週刊雑記帳(ブログ)

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本の紹介,「脳の学習力(ブレイクモア,他(著),岩波現代文庫)」

脳の学習力
ブレイクモア,他(著)
難易度:☆☆☆


この仕事をしていると現役の小・中・高・特別支援学校の先生に、
脳科学に興味あるのだけど何かいい本ないか、とよく聞かれる。
この場合の脳科学の本とは、基礎本や専門書ではない。
現場で役に立つ脳科学という意味である。
脳科学自体の基礎研究は進んでいるものの、なかなか教育現場に役に立つ、というレベルではなく、
それらについてよくまとめられた本で、かつ、わかりやすいものとなるとほとんどない。
そんな中でこれらをすべて満たす数少ない本のひとつがこれ。

内容は最新の脳科学の研究成果から教育への応用を考えていこうというもの。
脳に関する必要最低限の基礎知識を解説したのち、教育に関係ありそうないくつかのトピックを章ごとに扱う。
扱うのは発達から言葉や数といった教科に関するもの、発達障害、思春期、学習過程など、幅広く、
学校の先生が知りたい内容はほぼ網羅されているのではないかと思う。
文体は平易で読みやすく、脳になじみのない人でも読みこなせる。
一般向けの浅く広くな感じでもなく、心理学や脳に関する簡単な知識があるとより楽しめる深みのある内容になっている。

脳科学の応用本というと、研究専門書の域を出ずに他分野の人にとっては難しすぎるものや、簡単にしすぎるあまりに専門的には言い過ぎてしまっているものが多く、
場合によっては専門的な見地から見るとトンデモ本、というものもある。
この本はそれらのいずれでもなく、平易な書きぶりだがしっかりとした内容で、自信を持ってオススメできる好著である。
筆者らはともに脳科学の世界では著名で、たくさんの研究業績を持っている一線の研究者。
そんな彼女たちが教育学者や教員とのやりとりの中で、その必要性を感じ、教員向けに書いたのがこの本なのだそう。
だからなのか、大変バランスがよく、現職の先生方に勧めやすい本になっている。

この本を足がかりとして、教育実践を問い直してみるのもよし、関連の専門書に進むもよし。
もちろん、ただただ知的好奇心を満たすもよし。
現職の教員はもちろんのこと、大学生や子育て中の人にもぜひ読んでほしい1冊である。



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Update 2018/05/15
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