週刊雑記帳(ブログ)

担当授業や研究についての情報をメインに記事を書いていきます。月曜日定期更新(臨時休刊もあります)。

卒業研究のスケジュールを考える

どうやって卒業研究が進んでいくのか。
やったことない人にはイメージしづらいようなので書いてみることにした。
ついでに、どの段階でどんな力がつくのか、具体的にどんなことをやるのか、も書いてみようと思う。
これから取り組む人は参考にしていただきたく。

想定条件は以下の通り。
研究レベル:うちの研究室の標準レベル。
取り組む時間:卒論以外の授業はほとんどない。日中の時間は研究に使うが、夜にバイトしたり遊んだりする時間はある。

インプット期間

必要な期間:4-6ヶ月
伸びる力:専門知識、批判的思考、論理的思考、方法論
先行研究をインプットする期間。
研究のネタを見つけるには一定程度の先行研究の知見が必要。
やりたい研究テーマでどんなことがされていて、どんなことがされていないか。
どんな方法論でアプローチされてきたのか。
これらがある程度自分の中に蓄積されてくると、ああこの辺りが大事なわりにわかってなくて迫れそうだな、というのが見えてくる。
このインプットがないと、研究のイントロが書けない。
学術的に意義のある研究を行うのは不可能であろう。
だいたい30-40本くらいの論文と数冊の本を読むことになる。
ゼミ発表なんかで紹介する論文はこの中から厳選されたもの、というのがベスト。
論文で使われている方法論について調べて理解することで、自分の研究で役にたつ道具(方法論)も手に入れることができる。

研究計画を立てる

必要な期間:2-4ヶ月
伸びる力:論理的思考力、批判的思考力、構想力、まとめる力
ある程度先行研究の知見の知識が蓄積されると課題が見えてくる。
この課題について、研究計画を立てる。
目的や仮説をどんなロジックで導き出すのか。
ロジックに必要な事実(先行研究や政府統計等)、隣接分野で真似できそうな似たような研究、その他必要な情報などを探す。
こういった作業を行う。
場合によってはロジックに必要な事実や研究がみつからず、目的や仮説の変更を迫られる場合もあり結構時間がかかる。
目的や仮説が定まったら、どんな方法論で迫るかを決める。
目的や仮説が素晴らしくても、方法論がついていかずこれらに迫れないということもよくある話。
この場合も目的と仮説の修正・変更を迫られる。
すんなりクリアすることもあれば、時間をものすごく使うことになってしまうこともある、時間の読めないステージ。

調査の準備、データ取り

必要な期間:1ヶ月以上
伸びる力:実行力?専門的経験?
時間は方法論に依存する。
実験なら実験刺激作って、協力者募って、実験を実施する。
質問紙調査とか面接なんかもそんな感じか。
一方で、フィールドに出て長期の観察を行う、といった種類の研究は時間がかかる。
場合によっては1年以上かかることもある。
せっかく立派な研究計画を立てても、方法論によってはタイムリミットに間に合わずできないこともあるので注意が必要。
この場合はできる範囲の研究計画に直すか、卒業を伸ばすか。
悩ましい問題が発生する。

データ分析と考察

必要な期間:1-2ヶ月
伸びる力:思考力、統計的な素養?コンピュータリテラシー
ここにかかる時間、伸びる力は方法論に依存する。
例えば、量的な(数字で語る)研究であれば、得られたデータの平均値を求めたり、統計的な検討を行ったりする。
この過程で統計的な素養、エクセル操作なんかは身につくか。
また、分析したデータを直感的に理解するために、表やグラフにまとめる、なんてことも行うので、こういうのを作る能力が身につく。
一方で質的な研究(フィールドに出て現象をていねいに記述する等の研究)であれば、得られたデータからどんなことが言えるのか、多面的に検討することになる。
このデータは何を意味しているのか。
その背後に何があるのか。
こういったことを一生懸命考える。
場合によっては予定していなかったデータ分析をやってみたり、追加実験を考えたりする。
研究をしたことない人はこの時間を少なく見積もっている場合がある。
結構かかるよ、ここ。

