その昔、家に帰るとポストに名刺が入っていた。
名刺には〇〇警察署 〇△課 巡査長 誰野誰太郎、とある。
名刺の後ろには、とある事件について聞きたいことがあるので連絡ほしい、とのこと。
知らぬ間に法を犯したか、冤罪事件か。
何かわからんがついに僕も逮捕か!
なんてことを考えつつ、非日常ワクワク感が勝り出勤途中に警察署に出頭した。
受付で名刺を渡すと、受付氏はどこかに電話。
受付氏に案内され、殺風景な会議室に通された。
しばらく待つと、2人の私服警官が登場。
疲れた年配おじさんと元気な若いにーちゃんだった。
両者とも、ザ・刑事といった雰囲気がバーンと前面に。
ははぁ、なるほど、これが世に言う刑事さん。
「実は、とある事件を追ってまして。◯月×日夕方、ご自宅におられましたか。」と若いにーちゃん刑事。
確か、いた。
「その時、外で何か見ませんでしたか。」と続く。
「何か、とは?」と、僕。
「隣の畑に、車が入り込んでるのみてないですかね。」
そういえば、見た。
車が道路より一段低い畑に突っ込み、出れずに悪戦苦闘していた。
何度か自力で出ようとがんばっていたが、結局諦めて、仲間と思われる別の車に引き上げられて脱出していった。
その旨を話すと、おじさん刑事の目がキラリと光り、こう聞いた。
「車種、わかります?どんな感じの車だったか、だけでもいいんです。」
ただ、車を見た当時は日もだいぶ暮れかけていた。
暗くて正直車種なんて全くわからない。
力強い走りをしていたので、四駆かもしれない。
その旨を話した。
「よく、思い出してください。」
にーちゃん刑事がそう言った時、ふいに部屋の電話が鳴った。
おじさん刑事が取ると、ふんふんと少し話し、どこかに呼ばれたのか部屋を出て行った。
部屋には僕とにーちゃん刑事が残された。
にーちゃん刑事は心なしか前よりも元気になったように見えた。
彼が僕に問う。
「四駆ってどんな感じでした?」
そんなこと言われてもわからない。
「オフロードみたいな車ですか?」
うーん、そんな感じがしないでもない。
僕は煮え切らない態度。
「もしかして、ランクルではなかってですかね。」
うーん、まあそうと見えなくもないような。
走りはそんな感じのパワフルさだった。
やはり煮え切らない感じでそう伝えた。
そこに、おじさん刑事が帰ってきた。
にーちゃん刑事、おじさん刑事に手柄を立てたかのように喜び勇んでこう言う。
「やはり、ランクルだったそうです!」
えー、それは言い過ぎ、と思った時だった。
「それは、どうやって聞き出したのか。」とおじさん刑事。
「車種を言ったら、そうだって谷中さんが。」と、若刑事。
おじさん刑事は、ああ、と言い、若い刑事さんに何か用事を言いつけ、若刑事氏はどこかへ行った。
部屋には僕とおじさん刑事だけになった。
おじさん刑事は僕の方を見てこう言った。
「せっかくきていただいたのに、ごめんなさい。もう、谷中さんの証言は使えません。車種がなんであったか、情報を与えずに証言を聞き出さなければ意味がないんです。今回はこちらから車種を言ってしまった。これでは証拠としての力はないんです。本当に、ごめんなさい。」
ははぁ、なるほどな、と感心した。
早く犯人を捕まえたいだろうが、証拠は証拠。
恣意性を排して真実に迫る。
こうやって冤罪を防いでいるのだろうな、と。
これって、研究にも、あらゆる仕事にも通ずる姿勢だと思うのだ。
頭の中に正しいと思っているストーリーがあって、ほしい証拠がすぐそばに転がっている。
でも焦らず手続きを踏んで恣意的にならないようにして、きちんとした証拠にする。
プロとして大事なことだなぁ、と。
ただ、にーちゃん刑事が同じような心構えの刑事さんと組んでたら、と思うと少し怖くもなった。
おそらく、事件はスピード解決するのだろうが、ごく稀に冤罪を作り上げてしまう。
これもまた、研究はもちろん、どの仕事でも起こりうる話。
気をつけなきゃな、と思った次第。
まあそんなこんなのお巡りさん話。
たまにはこういう記事も書いてみたいと思っている。
これは横浜か。
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2019/12/08 22:56
日曜が終わる。
自宅にて。
Update 2019/12/08
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