週刊雑記帳(ブログ)

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ステージ別論文の読み方 その3 上級者以上編( 研究をしよう47 )

シリーズ3作目。
卒論生、修論生を念頭に置いて、その初学者編中級者編まで書いた。
今回は、その上級者編+博士以上研究者編を。
ここでいう上級者とは、卒論生・修論生のうち、研究テーマが決まって研究計画を立てはじめたくらいから論文執筆までをいう。

上級者の論文の読み方

研究テーマが決まった。
そこで具体的に研究を進めはじめた、そういう段階へ進む。
中級者編では、研究分野の知識を得て研究分野を絞っていたったり、そのための検索技術なんかを身につける読み方をする、と書いた。

そうこうしているうちに研究テーマが定まる。
すると、具体的に研究を進めるフェーズへ。
論文の読み方もこれに最適化した読み方へと変えたほうがいい。
学生を見ていると、どの段階でも同じような読み方をしている場合があるが、目的に合わせて読み方を変えたほうが研究は進む。
具体的な研究の進め方は、研究計画を練る段階から執筆段階まであるが、それぞれ読み方が微妙に異なる。

なお、「研究を進める」という目的に特化した読み方以外に、初級編や中級編でやったような読み方は時々やりたい。
狭くなっている視野が広がって、思わぬひらめきがやってくることもある。

上級者1:根拠として使うため

研究を進める際、まずやってくるのが、研究計画を立てる段階。
研究というものは、多くの先行研究の知見にちょっとだけ新しい何かを追加する営みのことである。
なので、こういうことがわかっている、AはBである、などという先行研究の知見を根拠として引用することになる。

そのために、根拠として使えるさまざまな先行研究を探すことになる。
根拠として使えそうな研究論文を検索しては読み、使えそうなら根拠として引用できる先行研究に加える。
そうやって研究計画をロジカルに詰めていく。

ここで重要なのが、当該先行研究が自分の研究の根拠として使えるか否か。
もし、当該先行研究に問題があり、その知見が間違っていた場合、自分の研究のロジックは崩れることになる。
なので、これを吟味するために読むのが極めて重要となる。

そういうわけであるから、この場合の候補論文たちについては、イントロから考察までを丁寧に読む必要はない。
研究目的を簡単に把握した後、方法論の正しさ、結果の信頼性・妥当性の吟味、結論の確からしさ、を吟味できさえすればそれでいい。
それらについても全部すみずみまで吟味する必要はなく、引用する内容について、先行研究が根拠になるか否かさえ吟味できれば問題はない。
例えば、研究結果は良いものの結果ら結論の過程には論理飛躍があるような研究があったとしよう。
結論を根拠として引用するのであれば結果から結論までの論理(つまり考察)の吟味が必要となり根拠として使えないという判断が必要である。
結果を事実として引用するだけであれば、その結果に係る方法論と当該結果部分の吟味で足り、根拠として引用できる。
「さまざまな研究が行われてきた」というのの根拠として引用するのであれば、目的とやったことを把握するだけで足りる。
論理飛躍や方法論の問題点を指摘し、そこに迫る研究計画を立てるのであれば、それらの部分の深い読み込みが必要となる。

このように、自分の研究においてどのように使う先行研究なのか、それによって論文を読む際の力点の置き方が異なる。
この段階では、読まなくてはいけない論文の数が多いため、これらの論文については目的に合わせた読み方でパッパと読んでいきたい。
英語の論文であっても、力点を置いた読み方だとそんなに時間はかからないので、ハードルはグッと低くなる。

なお、論文を読んで、引用に耐えないと判断した場合は、その理由を文字ベースで将来の自分に対して残しておきたい。
おそらく、論文執筆段階になり、同じ論文にたどり着くことになる。
この際、前に読んだ記録があると二度手間が省ける。
これについては、「文献を整理しよう」に書いた、データベースを利用するのがオススメ。

上級者2:重要論文を吟味する

では上級者になると論文を精読する必要がないのかといえば、全くそんなことはない。
研究計画を立てていくと、根拠ではなく、自分の研究目的に類似していたり基礎となったりする、重要論文というものが出てくる。
こういう論文については、精読して吟味に吟味を重ねるような読み方をする。
イントロ部分で引用している論文たちには、自分の研究の役に立つものがたくさん眠っているので、それらについても取り寄せて読む。
イントロ、方法論、結果、考察まで、ロジックから先行研究の根拠にいたるまで、吟味に吟味を重ねる。
特に、自分の研究にとって超重要論文については、力を入れてこれをやる。

