週刊雑記帳(ブログ)

担当授業や研究についての情報をメインに記事を書いていきます。月曜日定期更新(臨時休刊もあります)。

学会へ行こう2〜学会発表のスタイル(研究をしよう33)

前回は学会とはどのようなものなのか、その概要について書いた。
今回からは具体的に詳しく書いていく。
初回のテーマは発表スタイル。

学会発表というと、発表者がステージに立ち、たくさんの聴衆に向けて講演をする、そんなイメージをお持ちの方が多いと思う。
確かにそういうものもある。
ただ、そうでないものもある。
今回は様々な発表スタイルと、その楽しみ方を書く。

発表スタイルを書く前に、学会全体の話を少し。
学会というと、発表会場が一つだけあって、期間中ずっと話を聞く。
そんなイメージを持たれている方もいると思う。
小さな学会だと、そういうタイプのものもあるかもしれない。
ただ、多くは、複数の発表会場で同時並行で発表が行われ、聞きたいものを自分の興味に応じて聞きにいくスタイル。
ずっと聞いている必要はなく、興味のある演題がない時間帯は聞いたことのまとめをしたり他の研究者と交流をしたり休憩したりする。
会場にはそのための休憩スペースが設けられていることが多く、会場併設のカフェやレストランも参加者同士の交流で混み合っている。
もちろん、会場外へ出てご飯等の休憩に行くことも自由。

次は、発表スタイルごとに書いてゆく。

口頭発表

聴衆の前に出て、持ち時間内で自分の研究について話すスタイル。
スライドや手元資料をもとに、自分の1つの研究成果について紹介するというもの。
学会発表というと一般的にはこのイメージを持つ人が多いのではないだろうか。
口述による卒論発表会をイメージしていただければ大きくははずれないと思う。

学会の場合、演題募集に応じて応募し発表演題が決まる。
多くの場合は、応募のあった演題についてテーマごとにいくつかのセッションにまとめられ、分野ごとに同じ会場や時間帯で発表プログラムが組まれる。
例えば、心理系の学会だと、A会場の9:00-11:00は「発達」、B会場の9:00-11:00は「認知」などのようにセッションが設定され、それぞれの演題の内容に合わせてプログラムに組まれていく。

通常、セッションごとに司会進行役の「座長」が置かれている。
多くの場合は、セッションの分野で有名な研究者が充てられており、司会進行や聴衆と発表者の橋渡しをする。
博士課程の院生クラスになると、「座長」は知っている人の場合が多い。
発表は、決められた時間しゃべり、あとは質疑、という流れ。
時間は厳守(それをやらないと、後ろの時間帯の発表者が発表できなくなる)で、座長は結構シビアに時間を切ってくる。
質問は、フロア(聴衆)に何かないか、と問いかけ、なければ座長が2、3質疑をする、ということが多い。

口頭発表のいいところは、会場で座っていると次から次へとその分野の最新研究が流れてくること。
ある程度その分野のことを知っている場合は、先端研究のアップデートにつながる。
悪い点は、発表者との距離が遠く、時間が限られていること。
精神的にも時間的にも質疑のハードルが高く、気軽な感じはない。
質疑も他の聴衆と時間を共有しているので、しょうもない質問はしにくいし、しない方がいい。

学生だと、口頭発表は発表の勉強にもなる。
発表者は、発表に慣れた人も多い。
どのように発表するのか、そのお手本になるものが多い。
しゃべり方、スライドの構成・デザイン、出てくる質疑やその受け答えなどなど。
本職や院生クラスが、学内の卒論・修論発表会では見られないクオリティの発表をしてくれるので、とても勉強になる。
ダメな発表ももちろんあるのだが、いい発表に混ざっているので、ダメな感じが結構目立つ。
それを反面教師として自分の発表の参考にする、というのもまた勉強になる。

