週刊雑記帳(ブログ)

担当授業や研究についての情報をメインに記事を書いていきます。月曜日定期更新(臨時休刊もあります)。

本の紹介,「ゴリラとピグミーの森 (伊谷純一郎,岩波新書)」

ゴリラとピグミーの森 (岩波新書)
伊谷純一郎(著)
難易度:☆☆


伊谷純一郎さんをご存知だろうか。
霊長類研究・人類学研究界隈では有名な人で、(広い意味での)サルの研究者。
生まれは大正15年だから、青春時代を戦争と共に過ごした世代。
野生のサルやゴリラ、チンパンジーの生態をフィールドに入り記録・解明していく研究手法を採った人。
ただ。
彼の初期の著作は単なる専門的な学術書という形式のものではない。
サルの生態を体系的にまとめた専門書ではなく、彼の研究記のような作り。
これがとてもおもしろい。

この本は、彼が35歳の時に出版されたもの。
前年の1960年ウガンダタンザニアに単身入り、ゴリラを追った研究の記録。
当時のアフリカはコンゴ共和国が独立・動乱の状態にあった。
もともとはゴリラの餌付けにて研究を行う予定であったが、調査予定地周辺の混乱等で予定通りには進まない。
ゴリラの餌付けどころかゴリラそのものをなかなか見つけられない、などハプニングの連続。
そんな、研究の記録をまとめたのが本書。
研究というともっとスマートな印象を持つ人が多いと思うが、この本はそんな印象を覆す。
研究記というよりは命をかけた大冒険記といったほうがいいかもしれない。
なお、ピグミー(Pygmy)とは中央アフリカ熱帯雨林地帯に住んでいる狩猟民族の総称。

アフリカに入るなりコンゴの動乱で先が読めないというところから始まり、のっけからすでにおもしろい。
その後、どう進むか全くわからない研究や旅行の展開もおもしろい。
現地で助手スタッフを1人雇い、調査の森では現地の民族を雇い森に分入る。
車は故障するし、ゴリラは見つけられないし、サファリアリには襲われるし、もうすごい。
この著者、死ぬんじゃないか、というリアリティあふれる大冒険が展開される。

現地の民族とのやりとりもおもしろい。
文化が全く異なる、森の奥の狩猟民族を雇うのだが、個性豊かな彼らとの交流は興味深い。
異なる狩猟民族間の文化・価値観のぶつかり合いなども想像をこえており、文化・価値観の相違と社会的コミュニケーションの難しさについても色々と考えさせられた。
僕は心理学をかじっているので、そのあたりを考える、これまでにはない知識を得ることができた。
ゴリラ、と題にあるが、どちらかというとピグミーとの交流からヒトについて考える本、と言った方がいいかもしれない。

なお、伊谷さん。
鳥取にもゆかりがある。
彼の生まれは鳥取市内。
その後、京都で育つのだが、高等教育で鳥取に戻ってくる[1]
鳥取高等農林専門学校(現・鳥取大学農学部)で学んで、卒業後京大理学部に進んだらしい。
鳥取高等農林に進む前に北大予科に落ちていたり[2]、京大理学部も一度は落ちているらしいので、研究能力と学業成績が必ずしも一致しない、のかもしれない、 とも思ったりした。
まあ確かに、スマートに学業を修める人にこういう研究はできない気がした。

少し話がそれたので、話を本書に戻そう。
知ることへのあくなき欲望からこんなことができるのだと感心させてくれる。
偉大な研究者の背中を見ることができる本。
研究とはなにか、激しい世界の一部を見ることができる、大学生へおすすめの一冊。
読むにあたっては、Googleマップあたりで地名を調べながら読むと旅気分を味わえてなお楽しめる。

ではまた。
氏の初めての著作、高崎山のサルについてもいずれ紹介しようと思っている。




f:id:htyanaka:20220214192117j:plain 川崎かな。


-----
2022/02/12 12:47
朝からスタバでコーヒー。
鳥駅スタバにて。



本の紹介へ戻る
雑記帳トップへ戻る
HPへ戻る


Update 2022/02/12
Since 2016/03/06
Copyright(c) Hisakazu YANAKA 2016-2022 All Rights Reserved.