論文執筆

必要な期間:1-3ヶ月
伸びる力:論理的な思考力、文章力
いよいよ、論文を書く時間。
学生さんを見ていると半月から1ヶ月くらいあればとりあえずは書ける。
ただね、ほとんどの場合、甘い。
必要な情報がない、論理的ではない、冗長、説得力がない。
これらはまだマシな方で、文章の構成がおかしい、全く伝わらない、文がおかしい、なんて所からスタートする人もかなりいる。
指導教員に見せて、おかしな箇所を真っ赤にされる。
それを受けて直すと、また真っ赤にされる。
この過程でかなりの文章力が身につくことになる。
本当に、ここでかなり伸びる学生さんが一定数いる。
逆言うと、これに費やせる時間を残しておかないと、この能力を伸ばす機会を失うことになる。
これはね、かなりもったいない。
今後、文章を卒論ほどていねいに見て指導してもらえる機会はそうそうない。

スライド発表

必要な期間:半月〜1ヶ月
伸びる力:まとめる力、プレゼン力、TEDトーク
論文を提出した後は発表の準備に取りかかる。
ここも時間をかければかけるほど、身につく能力がある。
だいたいは論文ができた時点でスライド発表は余裕だと思うよう。
ただ、論文とスライド発表は目的が大きく異なる。
せっかくなのでこの機会に発表技術を身につけたい。
論文が出来上がっている場合、スライド自体は1-2日もあればできあがる。
ただ、だいたいは要領を得ていない。
一度、指導教員や研究室の先輩に見てもらってアドバイスをもらいたい。
スライドの作り方にはコツみたいなものがあって、これは経験者に聞いた方が早い。
アドバイスを生かしてスライドを作り直して、練習をしたり、修正したりを繰り返すとかなりいいものが出来上がる。
この過程で得たスライド発表の技術は社会に出てからもきっと役に立つ。
卒論の発表会でこれがちゃんとできている学生さんはあまり多くない。
でも、きちんと磨いてきたな、ってのもいる。
せっかくなので、意識してこの技術を身につけてほしい。


卒論のスケジュールを考える

以上のことを考えて卒論のスケジュールを考えてみる。

最短ver
3年生
3月 先行研究の調査(インプット)
4年生
4-6月 先行研究の調査(インプット)
7-8月 研究計画の立案
9月 調査準備
10月 データどり
11月 データ分析
12月 卒業論文執筆
1月 卒業論文修正
2月 スライド発表の練習


理想ver
3年生
10月-3月 先行研究の調査(インプット)
4年生
4-5月 研究計画の立案
6-7月 調査準備
8-9月 データどり
10-11月 データ分析
11月 卒業論文執筆
12-1月 卒業論文修正
2月 スライド発表の練習


忘れがちなのは、就活や教育実習等のイベントが入ること。
上のスケジュールはそういうイベントは考慮していない。
そういったイベントで1ヶ月おやすみ、が入り、結果詰まる、というのはよく見る。
注意されたし。
そうするとね、結構時間ないでしょ?
そこんところをよく考えて計画的に進めてほしい。
詰まってきて、計画が後ろにずれ込んでも、なんとか卒業にこぎつけることはできると思う。
ただ、そうなると、卒論の中で得られるはずだった能力のいくつかを得ることができないということになりかねない。
研究のおもしろさ、みたいなものを感じられずに卒業、ということになってしまうかもしれない。
それは、もったいないなー、と思うわけよ、教える側としては。

まあ、そんなわけで、これからの人に向けての記事でした。
がんばれー。




そろそろシーズンがですね。


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2019/02/23 20:25
久々のお休みをのんびり。
鳥取ドトールにて。


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Update 2019/02/25
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論文を読む〜結果・考察編(研究をしよう 10)

さて、いよいよ論文を読む、も佳境。
次は結果と考察。

まずは結果。
ここには方法に対応する形でつらつらと結果が書いてある。
基本的にはそれ以上でもそれ以下でもないので、イントロ・方法ほど注意深く読む必要はない。
方法に対応する形できちんと書かれているか。
方法で書いてあることと結果の記載が異なってはいないだろうか。
そんなあたりに気をつけて読む。

