週刊雑記帳(ブログ)

担当授業や研究についての情報をメインに記事を書いていきます。月曜日定期更新(臨時休刊もあります)。

僕の研究室に向いている人・向いていない人

指導方針メリット・デメリットなんかはすでに書いた。
こういう方針を書いているせいか、恐れをなして逃げていく学生さんの話をちらほら聞く。
でも、そんな恐れることはない。
大変ながらもみんな卒業していくし、他に比べて厳しいわけでもない。

ただ。
どんな研究室でも向いている・向いていないというのがあるもの。
そこで、うちの研究室はどうか、僕の主観で書いてみることにした。
研究室選びの参考にしていただけたら幸い。
なお、指導方針メリット・デメリットを読んでいない人は、こちらを先に読んでいただいて。

なんといっても向いているのは、研究に時間を使う気がある人。
ほぼ、これに尽きる。
できるできないはあまり関係がない。
なぜなら、種々の能力は研究活動の中で身につけるため。
研究室配属までにこの力を身についておいてほしい、みたいのはあまりない。
もちろん、身につけておくと研究がはかどるよ、みたいなものはあるのだが、それらは研究室配属になってからコツコツ身につけていただくので問題がない。
そんなことよりも、大事なのは研究に時間を使えるかどうか。

これは指導方針とも関係する。
僕の研究室はテーマ設定が自由。
自分でミニ専門家になってもらい、研究のテーマを自ら設定してもらう。
これにはかなりの時間を要する。
山のように論文や書籍を読まなくてはならず、これにはかなりの時間が必要というのはわかっていただけると思う。
こちらからはテーマを与えないので、未熟な研究能力を鍛えつつ、テーマを設定して研究計画を練っていくことになる。
これにも相当な時間が必要。

ではどのくらいの時間を想定しているかと言えば、平日の日中が研究メインになるくらい。
まあ、1,2年生のころ授業に使ってた時間を、まるまる研究に使うくらいを考えていただければ。
というか、そのために4年生の授業がスカスカになるようにカリキュラムが設計されている。
でもまあ、これは基本なので、就活等で研究時間が少なくなるとかは工夫でカバーすれば問題ない。

なぜ時間を求めるのかといえば、卒業研究を大学教育の集大成だと考えているから。
教員としてそばにいるとわかるのだが、卒業研究に時間をかけて本気で取り組むと、学生さんかなり伸びる。
それは研究能力に特化したものではなく、社会人になってから役に立つものばかり。
これはホント。

というわけで。

僕の研究室に向いている人

・研究に時間を使える人
・自由にやりたい人
・研究能力を身につけたい人
・研究を通じて色々な力をつけたい人

僕の研究室に向いていない人

・研究に時間を使えない人(ライトにやりたい人)

気にしなくていいこと

・能力や成績
 →時間が使えるのであれば問題なし
特別支援教育への興味
 →特別支援教育以外のテーマでも可(詳しくはコチラ

と、まあこんなところか。

では今回はこの辺で。
また。




f:id:htyanaka:20210927183846j:plain鳥取市内にて。

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2021/09/04 20:27
夏の終わりに。
鳥駅ドトールにて。


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本の紹介,「ロヒンギャ危機―「民族浄化」の真相(中西嘉宏,中公新書)」

ロヒンギャ危機―「民族浄化」の真相
中西嘉宏(著)
難易度:☆☆


ロヒンギャの問題をご存知だろうか。
ミャンマーで大量に生じている難民の問題。
数年前にミャンマーの国内問題からロヒンギャ難民が大量に発生して国際的に問題となっている。
問題自体は知っていたが、背景や詳細をよくわかっていなかったので、ちゃんと勉強しようと思って読んだのがこの本。

ロヒンギャとはミャンマーバングラデシュ国境近くの地区に由来するムスリムイスラム教を信仰している人々)を指す。
ミャンマーでは仏教が主流。
歴史的背景からこの地区にはムスリムがいて、大昔は問題なく暮らしていたらしい。
これが、この地区を支配する勢力の衰退や、植民地支配等を経て、不利益を被るように。
無国籍状態に陥ったり、迫害されたり。
ミャンマーはその後軍事政権になり、いくらか前に民主化された。
この民主化政権下で、軍や仏教徒から迫害を受けて難民が大量に発生した。
だいたいこういうことらしい。
こういった詳細について知ることができるのがこの本。

