週刊雑記帳(ブログ)

担当授業や研究についての情報をメインに記事を書いていきます。月曜日定期更新(臨時休刊もあります)。

大学の授業作りの大変なところ(大学教員・研究者という生き物4 )

先日とある人と話していたところ、大学の授業って、研究の延長線上にあるのでしょ?と聞かれた。
研究で得た知識を使ってそのまま授業できるでしょ、というような意味だったと思う。
うーん、、、まあ、理念的にはそうなのかもしれない。
が、実際はそう簡単でもない。
そんなわけで、今回は大学の授業について、作り手の視点から書いてみようと思う。

研究領域は学問分野のごく一部

まず前提として。
大学教員の専門性は狭くて深い。
特に研究している専門領域ともなると、みなさんが想像しているよりもはるかに狭い。
例えば、僕の専門は心理学と脳科学
では、論文を書いている領域はというと、心理学の中の、認知心理学という領域の中の、高次認知機能の中の注意機能やら抑制機能やらの中の、そのまたごく一部になる。
これが前述の心理学でどのくらい狭いのかというと、500ページの教科書があったとしたら、まあよくて数ページといったところ。
心理学というタイトルで90分×15回の授業をやるとすれば、自分の研究の話はいいとこ30分といったところではないだろうか。
このくらい狭い。
大昔は教科書なんか無視して、自分の研究の話のみ延々としゃべるタイプの教員もいたが、これは多くの学生のためにはならない。
網羅的にまんべんなくやろうとすると、どうしても自分の研究の話は30分程度になってしまう。
それでも隣接研究分野は論文を読む機会が多いので、研究をやっていれば特に何かしなくてもしゃべることはできる。
ただ、これができるのは90分授業で2回くらいか。
残りのほとんどの分野は、勉強して作り込んでいくことになる。
これは授業のレベルにも関係していて、教養レベルだと自分の研究分野の話は少なめ、専門科目だと多くなる。
大学院の授業だと、研究分野とその隣接にほぼ収まってくれることも。

近接領域の授業

自分が研究していない分野の授業を持つこともある。
たいていは近接分野で、受け持てる教員がいない等の理由で一番近い分野の人が担当する。
この場合は自分の研究の話は一切できない。
その分野についてうっすらとはわかるものの、体系的な知識がないという状態で授業を作らねばならないということもしばしば。
そのため、本格的に勉強してから授業を作ることになる。
こういうのはたいてい、資格を出すため、とか、必修科目とか、諸事情で削れない科目においておこり、本人が望まない形でやってくる。
何らかの理由でそういう科目の担当者がいなくなった場合、隣接分野の誰かがやらねばならぬのだ。
また、改組等により組織で決まったから、という理由で降ってくることもある。
今まで一番すごいな、と思ったのが、他大学のとある実学系理系学部で、所属全教員が理系基礎科目を教える、と決まったため、基礎物理や基礎数学といった基礎科目のいずれかを担当しなくてはいけなくなったケース。
どの基礎科目にも対応してない分野の先生が、数学を担当することになり、大学生以来死ぬ気で数学を勉強するはめになったとか。
このシリーズ、時間をかければできなくはないのだが、多大な時間コストがかかるのでなかなか大変。

検定教科書がない

高校までは検定教科書というものがある。
文科省によって学習指導要領というものが定められており、この中でその学年で学ぶべき内容が指定されている。
検定教科書はこの学習指導要領に基づいて作られている。
検定教科書は専門家に入念にチェックされ、基準を満たしたもののみ、世に出ることになる。
学習指導要領も、専門家が議論を積み重ねて作るもの。
つまり、高校までは内容については十分吟味された上である程度決まっていて、使う教科書も質の高いものがあるというわけ。
じゃあ大学はというと、学習指導要領も検定教科書もない。
大学の教育内容は最先端の学問であり、教員一人一人によって内容が考えられるべき、とされている。
「学問の自由」のうち「教授の自由」の基本的な考え方。
そんなわけで、学習指導要領のようなものが作れないし、検定教科書もない。
すると大学の授業では高校と違って教科書探しから始まる。
教科書用に書かれた本は同じ科目のものでも内容はだいぶ異なる。
この中で自分の教えたい内容を含むものを探さなければならない。
しかも検定というチェック過程を経てないので、間違いが含まれることが結構ある。
内容が古くなっているところもある。
それらのチェックもしなくてはならない。
他人が書いた本がそのまま自分の教えたいことに当てはまることはほとんどないので、複数の本や資料を用いて独自の教材を作っていくことになる。
うまく教科書になる本が見つかればいいが、担当科目によってはそもそもそういう本がないこともある。
この場合はゼロから資料作りということになる。
最先端の知見に関しては、教科書が対応するまでには時間がかかるので、自分で論文や政府統計などをもとに毎年アップデートする必要がある。
この辺は高校までの授業と大学の授業の大きな違いである。

大学の授業は準備に時間がかかる

そういうわけなので、大学の授業というのはちゃんとやると相当な準備時間が必要になる。
僕の場合、新規開講科目を90分しゃべるのに、資料作成だけで1-2日丸々使う。
前年度開講科目でも、90分授業の資料アップデートと準備に1-3時間かかる。
これ以外に、研究分野から外れた授業の場合は勉強時間が必要になる。

僕が大学の時、週に数コマしか授業しない先生方を見て、なんて楽な仕事なんだ、と思ったが、全然そんなことはなかった。
まあでも、業界人以外にはなかなかわかりにくいよなー、と思った次第。


以上、大学の授業のウラ側でした。
ではまた。




お気に入りのスタバ。


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2019/03/10 7:55
これから出勤さぁ。
鳥駅ドトールにて。


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Update 2019/03/10
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