前回までに、学会の概要、発表の種類について書いた。
今回は、大学生(一般の人)の学会の楽しみ方について。
結構いろいろな楽しみ方がある。
卒論のネタを探す
大学生にまずおすすめなのがコレ。
ゼミなどで論文の探し方については学ぶ。
ただ、論文は読むのになかなか時間がかかる。
このため、数が稼げずテーマ選びに時間がかかってしまう。
また、知らないテーマのことはそもそも調べられないので、新しいテーマと出会うのは難しい。
このような問題について、学会はとても役にたつ。
参加して会場を歩き回って、発表を聞きまくろう。
卒論のネタを探すのが目的なので、とにかく見まくる聞きまくるのがよい。
特にポスター発表はおすすめ。
ポスター会場をすみからすみまで歩き回って、タイトルを眺めてみる。
その上で、おもしろそうなポスターをいくつかチェックしておいて、内容をじっくり見てみる。
大学生くらいだとよくわからないことも多いと思う。
そういう場合は、発表者に大学生で卒論のネタ探しに来た、説明してほしい、とお願いしてみよう。
おそらく、大学生のレベルに合わせてていねいに教えてくれることと思う。
ある程度、分野やテーマが絞れている場合は、その他の発表スタイルも役にたつ。
参加前にプログラムを見て、参加するセッションをチョエックしておきたい。
特にポスター会場以外は、当日探すと見たいものに気づかない場合がある。
事前にチェックしてスケジュールを立てておくと最大限楽しむことができる。
発表を聞いたら。
発表のタイトルと著者名をメモしておく。
抄録が公開されていることがほとんどなので、後で内容を振り返ることができる。
著者名とタイトルは後で関連情報を調べるのにも使える。
卒論のネタ探しなので、後で振り返れないというのは意味がない。
この辺のことは、次回詳しく書く。
卒論のテーマが決まらない!
何に興味があるのかさっぱりわからん!!
こういう学生さんは、一度学会をのぞいてみるといい。
知的好奇心を満たす
そもそも学会の存在意義はこれが大きい。
同業者が行なっている、今まさに明らかになりつつある最新の知見に触れて、ゾクゾクする。
これは大学生でも味わうことができる。
どんな問いで、どうやって調べたのか。
どこが新しくて、どのあたりがすごいのか。
これらのことが発表でわかると、おおお、まじか、すげぇとなることがある。
研究者でなくとも、これは味わえる。
大学生だと、そもそも研究の実際を知らないことが多い。
なので、それらに触れるだけでも知的好奇心が刺激される。
「おもしろい!」と感じることができるだけで、学会に行った意味がある。
学問の本質は純粋な知的好奇心、だと思っている。
各種研究技術を鍛える
研究では、問いの立て方、方法論、まとめ方、ロジカルな構成力、発表技術、質問力などなど、さまざまな技術が必要となる。
研究で必要な各種技術については、研究をしようシリーズを一から読んでいただいて。
学会では、これらの技術を鍛える、ということもできる。
例えば発表。
上手な発表は大変参考になる。
こういうのを見ておくだけでも勉強になる。
知らない方法論について、発表でざっくり知って、残りは後で調べて勉強、みたいなこともできる。
図の作り方、表の見せ方などは、見れば見るほど良し悪しがわかるようになる。
たくさん発表を眺めると、よく出てくる方法論などもわかるようになる。
帰ってから勉強してその方法論を押さえておく、なんてこともできる。
チュートリアル・教育講演のように、技術伝達が目的のセッションもあったりする。
このように、参加していろいろと聞くだけでも研究で使う各種技術が鍛えられる。
しかし。
なんといっても鍛えられるのが、質疑。
質問を一生懸命考えて、質問をしてみる。
これはかなり力になる。
質問については別シリーズにも書いてある通り。
質疑については特にポスター発表がおもしろい。
質問をしてその回答を聞いていると、それを後ろで聞いていた別の参加者が「でもさぁ、ここは〇〇ってことはないんですかね?」みたいな質問が飛んでくる。
これらのやり取りを聞いているだけで勉強になるし、内容の理解も深まる。