わざわざこの本を紹介をしようと思ったのは、ロヒンギャ問題を知ってほしいという理由からだけではない。
ミャンマーの国の形から学べることがたくさんあると思ったから。
ロヒンギャ問題とミャンマーの国の成り立ちは、他の国際問題や政治を考える上でも参考になる。
イスラエル問題(ガザ地区の話も、ユダヤ人の話も)のように同様の根本構造をとる問題は多いし、日本の労働移民政策なんかの是非についても考えることができる。
国内外の政治を考える上で知っておいた方がよい内容。
どういうことか。

一つ目は、安易な移民政策は遠い将来大きな問題を引き起こすということ。
ロヒンギャも大昔に労働力として別の地からやってきた。
当時は問題なく暮らしていたという。
それが長い時を経て難民問題を引き起こす。
ロヒンギャの問題は仏教徒である住民が国や軍とは別に迫害したという側面もある。
仏教の僧侶が迫害に肯定的なコメントを出すなど、多数派の価値観による異なる価値観への暴力のような面が見え隠れする。
これらのことは、教育等他の政策とセットで慎重に移民政策を考えないと間違う、ということを教えてくれる。

もう一つが、軍と政治の問題。
ミャンマーはご存知の通りクーデターによる軍事政権が長く続いた。
ロヒンギャ問題は民主政権に移行してから大きくなった問題なのだが、じゃあ民主政権だけが悪いかというと必ずしもそうは言えないところがある。
というのは、ミャンマーの政治体制として、民主政権が必ずしも軍を従えていなかった。
民主政権に委譲するにあたって軍の独立性の仕組みを整えているし、民主政権も軍にかなり気をつかっている。
この本が書かれたのは民主政権時代なのだが、読んでいるとやりようによっては再びクーデターが起きそうな気がする。
そして、この本が出た直後、実際にクーデターが起きて再び軍事政権になっている。
日本でも何度かクーデター危機があったが、幸にして全て失敗している。
ただ、日本でこれからクーデターが起きないとも限らない。
そういう問題を考える具体例としても知っておきたい内容。

ロヒンギャの問題を知りつつ、具体例を通じて政治を考えることができる本。
かなりオススメ。




f:id:htyanaka:20210920172712j:plain なつかしの神宮球場にて。

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2021/09/20 11:41
仕事と仕事の合間に。
汽車の車内にて。



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Update 2021/09/20
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進学で研究室を変えることのあれこれ(大学院へ行きたい人へ8)

久々このシリーズ。
大学院に進学したい。
ではどこに進学しようか。
今いる研究室はわりと気に入っている。
でも、他大の院に進学してみたい。
こういう悩みは結構耳にする。
今回はこういう人に読んでほしい記事。

まず。
他大に行け、というのが僕の個人的な考え方。
基本的に研究室所属の学部生に相談を受けるとこうアドバイスすることが多い。
僕の大学は研究に特化した大学ではなく、博士課程もない。
進学者も多くないため、研究者を目指す先輩の背中はみることができない。
ただ、何よりも、外の世界を見て色々と知っておくのがいい、というのが大きな理由。
もちろん、どうしても僕でなくてはならない事情があったり、鳥取を離れられない事情があったりとした場合はこの限りではなく、まあケーズバイケースにはなる。
この方針はおそらく一般的ではない。
院生を抱える多くの教員は学部+院をセットで教育したほうが効率的と考えており、出て行かないでほしいと考えている先生もいると思う。
こちらもケースバイケース。
その上で、続きを読んでいただければ。

他大に進学するメリット

一番は新しい研究環境を経験することができること。
研究というのは研究室の教員の色が強く出る。
すると、当たり前だと思っていた考え方、環境、研究姿勢等が当たり前ではないということに気付かされる。
これは大きい。

研究大学以外の研究室から研究バリバリの研究室に進むと、その環境の違いに驚くかもしれない。
同世代の院生がたくさんいる環境は刺激的だし、モチベーションも上がる。
博士課程の院生や研究員、助教といった研究のスペシャリスト一緒に研究ができるのもいい。
ハイレベルなゼミや勉強会、共同研究なんかも経験できるかもしれない。
こういう環境から学べるものは計り知れない。

学部が研究大学であっても、小さな研究室から大きな研究室に移動すれば上記のようなものが手に入るかもしれない。
逆に、大きな研究室から小さな研究室に移ることで、教員との密な議論等、指導の質が変化するかもしれない。
院に入るにあたって分野替えをすることで、前の分野の常識とは異なる常識や考え方に触れることができるかもしれない。

移動に伴って、教員も変わることになる。
大学教員のキャラクターや指導スタイルというのは思っている以上に多様なので、1人しか知らないよりは複数人知っておいた方が視野が広がってよい。
研究環境は教員の手腕によって変わるので、この辺りを複数見れるのもおもしろい。

