少年事件に取り組む: 家裁調査官の現場から
藤原 正範 (著)
難易度:☆
家庭裁判所調査官という職をご存知だろうか。
家庭に関する事件について、必要な調査を行う職種。
家庭裁判所は少年法の審判を行うため、これに先立ち調査官は様々な調査を行う。
心理学や教育学、福祉等の専門性を有し、少年が事件に至った背景を生育歴や人間関係、本人の心理などを中心として丁寧に調査し、その見立てを裁判官に述べる。
この本はそんな家庭裁判所調査官経験者が、少年事件とは何かや少年法の理念や少年事件の実務などについてまとめたもの。
これが予想以上におもしろかった。
まず、家庭裁判所の現場の描写を通じて少年法と少年事件に関する仕組み等を説明する。
その上で、少年法の理念などを解説していく。
凄惨な少年事件の報道などから、ややもすると厳罰化の流れになりそうな少年法の仕組みについて、なぜこのような仕組みがあるのか理解することができる。
豊富な事件事例を通じて、難解な少年法や児童福祉の仕組みを理解することができるのもうれしい。
少年鑑別所、少年院、保護観察など、少年事件で登場する様々な機関や仕組みを具体的にイメージできる形で知ることができる。
心理学や発達をかじっていればわかるのだが、少年法で保護されている年齢の少年たちは発達的に間違いを犯しやすい段階にいる。
少年法はそのような発達段階であることを前提として、少年事件を発達のつまづきとして捉える。
その上で、更生の道を与え、2度と法に触れない人間になってもらうことを目指す。
そういう仕組みであることを、事例の描写を通じて理解することができる。
誰もが間違いを起こす可能性がある、というようなことが書かれており、これが少年法のキモだと再確認できた。
事例として描かれた少年事件のストーリーもおもしろかった。
少年事件の理念そって2度と法に触れるようなことをしなくなる当事者がいる一方、何度も非行に走り最終的に犯罪者になる当事者もいる。
そこには少年事件の仕組みの有効性と限界があり、いろいろと考えさせられた。
世論で問題にされがちな被害者を絡めた事例もあり、少年法という枠組みでの被害者感情をどう扱うか、考えることもできた。
さて、この本。
いろいろと学ぶことが多かったのだが、一番は印象に残ったのは非行少年たちの家庭環境。
事例はデフォルメされているとは思うものの、出てくる非行少年たちの背景には共通して劣悪な家庭環境が描かれていた。
非行少年として家庭裁判所に来たとしても、家庭が非行から立ち直るきっかけになる一方、家庭そのものが破綻しており更生の役に立たない事例も描写されていた。
非行少年の背景として劣悪な家庭環境、というのが大きいのであれば、彼らをただ責めるというのは違う気がした。
少なくとも少年法の枠組みの中では、家裁調査官はそういった背景を丁寧に調査し、再犯可能性等も考慮しながら少年たちに対する見立てを行なっている。
そういう意味でも、少年法の理念や仕組みの大切さを改めて理解した。
こういう部分は報道などの浅い理解からはわからないことだと思う。
教員を目指す学生、教員、子育て中の親など、子どもと関わる全ての人たちにおすすめ。
少年法は加害者に甘いと考えている人たちにもぜひ読んでもらいたい。
これを読むと少しは考えが変わるかもしれない。
普通に読み物としておもしろいので、教養を深めたいあらゆる人におすすめできる一冊。
横浜かなー。
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2021/04/17 22:29
ああこんな時間だ。
鳥駅スタバにて。
Update 2021/04/17
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