週刊雑記帳(ブログ)

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校長先生と仕事の話

遠く昔、高校生だったころの話。
当時の僕はドラムと出会い、狂がつくほどドラム漬けの毎日だった。
朝早く登校して、0限補習をサボってドラム練。
3時間目ののち早弁をし、昼休みはドラム練。
部活(吹奏楽部)の時間は当然にドラムをひたすら叩く。
母校は定時制もあったため、部活後も20時くらいまではドラムが叩ける。
まあ、言葉通り、ドラム漬けな日々だった。
あまりにもドラム三昧だったため、校内では「ドラムの人」で個人認識が可能なほどだった。

そんなことをやっていれば、当然学業成績は奮わない。
高3の夏の三者面談では、このままでは国立はどこも受からないと言われ、親は嘆き悲しんだなんてことも。
我が家の掟で私立はダメ、国立受からなきゃ家出て働いて自立せよ、ということだったので、結構シビアな状況。
ただ、僕自身は打ち込んでいるものを投げ出してなにが受験だ、と思っていた。
受験をいいわけに好きなことを我慢すれば、この先ずっとそういう生き方をする羽目になる。
9月の文化祭までやり切って、残りを死ぬ気でやれば国立の下の方くらいにはかするだろう。
そんな根拠のない自信を持っていた。
まあそういうわけで、ドラム狂はドラムを叩きまくり、そのまま文化祭まで突っ走った。
その後、文字通り死ぬ気でがんばり、センターでこけるもまあ最低ラインの国立大は後期でひっかかった。

この時の経験はその後かなり力になる。
それまではわりと平凡で目立たない奴だった。
何かを本気でやった、というのの初の回だったと思う。
こういう経験はやはりあると強いもので、大学以降の自分の物事の進め方に大いに影響をしている。
ドラムは一生の趣味になり、こちらも人生において欠かせないものにいなった。
そういうわけだから、高校のドラム三昧生活がなければ今の自分はないなと思うほど大事なイベントとなっている。

さて。
そんなドラム三昧な生活。
後日談がある。
卒業して数年後に教育実習で母校に帰った時の話。
実習の最後の方で打ち上げと称して飲み会が開かれた。
もう母校から異動していなくなった先生も何人か駆けつけて、プチ同窓会のような飲み会が開催された。
その席上での思いがけないことを聞く。

当時僕は朝から晩までドラムを叩いていた。
まあ、よく考えればわかりそうなものなのだが、当然のごとくご近所から苦情が来ていたというのだ。
しかし、当時僕はそんなことを聞いたことも注意を受けたこともなかった。
どうしてか。
それは、当時の校長が必死でかばってくれていたからなんだそう。
ご近所には、あれは教育の一環だと頭を下げて回り、やめさせることを是とはしなかった。
おかげで僕は得難い経験を積むことができた。

おそらく彼にとっては、近所迷惑だから少し控えるようにと僕に注意する方が簡単な選択肢だった。
そして多くの働く大人はそうすることと思う。
その方が怒られないし、トラブルは避けられる。
しかし、この校長先生は自分の教育者としての信念の方を優先した。
生徒のことを常に考えて、自分の仕事哲学に重きを置いて、判断をしたのだろう。
それを僕に告げるでもなく、もちろん誰からか感謝されるわけでもなく、ただ淡々と自分の仕事としてそれをやった。

これ。
働くようになって思うのだが、結構すごいことだと思っている。
働きはじめは自分の信念・理想を持ち合わせていることが多い。
ただ実際には、上司に怒られ、組織の理不尽にやられ、厳しい現状に妥協し、現実と理想はどんどん離れていく。
自分の身はかわいいもので、言い訳をしながら自分のためになることを選択しがちになる。
自分の本来の役割はわかっているものの、言い訳をしながら役割を放棄して易きに流れやすくなる。
しかし、それでも彼は退職間際の年齢で、こういう仕事をした。
出世は早い方ではなかったので、まあそういうことなんだろうと思う。

以上、僕が働くにあたって大事にしているエピソード。
僕の仕事人のモデルのひとつになっている。
自分でも、とは思うものの、これがね、難しいんだ。
職業人としての年を重ねるごとに彼の偉大さを感じているところ。

さて。
君たちはどんな職業人になるのだろうか。
どうあってほしい、みたいなことは言わない。
悩みながら楽しみながら、自分が満足できる職業人なってくれること願っている。
ただ、大変な時はがんばりすぎず、ほどほどにね。
仕事なんて定年まで走るマラソンみたいなものだから、つぶれるほどがんばっても仕方ない。

ではでは。
卒業おめでとう。
4年間どうもありがとう。




横浜にて。


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2020/03/22 23:05
休暇中。
自宅にて。


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Update 2020/03/22
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