以上が、進学するメリットの主だったもの。
あとは、指導教官と合わない、研究環境に不満、など、現状を変えたい人にも大きなメリットがあるが、これは研究に限った話ではないので書かない。

研究室を変えることのデメリット

メリットがあればデメリットもある。
一番のデメリットは、学部でのやり方がガラッと変わる可能性があること。
特に、学部の研究室があっていた場合は、院の研究室の方が相性や環境が悪くなるということもあり得る。
これは、クジを引き直すようなものなので避けようがない。
現在学部生で、教員との相性がバツグンだったり、専門分野や研究テーマにかなりマッチしていると感じていたりする場合は、このリスクを考えておきたい。
研究がサクサク進んでおり、今後も研究が捗ることが予想される場合は、あえて院で他大に移動する必要はないかもしれない。
この場合は、他大に出る代わりに学会や研究会に積極的に出て外の世界を知る、という戦略でもいいか。

学部の時の研究を投稿論文にしたい、という場合も、所属が変わるとうまくいかないことがある。
特に教員の研究費を使って研究をした場合、データは元の研究室の誰かが論文化する可能性がある。
これは予算の出どころからして、まあ仕方ない。
自分のところの学生だから教育の一環でスピード感に目を瞑ってもらっている場合もある。
教員の研究費が競争資金の場合や研究のアイディアが教員から出ている場合は、教員側のモチベーションとしてさっさと論文にしたいもの。
まあ、卒論のデータやその後の論文化については、学部の教員によるので、どういう方針か聞いてみるといいと思う。

卒論を自分で投稿論文化してもいい場合でも注意が必要。
新しい研究室ではそれをするだけの時間が取れないこともありうる。
進学先の研究室は卒論の研究分野とは多かれ少なかれずれることが普通。
新しいことも学ばねばならず、手が回らない、ということは想定しておいた方がいい。
また、まとめる段になっても問題が生ずることもある。
そもそも学部卒業程度の研究能力なので、自力で投稿論文にまとめるには難がある。
しかし、元のネタについて進学先の先生が面倒を見てくれることはあまりない。
特に卒論のネタを元に論文化して学振を狙うようなことを考えている場合にはこのデメリットはあまり無視できない。

最後に、もう一つ。
学部の土地を離れる場合は、息抜きに付き合ってくれる友人がいなくなる、というデメリットもある。
これは経験するまでは気づかないのだが、人によっては地味に利く。
まあこれは院生に限らず、新社会人になる人にも当てはまるが。
進学先が定員の大きな大学院だったりすると、同級生がたくさんいるのでこれを補える場合もある。


他にも、院で専門を変えることについても書く気でいたのだが、長くなりすぎた。
これはまた次に。
ではまた。




f:id:htyanaka:20210905130315j:plain 大昔の横浜にて。


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2021/09/04 20:27
夏の終わりに。
鳥駅ドトールにて。


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Update 2021/09/04
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障害児等病理学特論2021(鳥取大学・院)

授業内容


第1回 オリエンテーション(オンデマンド)
第2回 神経系の基礎(1)(10/8)
     ~大脳の構造
第3回 神経系の基礎(2)(10/15)
     大脳の機能
第4回 発達障害の基礎(1)(10/22)
     最初~2発達障害の原因:DNAが伝えているもの
第5回 発達障害の基礎(2)(10/29)
     2発達障害の原因:DNAが伝えているもの(補足)~水頭症
第6回 発達障害の基礎(3)(11/12)
     2発達障害の原因:新生児脳症~2発達障害の原因:ラスト
第7回 発達障害の基礎(4)(11/19)
     代表的な発達障害ADHD自閉症
第8回 発達障害の基礎(5)(11/26)
     代表的な発達障害:LD~ラスト
    自閉症の基礎(1)
     最初~前操作期と表象
第9回 自閉症の基礎(2)(12/3)
     ことばと表象~自閉症とは:事例
第10回 自閉症の基礎(3)(12/10)
      様々な自閉症の定義~
第11回 自閉症の基礎(4)(12/17)
      自閉症の診断と評価~自閉症と遺伝,疫学
第12回 自閉症の基礎(5)(12/24)
      各種質問,振り返り
第13回 自閉症の基礎(6)(1/7)
      自閉症に関連した遺伝子~ラスト
第14回 LDの基礎(1)(1/21)
      LDとは
第15回 LDの基礎(2)(1/28,予定)
      LDの出現頻度~



