週刊雑記帳(ブログ)

担当授業や研究についての情報をメインに記事を書いていきます。月曜日定期更新(臨時休刊もあります)。

脳科学に関する本(総論編)

脳科学に関する本(総論編)


授業や講演で興味を持った方に読んでほしい本をまとめました。
今回は脳科学を全体的に学ぶことができるものがメインです。
運動系,視覚系といった各論や,発達・教育と関連した脳科学はまた別の記事で。
なお,紹介している本は絶版のものも含みますが,Amazonだとたいてい中古がありますのでそちらを取り寄せてみるとよいと思います。



◎絶対的におススメな3冊

一冊は脳系の授業で教科書指定することが多い本。
教科書指定していなくても必ず紹介します。
それぞれ持ち味があり,違った楽しみ方ができます。

ニューロサイエンス入門(松村 道一)

松村 道一 (1995)『ニューロサイエンス入門』 (サイエンス社)

医療系(学部レベル)や大学院の脳関係の授業で教科書指定することが多い本。
ただ機能や役割を羅列するタイプの教科書ではなく,研究結果を紹介しそれをベースとして脳を読み解くスタイル。
神経の基礎事項から各感覚,運動,高次脳機能系まで幅広く網羅しています。
1995年出版と古いですが,今も読まれているのが名著の証。
少し難しいところやわかりにくいところはあるものの,
サイエンティフィックな好奇心を満たしてくれることと思います。
これから脳の研究をやってみたい,脳の研究について興味がある人にまずこの本を薦めています。

ちなみに僕がこの本に出会ったのは学部学生の頃。
当時は情報科学+数学を勉強しながら,幅広い読書をしていました。
ヒトの知能ということにうっすらと興味を持っていて,
心理学や人工知能などの本を読みあさるうちにこの本を手にしました。
そして,この本によって脳はおもしろい!と思うようになり,
大学院での研究分野をこの分野に決めた,という僕にとって大事な1冊でもあります。


感覚の地図帳(山内 昭雄 他)

山内 昭雄 他(2001) 『感覚の地図帳』講談社

ヒトの感覚について,カラフルにわかりやすく扱った本です。
厳密には脳機能ではないですが,
外の世界から人の身体の中にどのように情報が取り込まれ,
どのように脳まで運ばれていくかがよくわかります。
大型本で非常に見やすく,カラフルで,基本事項からマニアックな話まで幅広く網羅。
初学者から医学生・院生・隣接領域研究者まで幅広く楽しめます。

僕がこの本とであったのは医学系の学生に脳機能の授業をすることになったとき。
カラフルで使いやすそう,と手に取ったのですが,
実際読んでみると新たな発見や再確認できるような事項があって,
気づくと授業の資料という目的を超えて楽しく読んでいました。
視覚障害聴覚障害・肢体不自由等のある人と関わる教員などの専門家にもお薦めです。

脳の地図帳というシリーズ本もあって,こっちもおもしろいです。


Cognitive Neuroscience: The Biology of the Mind(Michael S. Gazzaniga 他)

Michael S. Gazzaniga 他 (2013)『Cognitive Neuroscience: The Biology of the Mind』 (W W Norton & Co Inc)

脳科学系の本でちゃんと読めるものとなると,
日本の本ではあまり多くありません。
ただ,海外に目を向けてみるとおもしろいものがたくさんあります。
英語はちょっと…という方も多いと思いますが,
英語圏の教科書は平易な英語で書かれていて読みやすく,一読の価値があります。
日本語の教科書と比べて,カラフルで図・表や写真がふんだんに使われていて,
眺めているだけでも楽しいです。
日本語の専門書・教科書には残念ながらこの質のものはほとんどないと思います。

この本はそんな海外の大学生向けのテキスト。
認知神経科学の書名の通り,細胞よりは脳の機能に特化して,
各認知機能を研究レベルで詳しく説明していきます。
研究者でも隣接領域・他領域の研究動向をざっと知ることができ楽しめます。
かなりお勧めです。

ちなみにこの本は,
学部学生さんや院生さんと読書会をやりたいなぁ,と思っている本でもあるのですが,
大変残念なことに,ここ6年フラれ続けています。
やりたい!という学生さんがいましたら声をかけてくれると大変喜びます。

もう少し細胞レベルも含めて幅広く勉強したい,という人は,
「Principles of Neural Science(通称:カンデル)」が有名です。
僕は学部学生のとき,現物を確認せずに書店で注文したところ,
電話帳よりも分厚いゴツイのがやってきて,
若干ひいたのを覚えています。
こちらもかなりおススメです。


◎一般向けの脳の解説書

脳関係の本を読んでみたけど,ちょっと難しかった。
そんな人におススメする簡単に読める一般向け書をいくつか紹介します。
どれも似たようなもんだろう,と思っていましたが,
実際読んでみると本によってさまざまな特色があります。

脳を説明する視点としては,大きく分けると解剖学,生理学,心理学,病理学・臨床医学の4つのカテゴリーがあります。
解剖学は細胞の分布も含め脳の形を科学する学問,器官がどのように機能しているか(働いているか)を科学する学問,
心理学は心や心を知るための行動を科学する学問,病理学・臨床医学は病気に関する学問です。
上記4つを中心として様々な学問分野が脳の不思議にチャレンジしており,
著者や監修者の専門性や考え方がそれぞれの本の特色を生み出しています。

下記の中から自分に合った本を見つけてみるとよいでしょう。
知識を深めたい方は複数の本を読んでみることをお勧めします。


運動・からだ図解 脳・神経のしくみ(石浦 章一)

石浦 章一(2016) 『運動・からだ図解 脳・神経のしくみ』マイナビ出版

脳と神経の解剖と生理についてわかりやすく解説した一般書。
見開き2ページ読み切りでこの分野のあらゆるトピックを扱う。
脳の構造や神経の成り立ちなど,解剖と生理学の内容がメイン。
耳や目の構造など関連する身体構造も扱う。
脳機能について少し言及があり,ざっと知ることができる。


徹底図解 脳のしくみ―脳の解剖から心のしくみまで(新星出版社編集部)

新星出版社編集部(2007) 『徹底図解 脳のしくみ―脳の解剖から心のしくみまで』 (新星出版社)

解剖や細胞、機能まで幅広く網羅。
監修は京大霊長類研究所の中村克樹さんで、サルを使った脳機能研究が得意な研究者。
そのためか脳機能についてかなり詳しく記載されている。
機能に加えて、精神疾患発達障害といった関連疾患に関する記述もある。
逆に解剖や細胞のことは必要最低限に留められている。
心理学を勉強していて脳機能を中心に知りたい人や,
学校の先生などで障害理解のために脳を知りたい、という人にはこれがオススメ。


史上最強カラー図解 プロが教える脳のすべてがわかる本(岩田 誠)

岩田 誠(2011) 『史上最強カラー図解 プロが教える脳のすべてがわかる本』 (ナツメ社)

機能を中心に脳に関する知見を全体的に薄く網羅した一般書。
内容は生理学を中心として構成されている。
解剖学や心理学の知見も少しあるが、メインはあくまで生理学。
発達障害脳出血等病気に関する記述もある。
岩田さんは神経科医でその分野では有名な研究者。 基礎の神経生理・脳の疾患系の内容が特に暑いように感じた。
お医者さんが書いた本は難しくなりがちだが、この本は平易で読みやすくイラストもカラフルでわかりやすい。
一線の研究者のインタビューコーナーもおもしろく読める。




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Update 2018/04/14
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