週刊雑記帳(ブログ)

担当授業や研究についての情報をメインに記事を書いていきます。月曜日定期更新(臨時休刊もあります)。

卒業研究のスケジュールを考える

どうやって卒業研究が進んでいくのか。
やったことない人にはイメージしづらいようなので書いてみることにした。
ついでに、どの段階でどんな力がつくのか、具体的にどんなことをやるのか、も書いてみようと思う。
これから取り組む人は参考にしていただきたく。

想定条件は以下の通り。
研究レベル:うちの研究室の標準レベル。
取り組む時間:卒論以外の授業はほとんどない。日中の時間は研究に使うが、夜にバイトしたり遊んだりする時間はある。

インプット期間

必要な期間:4-6ヶ月
伸びる力:専門知識、批判的思考、論理的思考、方法論
先行研究をインプットする期間。
研究のネタを見つけるには一定程度の先行研究の知見が必要。
やりたい研究テーマでどんなことがされていて、どんなことがされていないか。
どんな方法論でアプローチされてきたのか。
これらがある程度自分の中に蓄積されてくると、ああこの辺りが大事なわりにわかってなくて迫れそうだな、というのが見えてくる。
このインプットがないと、研究のイントロが書けない。
学術的に意義のある研究を行うのは不可能であろう。
だいたい30-40本くらいの論文と数冊の本を読むことになる。
ゼミ発表なんかで紹介する論文はこの中から厳選されたもの、というのがベスト。
論文で使われている方法論について調べて理解することで、自分の研究で役にたつ道具(方法論)も手に入れることができる。

研究計画を立てる

必要な期間:2-4ヶ月
伸びる力:論理的思考力、批判的思考力、構想力、まとめる力
ある程度先行研究の知見の知識が蓄積されると課題が見えてくる。
この課題について、研究計画を立てる。
目的や仮説をどんなロジックで導き出すのか。
ロジックに必要な事実(先行研究や政府統計等)、隣接分野で真似できそうな似たような研究、その他必要な情報などを探す。
こういった作業を行う。
場合によってはロジックに必要な事実や研究がみつからず、目的や仮説の変更を迫られる場合もあり結構時間がかかる。
目的や仮説が定まったら、どんな方法論で迫るかを決める。
目的や仮説が素晴らしくても、方法論がついていかずこれらに迫れないということもよくある話。
この場合も目的と仮説の修正・変更を迫られる。
すんなりクリアすることもあれば、時間をものすごく使うことになってしまうこともある、時間の読めないステージ。

調査の準備、データ取り

必要な期間:1ヶ月以上
伸びる力:実行力?専門的経験?
時間は方法論に依存する。
実験なら実験刺激作って、協力者募って、実験を実施する。
質問紙調査とか面接なんかもそんな感じか。
一方で、フィールドに出て長期の観察を行う、といった種類の研究は時間がかかる。
場合によっては1年以上かかることもある。
せっかく立派な研究計画を立てても、方法論によってはタイムリミットに間に合わずできないこともあるので注意が必要。
この場合はできる範囲の研究計画に直すか、卒業を伸ばすか。
悩ましい問題が発生する。

データ分析と考察

必要な期間:1-2ヶ月
伸びる力:思考力、統計的な素養?コンピュータリテラシー
ここにかかる時間、伸びる力は方法論に依存する。
例えば、量的な(数字で語る)研究であれば、得られたデータの平均値を求めたり、統計的な検討を行ったりする。
この過程で統計的な素養、エクセル操作なんかは身につくか。
また、分析したデータを直感的に理解するために、表やグラフにまとめる、なんてことも行うので、こういうのを作る能力が身につく。
一方で質的な研究(フィールドに出て現象をていねいに記述する等の研究)であれば、得られたデータからどんなことが言えるのか、多面的に検討することになる。
このデータは何を意味しているのか。
その背後に何があるのか。
こういったことを一生懸命考える。
場合によっては予定していなかったデータ分析をやってみたり、追加実験を考えたりする。
研究をしたことない人はこの時間を少なく見積もっている場合がある。
結構かかるよ、ここ。