イントロ、方法が優れた論文であれば、結果を見るだけで結論をつかむことができる。
目的に対応した結果がどうなっていたか。
それがすなわち結論ということになる。
特に仮説通りの結果が出ている場合は、イントロの仮説イコール結論なのでわかりやすい。
読み方のポイントとしては、どの結果がどの目的と対応しているか、その辺りを考えながら読むといったところか。

ところが。
そんな簡単でよい論文はなかなかない。
イントロ・方法がうまくない論文の方が多数派。
それらが完璧であっても、仮説通りの結果が出るなんてことは研究ではなかなかない。
イントロで述べた予想と反する結果になったり、一部は仮説を支持し一部は仮説を支持しないなんて結果が出てくることもよくある。
結果が先行研究の結果と一致しないこともまたある。
すると、湧き上がってくる疑問としては、なんでそうなったのか、ということが大事になる。
そこで登場するのが考察である。

そういうわけだから、考察では結果に対する説明・解釈を行う。
この結果はなんで予想と違ったのか。
どうしてそうなったと考えるのか。
他の研究の事実を引用しながらその理由が書かれている。
また、ほとんどの研究には関連する先行研究が存在する。
研究結果がそれらの先行研究の結果と一致しているのか、異なっているのか、一部の研究とのみ整合性が取れているのか。
そのあたりについて、なぜそうなのか、をロジカルに説明することが求められる。
先行研究と異なっていても、予想と異なっていてもロジックが通った説明ができるのであれば、それはよい研究ということになる。
読み手としてはこのあたりをしっかりと読み取って、論文のよしあしを判断するということになる。

また、考察には研究の限界が述べられていることもある。
イントロ・方法が甘いために、どうがんばっても穴がある場合がある。
研究をやっている最中に新たに穴に気づく場合もある。
そんな研究の穴について、記述するのも考察の役割のひとつ。
書き手の研究者は誠実に問題点を書くべきだし、もし書いていなかったとしても査読者から指摘されて書かされるなんてこともある。
穴があったらダメなんじゃないかと思う人もいるかもしれないが、必ずしもそうではない。
穴が結論にそこまで影響を与えないこともあるし、穴があることを前提にその結果を限定的に評価することもできる。
穴があって限定的であっても、それでもなお研究に価値がある場合だって存在する。
読み手はこれらのことを読み取って、論文の評価をするのが仕事ということになる。

考察ではこれらのことを文章で展開しながら、論理的に結論と結びつけていくことが求められる。
つまり読み手の仕事としては、究極的には、結果を受けて結論が正しいのか、
正しくないとすれば、結果のどこまでは信じられそうなのか。
結果までは完璧なのに、考察で論理飛躍が起きていて結論が正しくない、というパタンも結構あるので注意が必要。
考察の中で、「○○だから××」と書かれているものの、理屈になっていない、なんてことはよくある。
その場合、当然結論は言い過ぎか、場合によっては間違いということになる。
これらをロジックをもとに判定する、ということになる。
ここもパスすればいよいよすばらしい論文。
が、なかなか巡り会えない。
もし出会ったら、それはお手本となりうるので、書くときの参考資料としても使って欲しい。

以上、結果・考察編でした。
次回、もう一回だけ「論文を読む」小シリーズを書く予定。
ではでは。




横浜市内のとある片田舎にて。



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2018/10/22 18:41
帰るかのう。
鳥取駅スタバにて。


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Update 2018/10/22
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半ドンのお話

その昔、半ドンというものがあった。
今の若い人は知らないでしょ。
半ドン
僕が中学生の頃一部がなくなり、その後いつの間にかなくなっていた。
高校生くらいまではまだ一部残っていたんじゃないかな。

その昔、我が国は週休二日制ではなかった。
僕が小さい頃はオヤジも土曜は仕事に出てたし、僕も土曜は学校があった。
未経験者からすると、なんだかわいそうじゃないか、と思われるかもしれない。
が、そんなことは全くない。
確かに土曜日は休みじゃあない。
休みじゃあないのだが、学校は半日で終わるのだ。
これを半ドンという。
で、この半ドン、独特の特別感があってすごくよいのだ。

