週刊雑記帳(ブログ)

担当授業や研究についての情報をメインに記事を書いていきます。月曜日定期更新(臨時休刊もあります)。

AIと大学教育 その3 AI時代の大学教育

今回は大学教育について。
想定読者は主に同業者。

ChatGPTを含めたAIがどんなものかは前回までに書いた。
今回はそれを踏まえて、これから大学教育でどう対処していくかについて考えていく。

レポートによる成績評価

この問題。
大学教員の間ではホットな話題。
僕の周りでも話題になっていて、ちょっと意見を聞かせてよ、となったのがこのシリーズのそもそもの始まり。
で、とりあえず触ってみて、本を読んで、自分なりに考えてみた。
どういうものか、大学生へのメッセージはすでに書いた通り。

その上で。
同業者が1番気にしているのは、成績評価の話。
レポートで使用していいものなのか、禁止しても使用されるのではないか。
この辺りが気にされている。

まず、レポートで使用してもいいかどうかについて。
これはその授業の教育目標とレポートでなにを評価するのかによる。
学生の知識や文章力を問うのであれば、AIの使用許可は適当ではない。
AIが自動生成する文章からこれらを評価することは不可能であるのがその理由。
どういう場合にAIの使用許可を出すのが適当なのか、僕には思い浮かばないが、AIを利用したとしても本質的にその授業の到達目標を測る上で問題ないのであればAIの利用を認めるのはなしではないとは思う。

ただ、レポート課題を出せば、AIの利用を禁止していても使用を防ぐのは難しい。
生成されたものがAIによるか否かを判定するのは難しく、コピペ認定のように証拠を抑えることは困難である。
理由を説明して、使わないでね、と説得的に話すしかないが、それでも使う人は出てくると思う。

よって、レポート課題にて評価を行う場合は、AIを利用していることを前提として内容をかなり厳しく評価する必要が出てくる。
AIを使っても自分の知識を用いて適切に内容を変更した上で作られているのであれば、到達目標は達成されていることになり問題はない。
ただ、AIはただ問題を打ち込むだけでも、従来の方法では「可」「良」になるレベルのものを返してくる。
一般的な文章力については、かなり多くのデータから学んでおり、クオリティは低くない。
AIを使わない時代にはあった、レポートの内容は浅いけどまあ一生懸命書いているし「可」にしておくか、という評価が成り立たない。

よって、レポート課題の評価としては、1つ1つに時間をかけてAI利用を前提としたファクトチェックを行い、間違いを含む場合は「不可」も含めて厳しく評価をする必要がある。
AIを利用するとは、そういうこと。
ただ、これだと評価に時間がかかり、真面目にAIに頼らず学業に取り組んでいる学生が損をすることにもなる。

なお、AIは仕組み的に引用ができないので、レポート中に引用符をつけて引用文献リストを載せればいい、というアイディアもあるらしい。
これは一つのアイディアであるが、本当に引用の内容が原典にあるのか、その保証はない。
結局のところ、ここについてもかなり厳しく原典まで遡ってのチェックが必要になる。

そんなわけで、個人的にはレポートによる成績評価という方法自体が、もうできないのではないか、と考えている。

AI時代の成績評価

では、どのように評価するか。
以下の3つかなぁ、と思っている。
もちろんどの評価方法にするかは、どんな能力を教育したいのか、その能力をきちんと評価できるのか、あたりの吟味が前提となる。

試験による評価

1番いいのは、やはり試験による方法か。
持ち込み可だろうが不可だろうが、その場でAIを利用していないことが明らかであるため、従来の評価基準で対応が可能。
大学ではレポートによる評価が多いが、AI時代では見直されていい方法だと思っている。

試験会場でレポートを課す

コンピュータの使用を認めず、試験会場にてレポート課題を課す方法。
持ち込み可の論述試験と考えたらいい。
レポートに力点を置く場合は、試験時間を増やすなどの対応がありえるか。
あらかじめざっくりとしたテーマを与えておいて、それについての書籍や情報を集めてさせておく。
その上で、会場で詳細なテーマを与えてレポートを作成させる。
前もって詳細なテーマを知らないので、あらかじめAIに聞いておくこともできず、普段の学修による知識と情報、各自の持つ文章作成能力が反映されたレポートが作成される。
評価の基準も、基本的にはAIの使用を想定していない従来のものが使える。

AIを前提としたレポート評価

これは前のところで書いたもの。
AI使用を前提として、AIが出力するクオリティのものを不可とする。
かなりハイレベルな人しか単位の取得が難しくなるため、上級生向けの演習科目など総合力を見る科目向けか。
僕の雑感では、この方法で単位が取れる人は、従来の方法では「優」を楽々取れるレベルになりそう。

教育での利用

そうは言っても、AIが役にたつ技術であることは間違いない。
教育場面での利用を一律に禁止すべきではないとは思っている。
例えば、演習場面で利用してみる、利用して問題点を把握させてみる、十分能力を有する教育目標ではない事柄で利用を推奨する、などがあるか。
まだ技術が新しく、教育上どういう場面で利用できるかの蓄積がほとんどないが、そういうものを探っていく必要はあると思っている。

ただ。
現段階ではどういうものがあるのか、よくわかっていない。
これについては、みんなで探り探り実践していく段階。
アイディアが登場するまで少し時間がかかると思っている。



長らく続いたこのシリーズも今回でおしまい。
惰性で、AIってこれからどうなっていくのか、みたいな妄想記事を書けたら書こうと思っている。




横浜かな。
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2023/05/27 17:32
本日2本目の記事。
鳥駅スタバにて。


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Update 2023/05/27
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