SNSで「難しい言葉をいっぱい言うのは簡単」「わかりやすく伝える方が頭良い」というのを見た。
有名人の投稿だったので、結構注目を集めていたよう。
なるほど、確かに!みたいな反応が多かったか。
さっそく、知り合いの学生さんが、これを引き合いに出してなんやかんや言っていた。
さて。
これは正しいのだろうか。
そうすると難しい言葉は何のためにためにあるのだろうか。
そもそも頭の良さってなんだろうか。
一応僕は心理学もちょっとだけ詳しいので、これについて書いてみようという気になった。
まあ余興、お遊びの類。
まず、頭の良さからいこう。
頭の良い人、とはどんな人なんだろうか。
勉強ができる人?
理解力の早い人?
難しいことを知っている人?
ひらめきのすごい人?
いやいや、記憶力?
コミュニケーション能力お化け?
よく気付ける人、なんてのもあるか。
そして、冒頭の説明が上手な人。
並べてみると、実にたくさんの頭の良さ的なものがある。
実はこの「頭の良さ」、曲者である。
おそらく、人によって「頭の良さ」の意味が大きく異なり定義できない。
この辺りは心理学の知能とは何か論と似ている。
心理学において、知能とは何か、は心理学者間においても定義が多様で一致しない。
知能、という概念自体がつかみどころがなく、何とでも定義が可能だから、というのが原因。
これは、おそらく「頭の良さ」とほぼ同じ。
例えば。
その場で、パッと新しいアイディアを思いつく能力。
その場では全く思いつかないものの、時間をおくと誰も考えないようなアイディアを思いつく能力。
斬新なアイディア自体は思いつかないものの、他人の出した思いつきをもとに穴のないプランに詰めていける能力。
いずれも、「頭の良さ」を示す能力だとは思うものの、それぞれは別の能力で、それぞれに長短をつけるのが難しい、というのは「頭の良い」読者であればわかるはず。
難しいことを簡単に説明できる能力、も確かに頭の良さの一つであることは否定しない。
ただ。
「わかりやすく伝える方が頭が良い」かというと違う。
ここまでに書いたように、他の能力と比較してこちらの方がより頭の良さを規定するというのはわからない。
おそらく、それぞれは独立した能力で、比較可能なものではない。
特に、「難しい言葉を言う」よりも「わかりやすく伝える」が頭が良い、という部分はこの色合いが強い。
理由は、主には以下の2点。
まず。
思考は言語にしばられる。
これは心理学をやっている人ならご存知のはず。
言語が内面化したものが思考、というのが教科書的な説明。
どんな言語を操れるのかは、個人の思考を規定する。
つまり、難しい言葉を知っている人、使える人は、それだけ操れる思考の道具が多様で、思考も深く多様になる。
これが「頭の良さ」と関係しないわけがない。
そもそも、なぜ難しい言葉、なるものが存在するのか。
それは、難しくない言葉で表現するよりもその方が楽だから。
かなり分量が必要な説明がたった一言で済む場合がある。
その分、別の説明に時間を使うことができる。
難しくない言葉で表現するとニュアンスが難しかったり正確さが犠牲になったりするから難しい言葉が必要、というのもある。
便利だから難しい言葉が存在するわけ。
なお、難しい言葉を言う人は、難しい言葉がわかる人であることが多い。
これは、難しい言葉のまま難しいことを理解できる人、ということでもある。
これらのことは「わかりやすく伝える」能力とは独立で、これらが「頭の良さ」と関係ないと考える方が無理がある。
頭の良さとしてどちらが優位か、これを問うのがナンセンスであるのはわかるであろう。
問題点の2点目。
「わかりやすく伝えられる人」が必ずしも難しい言葉を理解する能力を有しているとは限らない。
当たり前だが、人は自分の操れる言語能力と理解力の範囲で物事を理解して思考する。
これは、難しいことを理解した上で「わかりやすく伝えている」のではなく、さほど難しくないようなもののみを理解した上で「わかりやすく伝えている」だけの可能性を生ずる。
わかりやすく伝える能力と難しい言葉を操る・理解する能力は別物なので、当然そうなる。
薄っぺらい知識についてわかりやすく伝える能力を、頭が良い、かと問われると、僕はあまりそうは思わない。
そんなわけなので、「難しい言葉を操る能力」を侮ることなかれ。
その過程で「難しいことをいっぱい言う」は出てくると思うけど、決して簡単なことではない。
もちろん「わかりやすく伝える能力」はこれはこれで高度な能力ではある。
「頭の良さ」としては、どちらも独立であり、どちらも大事だよ、というのが結論であり、言いたいこと。
なお。
頭の良さってのはね、こういう一見正しそうなものに簡単に騙されないことについても含まれるのではないだろうか。
まあ僕は、「頭の良さ」なる概念が、いまいちよくわかってないないのだけれども。
余興的お遊び記事はこれでおしまい。
ちなみに、冒頭の発言をした有名人、僕はわりと好き。
そこんところ、勘違いされないよう。
ではでは。
また。
とある雪の日の鳥取市内。
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2024/02/11 15:46
卒論提出ひと段落記念、大休養旅行。
南町田タリーズにて。
Update 2024/02/11
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