ホントにしんどいのだ。

まあ、そんなこんなの大学教員の就活裏話でした。




松江にて。


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2019/06/06 8:02
出勤前。
ドトール鳥取駅にて。


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Update 2019/06/06
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