だいたい、半ドンの土曜日は朝からゆるい空気が流れている。
僕の通った学校はたいてい土曜のどこかが学活の時間になっていて、そもそも勉強する感がうすい。
なんというのかな。
先生も友だちもどこか浮かれた特別な空気感の中で過ごしているのだよね。
これがたまらない。

小学生のうちは浮かれてた気分ではしゃいで家に帰る。
家に帰ると土曜日特別メニュー・そうめんかラーメンが待っていて、普段は仕事のオヤジも家にいる。
ご飯を食べ終わったらあとは友人と遊びまくれる時間たっぷりの午後が待っている。
タマラナイ。
中学生になると、持参した弁当を食べて部活三昧。
徹底的に練習したり、練習試合をしたり。
土曜だなぁ、とやはり浮ついた雰囲気の中で、平日とは違った浮ついた空気感の中で、そんな時間を過ごす。
トテモタマラナイ。
高校生になると、学校帰りに安く食わすそば屋でかき揚げそばを食べて、遊びに行く。
夜までカラオケに行ったり、草野球チーム作って野球やったり、吹奏楽の部活やったり、バンドの練習をしたりした。
やはりね、土曜にやるこれらはすごい特別感があるのだ。
スゴクタマラナイ。
わっかるかなー。
わっかんねーだろうなー。

そんな半ドンも中学生の途中から月1回だけ週休2日になりなくなり、高校生の頃月の半分の半ドンがなくなった。
大学生になったところ完全週休2日制になり、社会に出る頃には社会から半ドンの制度が消えていた。
あの特別感を味わえないなんて、今の子はなんてかわいそうなんだ、と思いつつ、当時を思い出しながら酒を飲みながらこれを書いている。
まあ、ただの酔っ払いのノスタルジーでございます。




高松市内か。


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2018/09/07 22:50
地物の純米吟醸とともに。
福井の飲み屋にて。


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Update 2018/09/07
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発表をしよう〜発表前に編(研究をしよう 臨時版3)

スライドが出来上がった。
そうしたらもうあとは発表を待つのみ、と思うでしょう。
が、それは甘い。
と、いうわけで、スライドができたらやることについて。

(1)しゃべりの原稿を書いてみる
いや、私は原稿読むようなプレゼンはしないからいらない、と言う人もいるかもしれない。
でも、発表慣れするまでは原稿を書いてみよう。
だいたい、その場でしゃべれるなら簡単にしゃべりの原稿なんて作れるはず。
とにかく作ってみよう。
すると、スライドに物足りなさを感じたり、伝わりにくいところに気付いたりする。
これに気付いたそばからスライドに修正かけていく。
これでスライドがまた一段いいものになる。

(2)発表の練習をする
原稿ができたら、それをもとに時間を計って練習しよう。
原稿読み上げ発表はつまらないので、いずれは原稿なしでしゃべりたいものだが、まずは原稿を見ながらでもよい。
とにかく時間を計って通しで練習をしてみる。
すると、思ったより時間がかかるかもしれない。
声を出してみることで、説明のしづらさがわかることもある。
これをもとにまたスライドを直す。
だいたい慣れてきたら、今度は原稿なしでしゃべってみる。
原稿では説明するはずだったものが抜け落ちたり、やはりしゃべりにくい箇所が見つかったりする。
これをもとに、注意する箇所を考えたり、スライドを直したりする。
ここまでやると、スライドは相当よくなる。

(3)友人相手に発表練習をする
もうカンペキだ、と思ったら、友人相手に発表練習をしてみる。
これはゼミの教員や、先輩後輩相手でもよい。
実際に人前でしゃべってみると、自分ひとりでしゃべった時とまた違ったものなる。
大きく違うのはスピードだろうか。
緊張すると早くなる人、遅くなる人、それぞれあり、自分のクセを知ることができる。
ちなみに僕は、人前ではかなり早くなるので、ひとり練習のときの時間が少し超過するぐらいを目指してスライドを作る。
また、友人にわかりづらいところを指摘してもらおう。
自分ではカンペキだと思っていても、大概は幻想で、カンペキなんかではない。
友人から指摘されると自分では見えてなかった穴が見えてくる。
これをもとにスライドを直す。

