週刊雑記帳(ブログ)

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素朴な理解、論理的な理解、学術的な理解 No.3 正しさに迫るために

続きもの3作目。
前回までに、知識や理解のレベルには正しさ・確からしさを軸として3つのレベルがあるよ、という話を書いた。
「素朴な理解」は個人的な経験からの物事の理解で間違いやすいのが特徴、「論理的な理解」は個人内で正しさに迫る方法を実践した上での理解、「学術的な理解」は専門家集団の中で正しそうと共有されたレベルのもの。
まあそんな話。
前回までがまだの人は、No.1No.2を読んでみてほしい。

今回はこれらを自分の理解に活かそう、という話。
前に別シリーズで、 正しいことへの迫り方(なぜ学ぶのか、何を学ぶのか18) という記事を書いたことがあるのだが、これを別の角度から眺めたエッセイ的な読み物と考えていただければ。
学問的な話、大学で身につけたい技術、よりももう少し広い一般的な話として間違わない方法なんぞをつらつら書いていく。

大学で教えていると、大学生の素朴な理解による主張をわりとよく耳にする。
高校までの教科で学んだこと、大学の授業で学んだこと以外の理解が素朴なものであるのは、まあ仕方ない。
ただ、それだと教員に教えてもらうまでは永遠に素朴な理解を脱することはできない。
素朴な理解vs学術的な理解の比較を自分の土俵で行い、素朴な自分が素朴な理解の側に軍配をあげるなんてことも起こりうる。
それが積み重なると、いつまでたっても素朴な理解を抜け出すことができない。
そこで、まずは自分の理解が素朴な理解である可能性を自覚するところからはじめたい。
そして、素朴な理解は、論理的な理解、学術的な理解と比較して確からしさのレベルが落ちる、というのも頭に入れておく。
その上で、一度立ち止まって間違っている可能性を論理的に考えてみたり、自分の意見やその反対の意見の根拠を学術書に求める、というのを心がけると、自分の中の素朴な理解・知識は減っていく。
それだけ正しさに近づくことができる。

誰かの意見を受け取る時もそう。
それが素朴な理解による意見の可能性は十分にある。
鵜呑みにせず、根拠はなんなのか、もし根拠があるならその根拠は素朴な理解なのか、学術的な理解なのか、などを立ち止まって考えるようにする。
多数派が素朴な理解で主張していることもあるから、数は当てにならない。
力を持った個人や集団であっても、素朴な理解による正しくない主張を行うことはある。
あくまで、どういう情報源をもとに展開されている主張なのか、どういう論理構造なのか、などを精査する。
論理構造がよく理解できない場合は、学問の領域の情報を参考にする。
その分野が専門の学者研究者が書いた本を読んでもいいし、SNSやWeb記事をのぞいてみてもいい。
なるべく複数の情報にあたって、学術的な理解・知識を参考にしたい。
これは、何かを学ぶ時もそうで、学問的背景のない専門家でもなんでもない人による本や動画は基本的に間違いを含む可能性が高い。
が、これは本記事とは趣旨がずれるためこれ以上は書かない。

ここまで読んで、学術的な理解という言葉がたくさん出てきて反感を持った人もいるかもしれない。
他の業界・分野だって、正しい理解をしている可能性はあるじゃあないか、と。
それはもちろんその通りではあるのだけど、論理的な正しさという点で学術的な理解にはかなわないと思っている。
この理由は明快で、学問の一番の目的が正しい知識を追求し知識体系を構築することにあるから。
感情も政治的思惑も宗教的心情もさまざまな価値観も捨て、確からしい知識を追求することを最も重視している。
正しい知識に迫るための技術的な蓄積は重厚で、おそらくこれは他のどの分野よりも優れている。
政治業界であれば「正しさ」よりも「よりよい社会の実現」に重きが置かれるし、支持者の持つ素朴な理解からは逃れられない。
宗教分野だと、宗教的な理解というあらかじめ各宗教の信念的に「正しさ」が決まっている全く別の理解の様式が重視される。
「正しさ」のために理解をするのではなく、「正しさ」にそって理解をする、というか。
経済分野だと、儲かるか儲からないかという経営的な価値観からフリーでいることができない。
ゆえに、学問分野の学術的な理解が、論理的な理解の先にあるものとしてはベストだと思っている。

さて、つらつら書いてきたけど、そろそろおしまい。
この「素朴な理解」という概念は頭に入れておいてもいいと思う。
我々人間の物事の理解の基本はこの「素朴な理解」で、ゆえに間違いやすい、ということも。
結構役に立つ。
では、また。





誰もいないベンチシリーズ、秋。


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2025/08/30 19:00
出張中。
川崎市内にて。



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Update 2025/08/30
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