重要論文は研究のモチベーションが似ていることが多いので、読むことで新しいアイディアが浮かんでくることがあるし、先行研究調査の抜けを防ぐこともできる。
何よりもいいのは、自分の研究と先行研究との差異を自分の中で明確にすることができ、自分の研究の新しさと意義を意識できるようになること。
これは研究計画を立てる際にも研究をまとめる際にも、極めて重要なことである。
重要論文の中には、方法論自体が自分の研究の中で使用できる場合も多い。
これを知るために精読するというのもこの段階の読み方の重要な点。

また。
重要論文がいい論文であれば、論文執筆段階の論運びや書き方を参考にする論文にもなりうる。
何度も何度も読むことで、自分の研究を論文にまとめる際の教師となってくれる可能性が高い。
いい論文をしっかり読み、その文章や論運びを自分のものにしておくと、論文を書く際に見えない力となる。

これについては、研究計画が出来上がった後、実験・調査をしながらこれを続ける、というのでもいい。

上級者3:自分の研究に近い論文の調査

研究計画が出来上がり、いよいよ実験・調査の開始。
この段階になると論文を読む必要がないかというとそんなことはない。
自分の研究と類似した超重要論文を取りこぼしている可能性は常に意識しておきたい。
それに、取りこぼしではなくとも、他の人が自分と同じようなモチベーションで新しく論文を出してくることはありうる。
よって、常にアンテナを張って、そういう論文たちを探し続けては読む必要がある。
同じキーワードで時期を空けて時々、類似のキーワードが思いつき次第新たに、論文検索をしてはそういう論文たちを捕まえたい。
同じような論文がヒットしてしまった場合は、さーっと血の気が引くのだが、存在を知りさえすればまあなんとかなる。

この系統の論文の読み方としては、さらっとを基本として、自分の研究との関連度合いによって、精読の度合いを変える。
自分の進めている研究の目的と極めて近い論文が出てきた場合は、自分の研究との差異を見つけるような読み方をして、自分の研究の優位性を探す。
まあ、この辺りは指導教員が得意なので、見つけ次第相談するのをオススメする。

研究者編

卒論生や修論生としての論文の読み方については、だいたい書き切った。
博士院生や熟練研究者であっても、1つの研究を進めるという意味では、中級者から上級者で書いたことの繰り返しが基本。
流れは卒論生や修論生とそこまで変わらない。
違うとすれば、知識の蓄積があるので、知っている論文の数や方法論が段違いなくらい。
最後に、番外編として、博士院生も含めた研究者の論文の読み方を書く。
当たり前だが、これについては人や分野、担当している業務による幅が大きいと思う。

まず、研究者の場合、分野としての動向を追うために読むことがある。
大抵はいくつかの学会に入っており、その学会の学術誌を読むことができる。
また、カバー範囲の学術誌がいくつかある。
これらについて、最新の研究としてどんなものがあるか、知っておくために目を通すことがある。
おもしろそうだな、と思ったら、自分の研究と関係なくとも深く読むということもしばしば。

大学教員の場合は、授業をするために読むこともある。
大学の授業内容は適切な教科書がないことも多く、教科書があっても内容が正しくないこともある。
そのため、論文を読んでは授業内容の裏どりをすることはしばしば。
教科書等の書籍になっているものは、最新論文よりも古い内容が多いため、最新の内容を盛り込むためには新しい論文を読む必要がある。
僕の場合は、授業のカバー範囲が広いため、学生に質問されても答えられない場合が少なくない。
その場合は、論文を調査し内容を確認してから回答を行う。
授業によっては、学生に合わせて論文を紹介することもあり、紹介するための論文調査、論文読みということもする。

最後は、単純興味で異分野の論文を読むというもの。
新聞やSNS、書籍でおもしろそうな論文を見つけたら、分野関係なく取り寄せて読んでみる。
よくわからないこともあるが、わかる場合もあり、知的好奇心を満たしてくれて楽しい。
これは完全に趣味の領域だが、研究者だとこういうタイプの人もそれなりにいるのではないかと思う。
まじめの卒論・修論をこなして、ある程度論文を読めるようになった研究業界外の人にもこのタイプはいるかもしれない。

以上が、研究者編の論文の読み方。
案外、こうやって直接研究に関係ない研究論文を楽しく読んでいるのが、次の研究のヒントになったりするので侮れない。



大変長くなった。
これにてステージ別論文の読み方シリーズはおしまい。
ではまた。




たぶん羽田。


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2025/05/05 15:30
のんびりモード。
定カフェ、南町タリーズにて。



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Update 2025/05/05
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