このくらいやるとだいぶよくなる。
あとは、どんな質問くるかなぁ、というのを考えておくとよいくらいか。
あらかじめ予想していた質問が来るとあわてずに対応できる。
まあそんなわけだから、スライドβ版(初稿)は発表の1,2週間前には出来上がっているのが理想。
そうでないと、今回の(1)-(3)をやる時間がなくなる。

以上で発表をしよう編おしまい。
健闘を祈ります。


おまけのミニコラム。
むかしむかし、知り合いにすごくプレゼンのうまいやつがいた。
TEDトークのように流暢に自分の言葉で話し、なおかつとてもわかりやすい。
原稿を読むダメ発表とはもう雲泥の差。
やはり、できるやつは才能があって、感覚でしゃべってるのかな、と思っていた。
ある時、そいつに、どうやったらそんなにスムーズにしゃべれるのか、やはり経験か、と聞いてみた。
すると、答えはこう。
「練習」
スライドをしっかり作り込んだ上で、今回説明した(2)を中心にかなり練習を積んでいるのだそう。
練習の大事さを知ったエピソードだった。




横浜かな。


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2019/02/06 7:27
出勤中。
汽車の中にて。


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Update 2019/02/06
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発表をしよう〜スライド作成編(研究をしよう 臨時版2)

今回はスライド作成のポイントについて。

その前に、論文とスライド発表は何が違うのかわかるだろうか。
両方とも同じ研究を世に広めるための行為なのだが、目的が全然違う。
論文は自身の行った研究について、検証可能な形で公表するのが目的。
だから、細かな方法や結果の記述が大事で、引用した先行研究の書誌情報も完璧に網羅していなければならない。
やった研究と同じことを別の人が試すことが可能な構造でなければならないわけ。
これを主に書きことばに頼って行う。
詳しくは論文とは何かを参考にしていただきたく。

では、スライド発表はどうか。
これは限られた時間で効率よく研究の内容を共有することが目的の行為。
与えられた時間に収まるように、いらない情報をギリギリまでそぎ落とし、研究の要点を伝える。
論文が書きことばという道具をメインで展開するのに対し、スライド発表は視聴覚を駆使して効率よく概要を伝えるのがポイント。
内容(やったことと論理構造)が誤解なく伝わりさえすればよく、論文で求められる検証可能性はいらない。
この違いはしっかり把握した上でスライドを作りたい。

次に、作成時の具体的なポイント。
(1)文字は大きく文は短く
文字はなるべく大きなフォントを使う。
これにより見やすくなると同時に情報量が少なくなる。
文字が小さいということは情報量が多いということ。
長々といろいろなことが書かれており、要点をまとめきれていない可能性がある。
要点をまとめるという余計な作業を聞き手に1つ求めることになり、わかりやすさが一段落ちる。
細々書いておくと発表者は読んで発表できるので安心感はあるのだが、聞き手にとってはつまらないプレゼンになる。
そして、細々書いてあるものを聞き手はたいてい読まない。
プレゼンソフトのデフォルト文字サイズで表現しきるくらいの簡潔さがよい。
いらない情報は思い切ってバッサリ切ろう。

(2)1スライド1メッセージ
学生さんは1つのスライドにいくつも情報を詰め込みがちだが、1つのスライドに込めるメッセージは1つにするのが原則。
このスライドのメッセージは何か、と自問した時に、すっと出てくるようにしておきたい。
スライドの上部にタイトルとして、メッセージを書いておくようにするとよい。
こうすることで、聞き手はこのスライドをメッセージに向けて理解しようとするので、伝わりやすくなる。
メッセージは何か、をしっかり把握しておくと、シンプルなスライドを作れるようになる。

f:id:htyanaka:20190203191026p:plain
(1)(2)を適用したスライドの例。これは背景のスライド。
(3)凝らない
研究発表のスライドでは無駄なことはしないのがセオリー。
よって、無意味にアニメーション効果を入れるとかはしない方がよい。
聞き手に理解してもらうためにどうしてもアニメーション効果が必要な場合でも、パッと消す、パッと表示させる、くらいにしておきたい。
ゆっくりフェードインしてくるとか、文字がくるくる回って着地とか、最悪。
笑いをとって場を和ませひきつけるんだ!というような高度なプレゼンテクとかであればまた違うのかもしれないが、そういうのは基本ができた熟練者になってからにしよう。

