週刊雑記帳(ブログ)

担当授業や研究についての情報をメインに記事を書いていきます。月曜日定期更新(臨時休刊もあります)。

カハンスウダイヒョウシャ、オシゴト記

ずいぶん昔のこと。
隣の部屋の先生が僕の部屋にやってきた。

「僕さ、大学辞めることになってさ。
で、今持っている仕事を引き継いでくれる人を探しているんだけど、やなかさんどうかと思って。」
と、言う。
外の仕事ってことですか、と聞くと、外のと中のと両方あるらしい。
「外部の機関の〇〇委員会の外部委員なんだけどどう?」
「ああ、その機関知ってます!僕関係者なんですよー。」
「ああ、じゃあダメだー。外部委員なので関係があっちゃダメなんだって。」
ははぁ。
「じゃあさ、内部の仕事のカハンスウダイヒョウシャ、の方お願いできないかな。」
「わかりましたー。」
「外部委員の方は時給高いんだけどねー、他の先生に頼むわ。カハンスウダイヒョウシャは内部の仕事だからそういうのはない。」
えぇ、僕外部委員の方がよかったな。。。

そんなわけで、カハンスウダイヒョウシャなるものをやることになった。
漢字では、過半数代表者、と書く。
実はこれ、サラリーマンであれば職場にこれをやっている人がいる場合がある。
過半数代表者とは、労働関係法において「労働者の過半数を代表する者」と定められし者。
略して、過半数代表者、もっと略すと、過半数、となる。

コイツは何者か。
労働は使用者と労働者の契約である。
契約である以上、対等な関係である。
が、そんなのただの理想で、実際には使用者の側に圧倒的な力がある。
これだと、労働者は力関係で使用者に負けてしまい、不利な契約を結ばされてしまう。
これを防ぐために、労働者が団結して団体で使用者と渡り合うことで対等な関係を保障しよう、という仕組みが労働組合というもの。
実効性を高めるため、労働組合法という法律まであって、手厚く保護されている。
労働組合は、使用者と契約や約束事をする主体である。
細々とした契約的性質を持つ就業規則の改定には、労働組合が意見をいうことができるし、他にも使用者と労働者の約束事を結ぶ労働者側の主体としての役割を持っている。
ただ、労働組合は自主的な組織なので、そもそも労働組合がなかったり、あっても多くの労働者が加入していなかったり、ということは想定される。
労働者の過半数の者が加入する労働組合がない場合、組合に代わりその役割を担う個人の労働者を過半数代表者という。
ああ、長かった。
まあ早い話が、労働組合の劣化版的個人、といったところ。
よくよく考えると、大変なものを引き受けてしまった。

1年目、初めての過半数
センセイ、規則改定をしたいので意見書を書いてください。
はーい。
ここにハンコをください。
ぽん!
協定結び直しがいくつかあります。
ぽん、ぽん、ぽん!
わからないことあると質問しては、へー、なるほどー、というのの繰り返し。
いろいろな仕組みがあるもんだなぁ、と思っていたらあっという間に1年が過ぎていた。

2年目になると、少し慣れる。
当然質問が増える。
意見書の内容も1年目よりは濃くなる。
わからないことは自分でも調べるようになる。
で、3年目。
たらららったったったー(某ゲームのレベルが上がった効果音)。
レベルが上がった。
法律を自分で調べるようになると、おかしな点、間違った運用なんかにも気づくようになる。
それを指摘したり、意見書を書いたり、なんやらかんやら。
別に意図的に問題が作られているわけでない。
誰も気づいていなかったり、主張すべき過半数代表者が何も言わなかったりするから問題が生じている。
なので指摘をしたり意見書を書いたりすると、ちゃんと拾ってもらって、改善される。
ああ、これの役割は大事だなぁ、と改めて感じたのがこの頃。
その後経験年数を重ねるにつれて、この感想は強くなっていく。

意見書を書くたびに法令を調べる。
そしてその度にわかるのだが、労働の現場で生じるであろういろいろな問題というのはあらかじめ予想されており、それを防ぐための法的な仕組みもまたあらかじめ用意されていることが多い。
が、これがしっかりと機能していないこともまた多い。
元々、我が国は、労働組合と使用者、という枠組みで労働法制が出来上がっているため、組合が弱いとこれらの制度が使われない。
過半数代表者の場合、組合と違い個人がこれを担うことになるため、いよいよ法的な仕組みが使用されないままになりがち。
その結果として、労働者なんか損してないか?みたいな状況が作り出される。
ね、大事。


ただね。
大変なこともある。
まず、結構に時間を取られる。
法令やその趣旨を調べたり、よくわからないことについては当事者の意見を聞いたり全職員にアンケート取ったりといったことをしなくてはいけない。
論文とは違った説得的な文章表現力も求められる。
法令の読解能力、法改正についても敏感でなくてはならない。
わりと時間資源を食う。

さらに大変なのが方々で嫌われること。
役割上、意見を強めに主張することもあるのだが、こういうのが嫌いな人は一定数いる。
利害が絡むとより嫌われる。
使用者側から見ると抵抗勢力そのものなので、法制度に理解がない使用者の場合、嫌われておしまいになる。
労働者間でもそうで、あるグループの労働者の法的権利を擁護する意見をすることで、別のグループに法的ではな不利益が行くことがある。
この場合、より保護性の高いもの(例えば、法律違反、不利益の回復など)を優先して意見書を書くことになるが、そんなこと知ったこっちゃないというタイプの人にとっては余計なことをする人にしか見えない。
かくして方々から嫌われる。
ね、大変でしょ。
何もいいことはない。
まあでもそういうお役目なので仕方ない。
きっとそういうお役目の人は僕の周りにもいて、知らないところで役割を果たしてくれた恩恵を僕ももらっているはずで、たまたま僕の順番なんだと思うことにしているわけです。

そんなこんなの知られざるカハンスウダイヒョウシャのオシゴトの紹介的記事でありました。
この仕組み、うまく動いていない職場も多いので、働きやすい職場にしたいなぁと考えている人がいたら、やってみるといいかもしれない。
非常に大変なので、何人かで組んで協力しながらやるのがよし。
うまくいくと、ちょっとだけ職場が働きやすい方向に変わる。

でもね。
僕、やっぱ思うんです。
外部委員の方がよかったなぁ。。。

長くなった。
ではまた。




大学内にて。

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2025/10/05 20:24
出張中。
福井市内の宿にて。



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Update 2025/10/05
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