論文執筆

必要な期間:1-3ヶ月
伸びる力:論理的な思考力、文章力
いよいよ、論文を書く時間。
学生さんを見ていると半月から1ヶ月くらいあればとりあえずは書ける。
ただね、ほとんどの場合、甘い。
必要な情報がない、論理的ではない、冗長、説得力がない。
これらはまだマシな方で、文章の構成がおかしい、全く伝わらない、文がおかしい、なんて所からスタートする人もかなりいる。
指導教員に見せて、おかしな箇所を真っ赤にされる。
それを受けて直すと、また真っ赤にされる。
この過程でかなりの文章力が身につくことになる。
本当に、ここでかなり伸びる学生さんが一定数いる。
逆言うと、これに費やせる時間を残しておかないと、この能力を伸ばす機会を失うことになる。
これはね、かなりもったいない。
今後、文章を卒論ほどていねいに見て指導してもらえる機会はそうそうない。

スライド発表

必要な期間:半月〜1ヶ月
伸びる力:まとめる力、プレゼン力、TEDトーク
論文を提出した後は発表の準備に取りかかる。
ここも時間をかければかけるほど、身につく能力がある。
だいたいは論文ができた時点でスライド発表は余裕だと思うよう。
ただ、論文とスライド発表は目的が大きく異なる。
せっかくなのでこの機会に発表技術を身につけたい。
論文が出来上がっている場合、スライド自体は1-2日もあればできあがる。
ただ、だいたいは要領を得ていない。
一度、指導教員や研究室の先輩に見てもらってアドバイスをもらいたい。
スライドの作り方にはコツみたいなものがあって、これは経験者に聞いた方が早い。
アドバイスを生かしてスライドを作り直して、練習をしたり、修正したりを繰り返すとかなりいいものが出来上がる。
この過程で得たスライド発表の技術は社会に出てからもきっと役に立つ。
卒論の発表会でこれがちゃんとできている学生さんはあまり多くない。
でも、きちんと磨いてきたな、ってのもいる。
せっかくなので、意識してこの技術を身につけてほしい。


卒論のスケジュールを考える

以上のことを考えて卒論のスケジュールを考えてみる。

最短ver
3年生
3月 先行研究の調査(インプット)
4年生
4-6月 先行研究の調査(インプット)
7-8月 研究計画の立案
9月 調査準備
10月 データどり
11月 データ分析
12月 卒業論文執筆
1月 卒業論文修正
2月 スライド発表の練習


理想ver
3年生
10月-3月 先行研究の調査(インプット)
4年生
4-5月 研究計画の立案
6-7月 調査準備
8-9月 データどり
10-11月 データ分析
11月 卒業論文執筆
12-1月 卒業論文修正
2月 スライド発表の練習


忘れがちなのは、就活や教育実習等のイベントが入ること。
上のスケジュールはそういうイベントは考慮していない。
そういったイベントで1ヶ月おやすみ、が入り、結果詰まる、というのはよく見る。
注意されたし。
そうするとね、結構時間ないでしょ?
そこんところをよく考えて計画的に進めてほしい。
詰まってきて、計画が後ろにずれ込んでも、なんとか卒業にこぎつけることはできると思う。
ただ、そうなると、卒論の中で得られるはずだった能力のいくつかを得ることができないということになりかねない。
研究のおもしろさ、みたいなものを感じられずに卒業、ということになってしまうかもしれない。
それは、もったいないなー、と思うわけよ、教える側としては。

まあ、そんなわけで、これからの人に向けての記事でした。
がんばれー。




そろそろシーズンがですね。


-----
2019/02/23 20:25
久々のお休みをのんびり。
鳥取ドトールにて。


雑記帳トップへ戻る
HPへ戻る


Update 2019/02/25
Since 2016/03/06
Copyright(c) Hisakazu YANAKA 2016-2019 All Rights Reserved.