(4)文字より表、表より図
同じことが伝えられるのであれば、文字より表、表より図を使う。
スライド発表の最大の武器は視覚的に説明が可能なところ。
文字だと1分かかるところが、図だと一瞬でわかる、ということはよくある。
伝えるためにはうまく使いたい。
図表を使った時によくある失敗が、必要な説明が不足しているというもの。
グラフの軸や数字の意味は記載してあるか。
それらの文字の大きさは適切か。
図は直感的にわかってもらうために使うわけだから、そもそも基本的な意味が伝わらないのであれば何の意味もない。
しっかりとチェックしておこう。

f:id:htyanaka:20190203191340p:plain
図の悪い使い方の例。軸の数字が小さくて読めず,縦軸の数字の意味も分からない。

f:id:htyanaka:20190203191745p:plain
少し良くなった図の例。軸の数字と軸の意味がわかるようになった。

(5)1スライド1分が基本
スライドを作るときの目安として、1スライド1分を基本とするとよい。
与えられた発表時間から逆算して何枚スライド作ればよいかがわかる。
ただ、これはその人の発表スタイルによって大きく変わる。
この数字を基本に自分は1スライドにどれくらいの時間を使うのか、スライド仮作成後に発表練習をしながら自分なりの目安時間を設定するとよい。
ちなみに僕は1スライド20秒くらいでポンポン進めるスタイル。
授業は1スライド2分くらいかけてしゃべるけど。

(6)必要な情報は全部入れる
冒頭にも書いたが、研究発表の目的は内容(やったことと論理構造)を誤解なく伝えることである。
なので、以下の情報は必須になる。
・何をやったのか
・何でやったのか(論理)
・結果は何か
・結果の解釈と結論(論理)
これらの情報に漏れがないか、伝わりづらい点はないか、をチェックする。
論理のからんだ部分(「何でやったのか」「結果の解釈と結論」)は、研究自体がまずいとどうにもならないが、「何をやったのか」「結果は何か」は工夫次第で必ず伝わる。
これが伝わらなければ、聞き手には本当に何も伝わっていない、というのと同義になるので気をつけてほしい。
何度も推敲を重ねて、しっかりとこれらの情報を伝えられるようにしたい。
学生さんの発表を聞いているとこのタイプの発表は時々ある。
この場合、中身に関する具体的な質問が出てこないというさみしいことになる。
何も知らない友だちや家族に説明する気になって、丁寧に作り込んでみると、このタイプの発表は回避できる。
ちなみに、プロの研究者でも非研究者の家族や友人に読んでもらって、伝わりにくいポイントについてコメントをもらってそこを修正する、というのは使われる手法。

まあそんなわけで、スライド作成時の注意点はおしまい。
次は、発表に向けてやること編。





羽田空港にて。


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2019/02/03 19:59
日曜の残りを楽しむ。
鳥取市内にて。


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Update 2019/02/03
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発表をしよう〜スライド作成前準備編(研究をしよう 臨時版1)

発表をしよう編は研究をしようシリーズの最後らへんに持って来る予定だったが、まあ卒論発表会も近いので変則的にこのタイミングで書いてみようと思う。
そのうち本編にのどこかに位置付ける予定。

