週刊雑記帳(ブログ)

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本の紹介,「高崎山のサル(伊谷 純一郎,講談社文庫)」

高崎山のサル
伊谷 純一郎(著)
難易度:☆


高崎山という山がある。
名前から群馬県にあると勘違いされるが、大分県にある。
大分駅からバスで2−30分くらいで行ける小さな山の名前。
この山の麓には、高崎山自然動物園という施設がある。
普通の動物園とは違い、野生のニホンザルを餌付けしてあり間近で見ることができるというちょっと変わった施設。
群れの気分で出没したりしなかったりする、普通の動物園とは趣を異にする動物園。
このサルたちは人間は無害と思い込んでいるので、まるで我々をまるで石ころか何かのごとく気にせず行動してくれる。

さて。
この本はそんな高崎山のサルの観察を通じて、サルの生態を紹介した本。
と、言っても自然動物園で観察した、という話ではない。
話は自然動物園ができるずーっと前の話。
高崎山のサルが人間に全く慣れておらず、野生のサルの生態も全くわかっていない戦後すぐの時期。
のちに有名になる1人の若い研究者が、全くゼロから野生のサルの生態を解き明かしていく内容。
これが、とてもおもしろい。

この本は2つの側面から楽しめる。
1つはニホンザルの生態。
サルはヒトに近い種。
彼らがどのような性質を持っているか。
特に社会性については、人間というものを考える上で示唆に富むもの。
オスには個人ごとに厳格な上下関係があり、さらにグループごとにも上下関係がある。
これが大変おもしろい。

野生のサルの生態を知る、というだけでも十分おもしろいのだが、この本はもう一つの楽しみ方が出来る。
それは、研究実録記的な楽しみ方。
この本は野生のサルの生態がほぼわかっていない1950年春から始まる。
1950年といえば、戦後5年足らず。
まったくの手探りからの研究の記録がおもしろい。
どこにサルがいるのか、群れの頭数は何頭なのか。
それすらわからない中、ノートと鉛筆と身体のみで立ち向かっていく。
これはね、ものすごい迫力があるよ。
本当に少しずつ、調べ方がわかっていく、わからないことがわかっていく。
これが、研究の醍醐味なのだが、この辺りを著者の歩みとともに追体験できるのがたまらない。

この本は大学生によくおすすめする本でもある。
研究とはどういうものか、これがよくわかるというのが理由の1つ。
ワクワクも、対象に集中する姿勢も、研究となにかがよくわかる内容。
もう1つの理由は、伊谷さんという人物による。
読んでみるとすごい内容だと感心するのだが、何よりもすごいと思うのが、この調査が開始した1950年、伊谷さんは若干24歳。
本が出版されたのが1954年だから28歳。
この歳でこういう研究ができる、こういうものが書ける、というすごさを知ってほしい。
なお、伊谷さんは経歴を読んでいくと、エリートコースを歩んでいるっていうわけでもない。
北大予科を落ちて鳥取高等農林に進んだり、その後受けた京大も一度は落ちて再受験で合格したり。
試験成績と各種能力(ここでは研究能力)は別なんだよ、というメッセージも込めている。

好きすぎて何度か読んでいる、大好きな1冊。
この本を読んでから高崎山に遊びに行ってみるのもまた楽しい。
なお、伊谷さんの著作は他にも紹介しているので、興味があればそちらも読んでいただいて。

ではまた。




f:id:htyanaka:20220306173033j:plain その、高崎山にて。
触れられる位置にこんなかわいいのが。

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2022/03/06 17:27
卒業生と遭遇するなど。
鳥駅スタバオフィスにて。



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Update 2022/03/06
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