最初はわからないところと聞く、というだけでもいいので、ぜひ質問をしてみたい。
なお、いい質問、というのは発表者に残るもので、学会で一度すごい質問くれただけで印象に残り続ける場合がある。
学問の広がりを知る(就活に活かす)
わりと欠けがちな視点がこれ。
でもこれ、結構大事だと思っている。
学会にはその学問に関連するあらゆる研究テーマが並んでいる。
基礎研究から応用研究まで、自分の研究テーマや知っていることからかけ離れたさまざまな分野があることに気づく。
心理系だと、実験や質問紙を用いたゴリゴリの基礎研究もあるが、保育、教育、医療に関連した心理学の応用研究もある。
と、ここまではなんとなく知っていることが多いのだが、警察や自衛隊の組織の研究があったり、トヨタやホンダといった企業に属した研究者の研究があったりする。
企業や行政、そのほか、色々な分野から研究が出ていて、自分の卒論の分野がどのような職業と結びついているのか知ることができてとてもおもしろい。
研究やその分野はおもしろいのだけど、それが職業とどう結びつくかがわからん、ということについて、少し情報をくれる。
大学院博士課程までは考えていないけど、院の修士課程くらいまで行って、就職先の候補にしよう!なんてことを考えるかもしれない。
そもそも、研究発表者が職業研究者でないことも多い。
現場で働きながら、困り感を研究の形で解消したい、調べたらまだわかっていなかったので研究をしてみた、などなど。
それぞれのモチベーションで、現場の問題を研究という形に落とし込んで発表している。
将来、研究のフィールドに進む気がない人でも、現場で研究という手法を活かす、という働き方を知っておくことは大変意義がある。
社会に出てみるとわかるのだけど、わかっていないこと、問題だらけのこと、というのは多いもので、こういう時に研究が選択肢になる、というのを知っておくのは悪いことではない。
自分の目指している職業についている人の発表を聞いて、現場の問題をどう研究に落とし込んでいるのか知ってみるというのは自分の卒論のモチベーションにもつながる。
ポスター発表だと、ざっくばらんに話ができることも多いので、研究以外でも有益な情報を得られるかもしれない。
大学院の進学先を探す
ちょっと打算的だけど、王道でかなり有効な方法がこれ。
大学院に行きたい、でも、研究室が選べない、という相談を受けることがある。
論文を読む、本を読む、ネットで情報を調べる、というのもいい。
ただ、学会をうまく利用するのも手。
やり方は簡単で、ポスター発表あたりをぶらぶらする。
興味ある発表を聞いて、質疑をする。
それが教員だったら、大学院を考えていて、いろいろ情報を集めている、と言ってみる。
受け入れが積極的な研究室の主宰者だったら、ここで名刺交換となることが多いと思う。
そうでなくても、研究室訪問の連絡をするハードルがグッと低くなる。
気になっている研究室がすでにある場合にも使える。
前もって、プログラムでその研究室の教員もしくは院生の発表をチェック。
その上で、そのテーマについて少し勉強(論文を読んでおくなど)して、当日発表を聞きに行く。
あとは、ここの研究室の進学を考えている旨を告げれば、名刺交換となったり別に話を聞く時間をもらえたりする。
この方法。
大学院生がどのレベルの発表をしているか、その教員やラボメンバーの雰囲気などについて、直接触れることができる。
大学院レベルでも、研究室ミスマッチは起きるので、こういうやり方で相性を見ておく、というのは悪くない。
学会なので、分野の教員が一斉に集まっていて、一気にこれができるのもまたよい。
と、まあこんなところか。
このシリーズ、もう少し続く。
ではまた。
横浜の港にて。
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2023/02/23 20:02
今日はお休み。
鳥駅スタバにて。
Update 2023/02/23
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