週刊雑記帳(ブログ)

担当授業や研究についての情報をメインに記事を書いていきます。月曜日定期更新(臨時休刊もあります)。

研究(卒論・修論)で身につく能力(研究をしよう31)

卒論や修論で身につく能力は、必ずしも研究能力や専門性だけではない。
今回は、研究者になる気などさらさらない、一般的な大学生を対象にどんな能力が身につくかを書く。
どの過程で、どんな能力が身につき、これが社会に出てからどんな風に役に立つのか。
この辺りがイメージできるようになっていただけば幸い。
なお、ここで書くことは、指導教員の指導スタイルや方針、卒論・修論生の時間の使い方によっては身につかないものもある。
その辺りは意識しておきたい。
特に卒論については、大学教員によってその教育上の意義の考え方が大きく異なる。
SNSなんかを見ていると、意義がない・教育上の効果は小さい、と考えている教員もいるようで、そういう教員のもとでは、何を学ぶのかについて学生の側が強く意識して研究を進めないと、あまり身にならない、ということが起こるので注意が必要。
なお、僕の考え方は、教員がしっかり力を入れれば、卒論・修論の教育効果はかなり高い、というもの。
その上で、指導教官選びをしたり、研究を進めたりすることも重要である。
指導教官選びについては、こちらのシリーズも参考にしていただければ。

さて。
それでは本題。

専門的知識

まあこれは必然ではある。
ただ、真面目にやらないと、これすら身につかない、なんてことになるので注意が必要。
特に、教員からテーマを与えられている場合、手を動かせば(与えられた実験・調査をすれば)研究が完成してしまう場合がある。
自分で考えた調査・実験の場合でも、先行研究の調査が十分でない場合は同様。
このままだと研究に関連した専門的知識すら欠けたまま卒業ということになりかねない。
自分の研究の意義がわかるように、関連論文や関連分野のテキストを読むなど、意識して知識を入れたい。

研究を進める上で必須なのは関連する論文たち。
その分野の研究の流れをつかみ、目的を導き出す。
テーマが与えられている場合は、その研究の意義を理解する。
分野で使われている方法論を理解するとともに、それらを選択できるようになる。
これらを通じて、狭く深い専門知識が身につく。
その分野ではどのように知識が作られているのか、それがわかるようになるのも狭く深い専門知識の一つか。

問題もある。
これらだけ読めば、研究上必要な知識の獲得は完結してしまうことがある。
しかし、これらの知識は狭く深い専門知識である。
一方で、教科書レベルの専門知識はこれよりもかなり広い。
専門の教科書はその分野を網羅的に学ぶため、浅いが広く作られている。
専門分野の知識を網羅的に学ぶ、というのは研究を進めるだけでは不十分ということは意識しておきたい。
本来、それらは卒論前に授業や読書で入れておく知識で、足りないなと思った時に必要に応じて自分で学ぶもの。
ただ、網羅的な広く浅くの専門分野に対する知識は、研究を展開する上でも役に立つし、分野の知識を社会に出てから使う場合にも役に立つ。

論文を読む上で必要な、統計の知識なんかも広くは専門的な知識に入れてもいいか。
これも、汎用性が高く、社会に出て役にたつ素養なので身につけておきたい。

詳しくは以下の関連記事も参考にしていただいて。
専門知識と研究リテラシー(なぜ学ぶのか、何を学ぶのか 10 )
統計(なぜ学ぶのか、何を学ぶのか 6 )

読む力

これは、論文やテキストを読み込む過程で身につく。
そういう意味では、専門的知識と一体か。
ただ、この力は専門的知識とは違い、汎用性がかなり高い。
僕の研究室では、どの卒論生も論文は数十本以上、100本を超える人も普通にいるので、読む力は身につく。

読んだ文字数は、そのまま読む力を鍛えることになると思って間違いない。
ただ、社会に出てから役に立つ「読む力」は、論文を読むだけではたぶん足りない。
テキストを読む、研究と無関係の本を読むなどと併用していただいて。
詳しくは、 読む力(なぜ学ぶのか、何を学ぶのか 3 ) を参照のこと。

批判的思考・論理的思考の能力

論文を読む、とは、ただ漠然と読む、ということを意味しない。
書かれた内容は正しいのか、論理構成はどうか、などなど、内容を批判的に読み込むことになる。
自分で論を構成する時も同様。
自分で一旦組み立てたロジックを批判的・論理的に考えながら、いいものを練り上げていく。
この過程で、批判的思考・論理的思考能力が身につく。

これらの能力は、汎用性が極めて高く、社会に出てからも役に立つ。
論理的に物事を見て、鋭く批判ができる。
どの業界にいても武器になるし、正しい顔をしてやってくる怪しげな情報にも騙されなくなる。

そんなわけだから、これらの能力をどう鍛えるか、というのは教員になって以降常に考えている。
今のところ、卒論指導の中でというのが一番よさそうだと実感している。
授業ではなかなかうまくいかない。

なお、これらの能力。
卒業時点で、かなり差がつく。
ここを鍛えたいのであれば、それが可能な研究室を選ぶというのは、かなり真剣に考えた方がいい。

関連記事: ロジカルな思考力(なぜ学ぶのか、何を学ぶのか 5 )

質問力

これは、論理的思考力や批判的思考力の応用版。
日々のゼミや、学内の発表会、学会発表なので身につく。
この力は、質問をしなければ身につかない。
どんなにしょうもなくても、ドキドキしても、日々質問をするように心がけたい。

