週刊雑記帳(ブログ)

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本の紹介,「ロヒンギャ危機―「民族浄化」の真相(中西嘉宏,中公新書)」

ロヒンギャ危機―「民族浄化」の真相
中西嘉宏(著)
難易度:☆☆


ロヒンギャの問題をご存知だろうか。
ミャンマーで大量に生じている難民の問題。
数年前にミャンマーの国内問題からロヒンギャ難民が大量に発生して国際的に問題となっている。
問題自体は知っていたが、背景や詳細をよくわかっていなかったので、ちゃんと勉強しようと思って読んだのがこの本。

ロヒンギャとはミャンマーバングラデシュ国境近くの地区に由来するムスリムイスラム教を信仰している人々)を指す。
ミャンマーでは仏教が主流。
歴史的背景からこの地区にはムスリムがいて、大昔は問題なく暮らしていたらしい。
これが、この地区を支配する勢力の衰退や、植民地支配等を経て、不利益を被るように。
無国籍状態に陥ったり、迫害されたり。
ミャンマーはその後軍事政権になり、いくらか前に民主化された。
この民主化政権下で、軍や仏教徒から迫害を受けて難民が大量に発生した。
だいたいこういうことらしい。
こういった詳細について知ることができるのがこの本。

わざわざこの本を紹介をしようと思ったのは、ロヒンギャ問題を知ってほしいという理由からだけではない。
ミャンマーの国の形から学べることがたくさんあると思ったから。
ロヒンギャ問題とミャンマーの国の成り立ちは、他の国際問題や政治を考える上でも参考になる。
イスラエル問題(ガザ地区の話も、ユダヤ人の話も)のように同様の根本構造をとる問題は多いし、日本の労働移民政策なんかの是非についても考えることができる。
国内外の政治を考える上で知っておいた方がよい内容。
どういうことか。

一つ目は、安易な移民政策は遠い将来大きな問題を引き起こすということ。
ロヒンギャも大昔に労働力として別の地からやってきた。
当時は問題なく暮らしていたという。
それが長い時を経て難民問題を引き起こす。
ロヒンギャの問題は仏教徒である住民が国や軍とは別に迫害したという側面もある。
仏教の僧侶が迫害に肯定的なコメントを出すなど、多数派の価値観による異なる価値観への暴力のような面が見え隠れする。
これらのことは、教育等他の政策とセットで慎重に移民政策を考えないと間違う、ということを教えてくれる。

もう一つが、軍と政治の問題。
ミャンマーはご存知の通りクーデターによる軍事政権が長く続いた。
ロヒンギャ問題は民主政権に移行してから大きくなった問題なのだが、じゃあ民主政権だけが悪いかというと必ずしもそうは言えないところがある。
というのは、ミャンマーの政治体制として、民主政権が必ずしも軍を従えていなかった。
民主政権に委譲するにあたって軍の独立性の仕組みを整えているし、民主政権も軍にかなり気をつかっている。
この本が書かれたのは民主政権時代なのだが、読んでいるとやりようによっては再びクーデターが起きそうな気がする。
そして、この本が出た直後、実際にクーデターが起きて再び軍事政権になっている。
日本でも何度かクーデター危機があったが、幸にして全て失敗している。
ただ、日本でこれからクーデターが起きないとも限らない。
そういう問題を考える具体例としても知っておきたい内容。

ロヒンギャの問題を知りつつ、具体例を通じて政治を考えることができる本。
かなりオススメ。




f:id:htyanaka:20210920172712j:plain なつかしの神宮球場にて。

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2021/09/20 11:41
仕事と仕事の合間に。
汽車の車内にて。



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Update 2021/09/20
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