週刊雑記帳(ブログ)

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本の紹介,「あきらめない 働く女性に贈る愛と勇気のメッセージ(村木厚子(著),日経ビジネス人文庫)」

あきらめない 働く女性に贈る愛と勇気のメッセージ
村木厚子(著)
難易度:☆


村木厚子さんは、地方国立大学(高知大学)を出たあと、キャリア官僚として労働省に入省、事務次官まで上りつめた人。
僕は地方国立大学で教えているので、地方国立大学経由でこういうコースだってあるんだよ、という文脈で村木さんを紹介することがある。
村木さんが就職した時代は、女性がバリバリ働くことがそこまで一般的でない時代。
女性が働くということのロールモデルとしても紹介することもある。
そんな村木さんが書いた、公務員の説明書のような本は前にここでも紹介した。
本の紹介,「公務員という仕事(村木厚子,ちくまプリマー新書)」

さて。
なぜまた、彼女の本を扱うのか。
それは、前回の本とはちょっと趣が違う本で、これがおもしろかったから。

この本。
前半は、公務員として就職し、女性としてバリバリ働く半生を振り返った自伝的なエッセイ。
元々働き続けることを志向していたものの、それが可能な職はそこまで多くなかった。
村木さんが就職した1978年は僕が生まれる少し前。
法的にも社会風土的にも、女性が男性と同じように働くことが普通ではなかった。
そんな中で、働き続けるなら公務員と狙いを定め、地方公務員を志す。
たまたま、練習として受けた国家公務員試験に受かり、県庁よりも国家公務員の方が働き続けられそう、というところから国家公務員になることに。
そんな彼女が労働省の役人として、仕事に奮闘する日々が描かれる。

これがおもしろかった。
今でこそ女性が働くことが普通になっているが、そうでない中で働く女性としての先人の姿を知ることができる。
男性も女性もなく、家庭と仕事のバランスを取ることが普通になってきた現代で、働き方のロールモデルとして男女問わず参考にできそうな内容。
過去のダメだった部分がどう変わったかについても知ることができる。

で。
この本を読んだのには、もう一つ大きな理由がある。
今の若い人だと知らないかもしれないが、その昔、大阪地検特捜部を舞台として冤罪事件があった。
かなりひどい事件で、当時の特捜部の検事が証拠を捏造してまで事件をでっち上げ、最終的にそれがバレて特捜部長以下3人の検事が逮捕されるという事態に至った、というもの。
この事件の冤罪被害者が当時厚労省の局長だった村木さん。
逮捕されて、最初はマスコミから叩かれて、でも無罪になり逆にマスコミから被害者扱いされることになる。
その内幕や、被害者としての視点が知りたくて、この本を手に取った。

本の後半は、この話について詳しく扱う。
逮捕前の騒動から、逮捕、取り調べの様子、そして裁判で無罪が出るまでを、被害者の目線で淡々と描く。
事件を解説することが主眼の本ではないので、事件に巻き込まれた後の日常を、本当に淡々と、エッセイ調で綴る。
これがまた、大変おもしろかった。
こうやって無罪事件が生まれるのか、というのを知ることができる。
と、同時に、拘置所暮らしがどんなものなのか、ノンフィクション的に当事者目線で知ることができる。
好奇心の塊の僕としては、たまらなかった。

こういう本だと、生の感情むき出しで、加害者の不正義を訴えるものになりがち。
ただ、この本はそうではなく、あくまで淡々と、事件下の生活がどんなものだったかを描いていく。
検察への負の感情よりも、支援者へのポジティブな感情、自分への戒めなどで占められていて、これがまたいい。
普通の被害者本とは一味違う。
元官僚のノンフィクション本は何冊か読んだことがあるが、愚痴愚痴しい生の感情の溢れたものが多かったが、この本にはそういう感じが全くなく。
著者の人柄なのかもなぁ、と思いながら一気に読み切った。

かなりおすすめな一冊。




横浜かな。

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2023/12/09 16:27
GWだけれども。
職場にて。



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Update 2023/12/09
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