関連記事: 質問力(なぜ学ぶのか、何を学ぶのか 9 )

問題発見・問題解決能力

研究という営みは、先行研究の中に問題点を見つけ、それに対して適切な方法論を用いてアプローチし、解決するというもの。
たくさんの資料を読み込み、根拠となる事実をもとに、問題点を見つける。
論理的・批判的に考えながら、マッチした方法論を提案し、実行する。
実行して出てきた結果をまとめ、論理的に主張を展開する。

これらもまた、汎用性が高い。
仕事でも、なんでも、この能力があると強い。
答えのない自由度の高い事柄に対しては、この能力が極めて効果的に働く。

学部レベルだと、テーマは教員が設定する場合もある。
分野の特性上、学生がテーマを設定するのが難しい、教員の指導スタイル、などによってそうなる。
この場合は、問題発見や問題解決については経験できない。
ただ、全く身につけられないという意味ではなく、与えられたテーマから、研究の意義や方法論の重要性を考えることで、身につけることは可能。
もちろん、この能力を身につけたいから、テーマ設定が自由な研究室を選ぶ、というのはアリだと思う。
ただね。
テーマ設定をイチからって、結構難易度が高いので、そこは理解しておきたい。

まとめる能力

研究では、情報をまとめる、という機会が随所にある。
例えば、自分の研究の目的を導き出す場合。
たくさんある関連論文の知識を関連づけて、まとめた上で目的を導き出す。
実験や調査をした後、たくさんあるデータの中から必要なものを選び出し、まとめた上で結論を導き出すのにも使う。
研究を進める前、ゼミなんかで論文紹介する、なんて時にももちろん使う。
膨大な情報から目的のために必要な情報を選び出し、整理して1つのものを作りあげる。
いわゆる、まとめる力を使う機会は本当に多い。
この力を磨くことを意識して日々のゼミや研究活動に勤しむと少しずつこの能力が身につく。
この力もまた、社会に出てからの汎用性が高く、武器になる。

なお、研究発表にはA4で2枚にまとめよ、とか、10分で発表せい、とかそういう制限が科されるが、これもまとめる力を鍛えるのに役にたつ。
制約内に収まるように、精査し、コンパクトだがもれはなく情報を入れ込む。
頭を使いながらこれをやると、力がついていく。
時々、行間や余白を詰めるとか、早口で喋るとか、そういうことで制約を満たそうとする人がいるが、これではまとめる力は身につかない。

書く力

研究の最終盤では論文を書く。
おそらく、多くの人にとって、研究論文のように長い文章を書くのは初めての経験だと思う。
なぜその研究をやったのか(イントロ)、やり方(方法)、研究の結果出てきた材料(結果)、結果をどう解釈するのか(考察)、と、すべての情報は自分の内側にあり、それを読み手に伝えるために書いていく。
「書く」というのの難しさを知ると同時に、その過程を通じて書く力がつく。

しかも、論文は添削の機会がたくさんある(ただ、これは教員による)。
おそらく、書くことのプロに仕事として添削をしてもらえる最後の機会。
この過程でもまた書く力が磨かれる。
僕のところの卒論生の場合、最初は添削原稿が真っ赤になるのだが、だんだん力がついていいものが書けるようになる。

文章で主張を伝える、というのが社会で役に立たないわけがない、というのは読み手のみなさんもわかるはず。
関連記事: 書く力(なぜ学ぶのか、何を学ぶのか 8 )

発表能力

社会に出て自分の意見を他者に伝える能力のうち、「書く力」と並んで役に立つのがこれ。
研究の過程では研究発表会、中間発表会、場合によっては学会など、大きな発表イベントがある。
これを機会にこの能力を伸ばす。
この能力は、漠然と作業的に発表を行なってもあまり磨かれない。
「わかりやすく」「伝わる」を意識して、考えに考えて、資料を作成し、発表の練習をすることで磨かれる。
特に大きな発表会・学会前だと、教員によっては練習に付き合ってくれるし、相談すればコメントをくれることもある。
これがまた役に立つ。

なお、発表能力を磨く機会は大きな発表会だけではない。
日々のゼミで教員やゼミのメンバーに発表する、というのも生かしたい。
同級生で、ちょっとテーマの外れたゼミのメンバーがちゃんとわかるように発表する、そういう発表を心がける。
こういう小さな積み重ねは大きい。

関連記事: ゼミで学ぶこと(研究をしよう20)

その他

他にもいろいろと身につく能力がある。
特に、様々なことを学ばねばならないので、 学び方を学んだりわかるまでねばる力なんてのも身につくか。
うちの研究室だと、研究の過程でPCを多用するので、PCスキルなんかも身につく。
こういう分野依存的に身につく、副産物的な能力もあったりする。
先輩や教員に聞いてみると、そのあたり教えてくれるかもしれない。

最後に

だいぶ、長くなった。
ここに書いたことが学べるか、は、学生本人の姿勢も結構大きい。
積極的にサボる姿勢だと、おそらく何も身につかない、というのも研究で身につく能力の特徴だと思う。

また、教員の指導スタイルや教育のスタンス、分野の特徴が大きく影響するのもまた特徴。
この点を重視する人は、ぜひ、事前に研究室訪問をして、教員から情報を聞き出した上で指導教員を選択したい。


ではまた。




備後落合駅という、超マニアックな駅、にて。

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2023/01/22 19:39
今日はこっち。
鳥駅ドトールにて。


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Update 2023/01/22
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