週刊雑記帳(ブログ)

担当授業や研究についての情報をメインに記事を書いていきます。月曜日定期更新(臨時休刊もあります)。

DNAと遺伝子・進化を学ぶための本

大学で障害のことを教えるようになってずいぶんたった。
この分野、障害の原因として遺伝か環境か、を考える機会は多いのだが、そもそも遺伝子ってなあに?DNAってなぁに?という話を理解している人は少ない。
授業でも扱うのだが、どうもとっつきにくくて難しいらしい。
ただ。
このDNAと遺伝の話は、わかると結構おもしろい。
DNAに生じた変化が障害を生み出すこともあるが、その変化がそのまま受け継がれて後世に残ることもある。
進化にもつながるロマンのある話。
そこで、今回はこのトピックについて初めての人でも読める簡単な書籍を何冊かを紹介しようと思う。

遺伝との関係は、障害だけではなく、心理や教育など様々な分野で言及されるもの。
障害を理解する基礎的な素養としてだけでなく、心理学を学ぶ人、教育・保育を学ぶ人にもおすすめ。
もちろん、遺伝や進化といったトピックになんとなく興味を持つあらゆる人が楽しめるハズ。
この分野を深めたい、楽しみたい人はぜひ挑戦していただいて。
なお、ここに紹介している以外の本を別記事に紹介しているのでそちらも参考にしていただければ幸い。


ABO血液型がわかる科学(山本文一郎)

山本文一郎 (2015)『ABO血液型がわかる科学 (岩波ジュニア新書)』
まず最初に読むならこれ。
ジュニア新書なので、高校生から読める。
それでいて、細部までマニアックに書かれているので、生物学・医学に詳しい人でも楽しめる。

さて、内容。
血液型のABOについては多くの方が詳しい。
これが遺伝する、というのもよく知られた話。
このABO型の血液について、その本質・詳細について丁寧に解説したのがこの本。
血液型ABOがどのように決まるのか、それとDNAとの関係、なぜそのようなDNAができたのか、などなど、網羅的にかなり詳しく解説。
血液型を決めるタンパク質の話を題材に、遺伝子とは何か、DNAとは何か、変異や進化などのことを学ぶことができる。

血液型の話は、免疫系の話とも関連がある。
このため、後半では免疫系のことも学ぶことができる。
胎児と母の免疫の話や、免疫系が組織を攻撃してしまう話もおもしろい。

授業で遺伝子やDNAのことを習ったものの、理解が追いつかない、具体的なイメージが浮かばない、という人にも最適。
副読本としては、障害児関係の生理・病理、生物学、心理学の遺伝の話の関連読み物として使える。
生理病理は、遺伝系基礎、血液系、免疫系の各分野の副読本候補。

なお、著者はこの分野のスペシャリストで、ABO型のゲノム配列を決定した研究者とのこと。
一線の研究者の本は自身の研究に偏った内容になりがちだが、網羅的に、でもマニアックに詳細に展開さているのがとても良かった。


遺伝人類学入門 (太田博樹)

太田博樹(2018)『遺伝人類学入門 (ちくま新書) 』
人類はどこからやってきたのか。
この謎について、男性に受け継がれるY染色体と、女性に受け継がれるミトコンドリアDNAに注目して迫る。
DNAの基礎から、人類学研究への応用まで詳細に解説し、その上で男性と女性の人類の起源について考えていく。
PCR法の仕組みなど、かなり基礎的なものの記載もあり、本書のみでこれらの分野を楽しむことができる名著。
DNAの基礎を学びつつ、その変化と人類進化を学ぶことができる。
DNA系の副読本としてかなりおすすめ。

この本は別に紹介記事を書く予定(書いたらここにリンクを貼る)。

哺乳類誕生 乳の獲得と進化の謎(酒井仙吉)

酒井仙吉(2015)『哺乳類誕生 乳の獲得と進化の謎 (ブルーバックス)』
こちらは人類より大きく、哺乳類の進化に迫った本。
有性生殖の誕生、海から陸へ、そして鳥類・哺乳類への進化を順を追って解説していく。

進化の仕組みを解説する章で、基礎的なことを学ぶことが可能。
その上で、なぜ哺乳類へ進化していったのかに迫る。
恐竜の滅び、陸生になる時に得たもの、鳥類への進化。
そして、乳とは何か、乳腺への進化へと展開していく。
これがおもしろい。
哺乳類への進化を通じて、DNAと進化の関係を学ぶことができる。

なお、著者は泌乳について分子レベルで研究している研究者。
乳に関しても詳しく、それもおもしろかった。


「がん」はなぜできるのか (国立がん研究センター研究所)

国立がん研究センター研究所編(2018)『「がん」はなぜできるのか そのメカニズムからゲノム医療まで (ブルーバックス)』
DNAと遺伝の話が大きく関わるのがいわゆる「がん」。
このがんにについて、最先端の研究所が詳しく解説した本がこれ。
遺伝子とDNAの基礎を知った上で、個人に注目するなら「がん」が学びやすい。
「がん」は個人内のDNAの変化(変異)がもとで起こることがわかっている。
DNAや遺伝子の長い時間をかけた壮大な生き残り合戦が進化だとすれば、個人内で寿命という時間の範囲で生き残り合戦を繰り広げているのが「がん」。
で、「がん」を題材にDNAと遺伝子を学ぶのであれば、おすすめなのがこの本。

この本では、がんという疾患の基礎メカニズム、それを理解するのに必要なDNAの基本について解説。
現在わかっている知見をもとに、どうやって生じ、どのように生体を死に至らしめるのか、についてわかりやすく書く。
また、これらの解明されているメカニズムをもとにした最新の治療法などを知ることができる。
我々にとって身近ながんという病について、どのような疾患なのか、なんとなく理解することができる。
内容はブルーバックスということもあってかそこまで難しくはなく、高校生物学をある程度理解していれば読めると思う。
あまり自信のない人は、 山本文一郎 (2015)『ABO血液型がわかる科学 (岩波ジュニア新書)』 を読んだ後に読むといいか。

がん細胞というのが遺伝的に多様で、生体内で生き残り競争を繰り広げている、というくだりはおもしろかった。
まるで、生体内で環境適応による進化が起きているよう。
読んだみなさんなら、これ、わかってもらえると思う。
もちろん、最新治療法や、現在開発中の治療法についても楽しく読めた。




では今回はこの辺で。
また。




木次線スイッチバックの駅にて。

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2022/11/08 19:19
ひきこもり。
自宅にて。


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Update 2022/11/08
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