1945年春。
東京大空襲から半月ほど過ぎた頃、沖縄戦が始まった。
4月に米軍が沖縄に上陸、6月に事実上沖縄から日本軍が消滅。
その悲惨さは耳にしたことがある人も多いと思うが、ちゃんと知らない、という人もまた多いのではないだろうか。
この本は、そんな沖縄戦について、その始まりから終わりまで、当事者視点を交えながらなぞった新書。
著者の大田昌秀さんは、1990年代に沖縄県知事をやっていた人。
沖縄県知事としての印象が強い人も多いことと思う。
元々は社会学者で、琉球大学の教授をやっていた。
この本は、その琉球大学在籍時に書いたもの。
沖縄返還の年、1972年に発刊された。
この本がおもしろいのは、大田さん自身が沖縄戦の体験者であるところ。
学者として第三者的な視点から書かれた他の本とは一味違う。
大田さんは元々沖縄県の生まれ。
沖縄師範学校(現在の教育学部)に在学中、軍に組み込まれ、一兵卒として従軍した経歴の持ち主。
千早隊という情報部門の兵士として、軍内情報伝達を担って戦った従軍記に、学者らしい客観的な事実を交えて、沖縄戦を描く。
戦争以前の沖縄が持つ歴史、本土との関係などの背景情報も適宜提供され、興味深く、一気に読み進めることができた。
本格的な戦闘が始まる前、戦闘中、その末期。
社会はどのような空気感であったか、戦場はどんな感じなのか、そういったことが生々しく伝わってくる。
民間人も巻き込み、県民の実に4分の1人が亡くなった、壮絶な沖縄戦を振り返ることができる名著。
戦争の本質を知ることができる。
戦争を肯定する時、そのリアルをあまり意識せずにその意見を持つことが多い。
が、そのリアルを知ると、戦争に対する見方はまた違ったものになると思う。
おそらく、戦争を経験した先人たちは、そのリアルを知って欲しくていろいろと書き残している。
この本も、そういった大田さんの想いを汲むことができる。
なお。
基地問題で沖縄がフォーカスされることも多い。
冷笑をもって基地問題に対する県民の声を受ける県外人もよく見る。
ただ、この前史を知っても同じような態度が取れるだろうか。
無知は罪とはよく言ったもので、ちゃんと知った上で、沖縄の基地問題を考える必要があると改めて強く思った。
内容についてはあえて詳しくは書かないが、読んで損はない本。
現代の日本を生きる者の教養として、読んでみてはいかがだろう。
では、今回はこの辺で。
また。
ニコタマの河原でボーッとしながら撮ったやつ。
たぶん。
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2024/04/29 17:27
GWだけれども。
職場にて。
Update 2024/04/29
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