関連情報


自分で勉強したい人へ【準備中】
障害児等病理学特論に関する役立ち情報
発達障害に関する役立ち情報


連絡事項


授業の連絡事項



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Update 2022/01/27
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病弱児等の教育課程と指導法2021(鳥取大学)

授業内容


第1回 オリエンテーション(10/6)
    病弱の概要(1)
     最初~病弱とは:合理的配慮
第2回 病弱の概要(2)(10/13)
     病弱に関連した解剖と生理~病弱と教育:病弱教育の方法
第3回 病弱の概要(3)(10/20)
     病弱と教育
    病弱教育の歴史と現状(1)
     最初~黎明期:明治期の医療
第4回 病弱教育の歴史と現状(2)(10/27)
     黎明期:~戦中
第5回 病弱教育の歴史と現状(3)(11/5)
     戦後~養護学校の増加
第6回 病弱教育の歴史と現状(3)(11/10)
     義務制へ向けて~
第7回 病弱教育の歴史と現状(4)(11/17)
     現状:病弱教育の場と統計~現状:児童生徒の多面的な理解
第8回 病弱教育の歴史と現状(5)(11/24)
     現状:学習状況の把握と教育
第9回 病弱教育の実際(12/01)
     訪問教育としての特別支援学級
第10回 病弱教育の歴史と現状(6)(12/08)
      現状:学習状況の把握と教育
     代表的な疾患と指導上の注意(1)
      糖尿病:はじめ~腎臓での糖再吸収
第11回 代表的な疾患と指導上の注意(2)(12/15)
      糖尿病:インスリン~腎臓病:尿細管での再吸収と分泌
第12回 代表的な疾患と指導上の注意(3)(12/22)
      腎臓病:糸球体ろ過量~
第13回 代表的な疾患と指導上の注意(4)(1/5)
      腎臓病:腎移植~気管支喘息:学校での対応
第14回 代表的な疾患と指導上の注意(5)(1/19)
      気管支喘息:発作の程度~ラスト
第15回 復習とまとめ




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病弱児等の指導・保健・教育に関する役立ち情報
病弱に関する役立ち情報


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Update 2022/01/24
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病弱児等の生理・病理・心理2021(鳥取大学)

授業内容


第1回 オリエンテーション
    病弱の概要(1)(10/6)
     最初~病弱とは:合理的配慮
第2回 病弱の概要(2)(10/13)
     病弱に関連した解剖と生理~病弱と疾患:病弱児の病類の特徴
第3回 病弱の概要(3)(10/20)
     病弱と疾患:症状と病因・生理~
第4回 身体の構造と機能(1)(10/27)
     最初~感覚器
第5回 身体の構造と機能(2)(11/5)
     ニューロン~体性神
第6回 身体の構造と機能(3)(11/10)
     自律神経~ラスト
第7回 身体の構造と機能(4)(11/17)
     DNAの補足説明
    循環器系の生理と病理(1)
     循環器系とは~血液:ヒト血清の主成分
第8回 循環器系の生理と病理(2)(11/24)
     血液:赤血球とは~血液:全部
第9回 循環器系の生理と病理(2)(12/01)
     血液:教材補足~心臓・血管:心臓の構造
第10回 循環器系の生理と病理(3)(12/08)
      心臓・血管:拍動の仕組み~毛細血管の概要
第11回 循環器系の生理と病理(4)(12/15)
      心臓・血管:毛細血管における成分やり取りの原理~血液循環ラスト
第12回 循環器系の生理と病理(5)(12/22)
      リンパ系:最初~疾患:白血病
第13回 循環器系の生理と病理(6)(1/5)
      疾患:白血病補足(HLA)~生後の血液循環の変化
第14回 循環器系の生理と病理(7)(1/19)
      疾患:川崎病冠動脈疾患~ラスト
     呼吸器系の生理と病理(1)
      最初~呼吸器の構造と機能全部
第15回 呼吸器系の生理と病理(2)(1/26,予定)
      ガスの交換と血液~



関連情報


自分で勉強したい人へ【準備中】
病弱児等の生理・病理に関する役立ち情報
病弱に関する役立ち情報


連絡事項


授業の連絡事項



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Update 2022/01/19
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大学教育の問題 その3 時間以外編

前回は大学教育の問題について、時間の観点から書いた。
今日はそれ以外の観点から書いてみる。
時間の話と全く独立の話ではなく、主には時間配分で教育以外のことに時間を使いたくなる要因が存在する、という話。