ポスター発表

研究者だと一般的だが、それ以外の人だと、なにそれとなるのがこのスタイル。
学会にもよるが、規模の大きな学会ほどこの発表が多い。
口頭発表よりもポスターの方が演題数が多いという学会はわりとある。

ポスター発表とは。
各発表者が研究発表に関するポスターを貼り出し、その前に待機して見に来てくれた人に説明するというもの。
ポスターは映画などの大判ポスターを思い浮かべてくれればいい。
A0サイズ(横1m弱×縦1m強)等の大判ポスターが貼れるボードが発表会場にずらっと並んでおり、そこに用意したポスターを貼る。
演題数は、学会によって異なるが、大規模なものだと数百にもなる。
ポスターには、研究の目的、方法、結果、考察、結論のキーポイントが書かれており、これを使って発表者が解説する。
貼る時間、発表者が待機する時間が決められているので、その時間帯にお目当ての発表を聞きに行くというスタイル。
口頭発表同様、演題はテーマごとにまとめられているので、ぶらぶらとポスター会場を歩きながら、ポスターを眺めては面白そうな発表を探す、というようなことができるのがこのスタイルの特徴でもある。

ポスター発表の醍醐味は、なんといっても発表者との距離の近さ。
ポスターの前で会話をするように発表者から説明を聞くことができる。
聞き手の知識レベルに合わせて話してくれる発表者も多く、話をする前に、こちらの情報(どのフィールドで研究している人か、学生なのか臨床家なのか、研究者なのか等)を聞いた上で、話し方を変えてくれることが結構ある。
口頭発表よりも基礎的な確認の質問がしやすく、議論がしやすいのもポスター発表の魅力。
教科書で見るようなすごい先生が、ふつーにポスターの前に突っ立っていて気軽に教えてもらえるというのは、他のスタイルにはない醍醐味。

僕は発表者としても聞き手としてもこのスタイルがかなり好き。

シンポジウム

口頭発表に似ているが、ちょっと違うのがこれ。
簡単にいうと口頭発表のセッション丸々企画してしまう、といった感じ。
例えば、「学習障害の基礎メカニズムと支援」のように、シンポジウムのテーマが設定される。
時間は口頭発表の1セッションと同じくらいで、2時間程度が多いか。
この枠内で、企画者が各研究者にオファーを出し、発表をしてもらい、シンポジウム全体として何らかのメッセージを出す。
学習障害の例だと、基礎研究に〇〇先生、支援に関する研究に××先生、まとめの討論役に大御所の誰それ先生、というように、企画者が人を充てていく。
発表者は、企画に合わせて、自分の過去の研究を発表したり、研究のレビューをしたりする。
討論役や企画者が最後に発表を受けて議論し、議論を聴衆にもふって、シンポジウムとして問題提起を行う、結論を述べる、というような流れ。
企画は口頭発表やポスター発表と同じく、一般に募集する場合と学会の大会役員が企画する場合の2つがある。
前者の方がマニアック、後者の方がバランスが取れたものになりがち。

シンポジウムの良いところは、そのテーマについて様々な角度から掘り下げられるところ。
よくオーガナイズされたシンポジウムは勉強になり、刺激を受ける。
口頭発表とは異なり、発表者が必ずしも1つの最新研究を発表するとは限らないのが特徴。
発表によっては1つの研究を議論するというのはできないかもしれないが、過去の研究も含めて重要な研究を学べるという意味では役にたつ。
難点は、シンポジウム全体として当たり外れがあること。
口頭発表の場合は、1つ1つに当たり外れがあり、セッション全体で全部外れということは少ない。
対してシンポジウムは、シンポジウムの企画とそのオーガナイズがへぼいと全部外れという場合がありうる。

招待講演・受賞講演

学会の目玉として企画されるのがこれ。
基本的には口頭発表だけど、1つの研究だけをしゃべる口頭発表とは異なり、発表者の裁量で自由にしゃべるのがこれ。
「講演」ということはそういうこと。

