週刊雑記帳(ブログ)

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本の紹介,「花は咲けども 噺(はな)せども 神様がくれた高座(立川談慶‪,PHP文芸文庫)」

花は咲けども 噺(はな)せども 神様がくれた高座
立川談慶‪(著)
難易度:☆


ここ数年、テレビを見る時間よりラジオを聴く時間の方が多い。
ラジオではテレビとは全く異なるコンテンツがあり、その一つが、物語の朗読。
その朗読で聞いて、これは読みたいとなって仕入れてきたのが、この本。
著者ご本人による朗読だったのだが、これがとてもよかった。

さて、この物語。
タイトルから推測できる通り、落語のお話。
さえない中堅落語家である山水亭錦之助が主人公のお仕事系長編小説。
錦之助は見習い、前座を経て二つ目に昇進した落語家。
二つ目を経て真打へと昇進すると、師匠と呼ばれる落語家となる。
彼はまだ二つ目。
しかも、通常3年くらいで終える前座を7年も経験した、苦労人。
受ける仕事もパッとしない、男盛りの34歳。
そんな彼の、劣等感ともやもやに満ちた日常を描いた奮闘記がこれ。

設定だけ読むと、おもしろいの?となるが、これがとてもおもしろい。
錦之助の落語家としての評価も、受ける仕事も、接する人たちの対応も、あまりよろしくない。
そんな中で、少し拗ねつつも、落語家としての仕事をこなしていく。
すると、たまに、落語を通じてほっこりする物語が生まれる。
そんな物語たちを綴った、連作短編的な長編。
個人的には、同窓会でバカにされるお話と、中学校で落語を披露するお話が、とてもよかった。
他のお話も結構くる。

さて。
仕事をしていると、いろいろある。
したい仕事が思うようにやってこない。
思うように能力が身につかない。
いろいろあると思うが、その多くに共通するのが、評価や他者との比較の問題だと思う。
評価が高くない、出世が遅れる、稼げない、業界内外の知り合いと自身の状況を比較して卑下してしまう、などなど。
人間だもの、仕方ない。
ただし、仕事人としてのプライドの問題とは別に、仕事はそれを通じて誰かに影響を与える。
お客さん、取引相手、公務員だと国民・市民、先生だと子どもたち。
仕事人としての評価・プライドは大したことなくとも、個々の仕事が相手に大きな影響を与えることはありうる。
仕事とは本来後者が大事なのだけど、前者にとらわれて悶々としてしまうもの。
そういう、仕事というものの本質を思い出させてくれる本でもある。
うまくいかずもやもやを抱える多くの大人におすすめな一冊。

なお、著者名を見てピンときた方も多いと思うが、著者自身が落語家。
立川談志の弟子で、自身も9年半の前座を経験したという。
読了後にプロフィールを見て、この物語が生まれた理由を知った気がした。

ではでは。
今回はこの辺で。




丸善本店か??

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2023/01/08 19:27
GWだけれども。
職場にて。



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Update 2023/01/08
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