評価の問題

大学教員は研究者である。
その評価は研究で決まる。
いくら質の高い教育をやったところで、職業人としての評価は研究でなされることになる。
特に転職の際は、この要素が大きい。
大学教員は転職を繰り返してキャリアアップしていくパタンが多いため、研究に時間を割くモチベーションになる。
組織によっては内部昇進も含め、教育が評価されることもある。
ただ、この場合も、質の高さが評価されることはほとんどない。
せいぜい、担当した科目やその数くらい。
なぜか。

これは、教育の質、というものを評価することが難しいから。
おそらく客観的に数値評価することは不可能であろう。
それに対し、研究の場合、質はともかく数については出版論文数という形で評価しやすい。
評価には一般的にそれがしやすいものとそうでないものがある。
そして、評価しやすいもののみが注目されて大きく評価されるということになる。
こういうわけで、研究論文の数という部分が過大に評価され、それ以外のものは評価されにくくなる。
研究については、論文という可視化された成果物があるため、時間をかければ質の評価も可能である。
しかし、教育について、成果を可視化することがほとんど不可能なため、それもできない。
このため、教育の質向上に時間を使った者は評価されづらいし、ここに時間を使うことは一切の個人的利益につながらない。

ここに時間を使うためのモチベーションは、教育哲学とか理想とか義務・責任感とか、評価以外の軸によることになる。
ただ、現在、研究業界は競争がとても激しいため、そういう人間は下手すると淘汰されかねない怖さを持つ。
評価の厳しさは、この記事を読んでいただければ、わかるかと思う。
この辺り、研究一辺倒な評価を改め、研究以外の多様な仕事があることを認めるなど、業界全体の意識改革が必要だと思っている。

アイデンティティの問題

大学教員は専門家である。
少なくとも、なった当初、その多くは一線の研究者。
研究業界は競争が激しいので、そうでないとなかなか大学教員になれない。
また、それがゆえに、一線の研究者であり続けるり続けるためには研究に打ち込み続ける必要がある。
これと教育が両立するタイプの人もいるものの、これには置かれた環境と当人の能力の両方が必要。
やはり、研究以外に時間を費やした分、競争には不利に働く。
これが研究ができないくらいまでに過ぎると、研究者というアイデンティティに影響する。

まあ、これは仕方ない問題で、解決はなかなか難しい。
大学教育が研究(もしくは一線の実践)と同居することで成り立っていることから考えても、両者のバランスを考えながら組織経営を行うくらいしかないと思う。
研究時間が全く取れないくらい教育業務を割り振れば、研究のために教育を犠牲にする教員は一定する出てくるというのはやむ得ないと思っている。
そして、そういう大学教育の現場は増えてきている。

まとめ

とまあ、大学教育の現場にいる者として、雑観を書いてみた。
大学も多様なので、全ての大学で当てはまるわけではない。
が、時間の問題や研究・評価の問題は多くの場合で共通していると思う。
そういうわけであるから、時間の問題、評価の問題を解決しないことには、大きく大学教育がよくなる、ということはないように考えている。
研究業績評価主義の背景には、研究業界の過当競争に根本的な問題があるため、なかなか簡単ではない。
そんなことを考えながら、僕自身は経営者でもなんでもないので、目の前のできることに向かう日々を過ごしている。

なんだ、じゃあ学生としてどうしたらいいかわからないじゃないか、と思われる方もいることと思う。
そんなことはない。
濃淡はあるものの教育にモチベーションを持つ教員というのは存在する。
授業を聞いたり質問に行ったりを繰り返す中で、どういうタイプの教員なのか見極める。
その上でうまく教員と付き合っていったらいいと思う。
なお、僕は大学教員は多様である方が望ましいと思っていて、教育がやりたい人は教育に重きを置けばいいし、研究がやりたい人はそっちをメインにすればいいと思っている。
大学の教育は研究現場が教育と同居しているところにその特色があるので、講義にあまり力が入っていない研究重視タイプの教員であっても研究指導では大きな学びが得られるということはある。

さて。
もう一つ。
これらの問題を知った上で、国の大学政策を見てみる、というをぜひやってほしい。
大学教育は政治的にも社会的にもよく議論に上がる。
しかし、問題の本質はその議論で指摘されている点にあるのか。
提案されている方法で解決するのか。
今回書いたことをあわせて考えていただき、大学教育の現場の声を聞いていただき、その上で自分なりの意見を持っていただけたら幸い。

というわけで、長くなったが、このシリーズはこれにておしまい。
ではまた。





f:id:htyanaka:20210823215246j:plain 福岡わがふるさとの夏。


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2021/08/01 18:21
休暇中。
Drop In鳥取にて。


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