前からずっと読んでみたかった、やなせたかしさんの人生。
なぜかって、やなせたかしさん、いいじゃない。
若くして才能あふれる人の物語は結構あふれているのだけど、注目されずに地道に仕事をこなした人の話はそんなに多くない。
いや、やなせさんだって、成功しているじゃないか、と反論されるかもしれない。
成功はしているし、才能もあふれていたとは思う。
ただ、アンパンマンがテレビで有名になったのはやなせさんが70歳前後の頃。
そこまでは、いろいろな仕事をこなしながら、でも世に知られている、という感じではなかった。
もちろん、たくさんのいい仕事をしているので、才能あふれる人ではあるのだけど、若くからキラキラしている人たちとはなんか違う。
凡人の僕としては、とても気になる作家さんで、前々から興味があった。
ちょうど、NHKでやなせさんモデルのドラマが放送されることになったので、今しかないと思い立って読み始めた。
内容は、アンパンマンへ至る半生をやなせさん自身の筆で振り返った自伝的エッセイ。
小さい頃の話、戦争の話、戦後の職業人としての仕事などを順を追って書く。
やなせさんのさまざまな経験が、少しずつアンパンマンを作る材料になる。
なるほど、こうやってアンパンマンが生まれたのね、というのを知ることができる。
と、まあ、ここまでは想像つく話。
それだけなら、紹介本としてここに登場することはなかったと思う。
ただ、この本はよくある成功者のギラギラした本とはちょっと違う。
読んでみるとわかるのだが、やなせさんの生き様はあまりギラギラしていない。
自分で将来を掴み取る、というような我の強さはあまりなく、淡々と生きていく姿が描かれる。
戦争のシーンからあまり悲壮感がなく、かといって楽観的というわけでもなく。
どこか達観しているというか、淡々と、というのがとてもしっくりエピソードが展開される。
これは、戦争シーンだけではなく、その後の仕事人生もそう。
仕事もそうで、強い意志で選び取って仕事をするというよりは、やってくる仕事をていねいに楽しみながら進めていくような感じで、全くギラギラ感がないのがとても心地よかった。
デザイナー、詩人、編集者、舞台演出、アニメ作家、絵本作家などなど。
活躍の幅がとても広く、しかしながらどの分野でもその道の主流のトップランナーというわけではない。
ただ、仕事が全部無名かというとそんなこともなく、言われれば知っているすごい作品がどの分野にもある。
地味だけどいい仕事をする、そういうタイプの仕事人なのだと思う。
だから、世間的には名前が売れていないけど、いろいろな仕事が回ってくる。
永六輔、いずみたく、手塚治虫、辻信太郎(サンリオの創業者)など、僕でも知っているビッグネームと一緒に仕事をしていて、ちゃんといい仕事で返す。
淡々と、本当に、淡々と。
自分の評価のために仕事をしている感じが全くなく、そこにかなり好感を持った。
ギラギラしていない、というのはそういうこと。
仕事人としての姿勢・ベクトルは僕と似ていて、ちょこっとだけ共感した。
そういう仕事人って、あまり出会えない。
アンパンマンはそういうやなせさんらしい仕事人生の先にたまたま生まれてきたヒーローだなぁと思った。
そして、このヒーローがたまたま子どもにウケることで有名になる。
それは偶然でもあり、必然でもあったんじゃないだろうか。
そんなことを感じさせてくれる本だった。
この本はもう1つ見どころがある。
それは、本のところどころに、自身の描いた絵や漫画などの作品が載っていることろ。
これらの絵が、とても味があっていい。
また、文章が実に淡々として、それでいてやさしくて、やなせさんらしいのがまたいい。
非常に読みやすいので、お時間のある時にでも目を通してはいかがでしょうか。
ほっとひといき、心の栄養補給ができる一冊だと思う。
なお、やなせさんの一生を描いた作品は、梯久美子さんの「やなせたかしの生涯」もある。
梯さんのは梯さんのでおもしろかったのだが、やなせさんの自身による文と絵がとても心地よかったため、紹介本としてはアンマンマンの遺書の方にした。
梯さんはやなせさんと一緒に仕事をしていた人で、梯さんの作品もおすすめ。
併せて読んでみてはいかがでしょうか。
では、今回はこの辺で。
また。
尾道の上の方。
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2025/06/22 23:12
よい子の寝る時間が過ぎてしまった。
寝室臨時書斎にて。
Update 2025/06/22
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