招待講演は、学会大会役員が大物研究者を選んできて、お越しいただいて喋ってもらうというもの。
かなりの大物なことが多いのが特徴で、大変勉強になり刺激になる。
大きな学会だと、海外から呼ぶことも多く、英語で聞けることが前提であることもある。
キーノートレクチャーという名前がついていることもあるが、大物に講演してもらうという意味ではほとんど同じもの。

受賞講演も、大物の講演。
学会では学会の中でとてもすごい人に賞を贈ることがある。
この受賞者に記念講演をやってもらうのがこれ。
受賞するくらいの研究業績がある大物が、自身の研究を中心に話を組み立てた内容を聞くことができる。
こちらは、その人の研究史みたいなのが聞けることがあり、とても刺激になる。

これらの講演は、発表者の研究テーマについてざっくり学ぶ時に役にたつ。
研究をする者としては、コツコツ、綿密に進める一連の研究の話を聞くのもまた楽しい。

チュートリアル・教育講演

学会参加者に、学んでもらう、というのを目的に設定されているのがこれら。
研究発表ではなく、あくまで、技術や知識の伝達が目的。
対象者は、専門から少し外れた研究者だったり、研究者以外のその分野の実践家だったり、様々。
分析方法、最新の研究からわかったこと、新しい技術的なレクチャーなどなど、が並ぶ。
これらについて、その分野の一線の研究者が教えてくれるので大変役にたつ。

大学生や大学院生だと、これらをいくつか狙って参加するのも手。
取りこぼしがないように、あらかじめプログラムで提供されているものを確認しておきたい。
最近だと、事前予約が必要な場合もあるので、情報に注意しておくことが必要。

出版社・企業ブース

学会はお金がかかるので、学会に関連した出版社や企業にお金を払ってもらい、企業ブースを出してもらうことが多い。
いわゆるスポンサーってやつ。
例えば、神経系だと実験ソフトの会社や脳波計の会社などがデモ機などを出している。
心理系の学会だと、心理系の専門書・教科書の出版社は大集結している。

ここも結構おもしろい。
特に学生さんだと、出版社ブースがおすすめ。
ほとんどの出版社が、学会に関連した出版中の本をブースに並べて売っている。
本の数としては、丸善本店の教科書・専門書コーナを凌駕するほど並んでいる。
その分野に興味を持っている学生さんだと、あれも欲しい、これも欲しい、となるはず。
それらの本の著者が、その会場のどこかにいるわけだからちょっと不思議な場でもある。

学会公式懇親会

夕方から夜にかけて、懇親会なるものが設定されていることがある。
ここは、参加者同士が交流する場。
立食形式で、酒を飲みながら、というようなことが多い。
なお、強制参加ではないので、参加しない発表者も結構いる。
僕もここにはほとんど参加しない。
学会終わったら、一人でどこかに遊びにいくか、少人数の研究者・学生グループと飲みに行くのがほとんど。

僕が過去に参加した懇親会は、海外の学会で、ポスター発表の会場がポスターそのままに懇親会になるというやつだけ。
お酒を飲みながら、ポスターの前で自分の研究をしゃべったり、気になる発表のところに行って議論したりできて、とてもおもしろかった。
なんとかかんとかパーティーという名前がついていた気がする。
日本でもやればいいのにーと思うものの、日本だと業界外から批判が来そう、と思ったり思わなかったりする。


と、まあ、長くなったが、学会発表のスタイルは書き切った気がする。
これらを参考に、事前にプログラムと睨めっこしながら自分の目的に応じてどれを聞くか戦略と立てて参加することになる。
なお、これらはもちろん典型例で、学会の規模や文化によってスタイルは多少異なるので悪しからず。

次回は、目的別楽しみ方について書く。
ではまた。




横浜にて。


-----
2023/02/19 20:16
ひきこもり。
自宅にて。


雑記帳トップへ戻る
HPへ戻る


Update 2023/02/19
Since 2016/03/06
Copyright(c) Hisakazu YANAKA 2016-2023 All Rights Reserved.