さて。
大学生も学年が進んでくると、研究発表の機会がやってくる。
ここでは発表について気をつけたいことをいくつか書いていく。

まずはスライドを作り始める前に気をつけるポイントを2つ。
(1)スライドのページの設定を4:3にする
最近のパワーポイントはデフォルトで、スライドのサイズが横長(16:9など)に設定されていることがある。
これは4:3のサイズに直しておくのが無難。

f:id:htyanaka:20190203165733p:plain
4:3でページ設定したスライド
f:id:htyanaka:20190203165836p:plain
16:9でページ設定したスライド。
デフォルトの16:9は、横長の画面が一般的になった最近のPCにおいて画面いっぱいになる設定である。
自分のPC上で作っている限りは、画面を無駄なく使えてよいような気になる。
が、発表会場のスクリーンやプロジェクタはまだ4:3仕様のものが多い。
16:9のものでも映せるが、上下にデッドスペースが生まれてしまい、結果小さな表示になってしまう。
非常にもったいない。
紙に印刷して配布資料として配るときも、4:3の方がデッドスペースが減る。
そんなわけだから今のところは4:3で作っておいた方が無難だと思う。
この設定は、パワーポイントだと「デザイン→ページ設定→スライドのサイズ指定」で確認・変更ができる。

(2)シンプルなデザインを使う
研究発表の目的は内容を伝えること。
目立つことで印象を与える必要は全くないので、出来るだけ見やすいシンプルなデザイン選ぶ。
背景に絵があると見づらくなるので、そういうデザインは避けたい。
白地に黒文字とか、濃い色の背景に白抜き文字とか、そのくらいシンプルで構わない。
f:id:htyanaka:20190203164840p:plain
シンプルなデザインの例

f:id:htyanaka:20190203164950p:plain
複雑なデザインの例。シンプルデザインに比べ文字が小さく,デッドスペースが大きくなる。
デザインが凝っていると、デッドスペースが生まれて文字や図が小さくなって見づらかったり、デザインがうるさくて内容に目が行かなかったりと、伝える上で支障が出ることがある。
そうなると、内容を伝えるという研究発表本来の目的が達成されず本末転倒になりかねない。
スライドデザインのかっこよさは、研究発表にはいらない。
注意したい。
文字の配置についても、上にタイトル、その下に本体のスペースというオーソドックスなものがよい。
時々、スライドのタイトルが上にない場合があるが,これはいざ作り始めたときに困ることになる。
聞き手もどこにタイトル(要点)があるのかわからず,混乱する。
避けたいところ。
f:id:htyanaka:20190203165507p:plain
タイトルが下にあるフォーマット。見づらい。
f:id:htyanaka:20190203165603p:plain
タイトルが右横にあるフォーマット。やはり見づらい。

スライドを作り始める前に注意すべきポイントはこんなところ。
次回は具体的にスライドを作るときの注意点について書く。





高松港にて。


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2019/02/03 18:17
仕事終わった。
鳥取市内にて。


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Update 2019/02/03
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本の紹介,「IQってホントは何なんだ?(村上 宣寛,日経BP社)」

IQってホントは何なんだ?
村上 宣寛(著)
難易度:☆☆


知能指数(IQ)を知りたい人向けの本、2冊目。
1冊目「知能指数―発達心理学からみたIQ (滝沢 武久,中公新書)」を読んでいない人はそちらも参考にしていただきたく。
IQはいろいろのところで測定されているのだが、そのわりに知能やIQに関する一般向けの本は少ない。
いい本もいくつかあるのだが、それらは古いものが多い。
そんなか、比較的新しく、内容的にもオススメできるのがこの本。
知能とは何か、から始まり、IQができる歴史的な流れ、IQに関連したテストの紹介、IQとは何か、遺伝とIQまで、この分野のことが幅広く解説されている。

滝沢さんの本は発達の視点が強いが、この本は知能やIQを中心におき、発達的な話は少ない。
子どもや知的障害といった限定なしに、知能やIQを解説しているのが特徴。
言及されている知能テストについても大人を対象としたものが多い。
知能テストとしてはウェクスラー系がメインな印象。
IQと遺伝や男女差・人種差についてはいろいろな研究を紹介しながら、実際のところどうなのか話を進める。
統計的な記述も少し出てくるが、巻末に補足資料もあり問題なく読めると思う。
本書を読むと、ちまたで使われているIQという言葉について、学術的な意味と世間的な使われ方の誤用について知ることができる。

心理学を学ぶ人や特別支援教育に関わる人は一読の価値あり。
教員志望者、現職教員の周辺知識としても役に立つ。
IQって言葉を使ったことあるすべての人の教養としてもオススメ。




鳥取だよ。



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Update 2018/10/14
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