論文の読み方がわからない。
これは学生からよく聞かれる悩みである。
論文とは何か、論文のパート別読み方はすでに書いているので、ここでは、ちょっと変わった視点で、論文の読み方についてのアドバイスを書く。
論文を読む、と1口に言っても、その目的にはいろいろなものがある。
初学者の学生はただ漠然と読んでいる人も少なくない。
ただ、目的によってその読み方は大きく異なる。
特に、初学者の場合、研究技術を上げるという大きな目的があるため、そこを意識して読まないと肝心の目的が達成できないことになりかねない。
そこで、僕の思いつく論文の読み方について、研究技術のステージ別にまとめてみようと思う。
ここで書くことは、分野や指導教員の考え方によって多少の違いがあるかもしれないので、そこは気をつけていただいて。
なお、初学者、中級、上級のラベルは、学部生・修士院生くらいを念頭に置いたもの。
博士や研究者のレベルではないので、その辺は頭に置いて読んでほしい。
超初学者:研究・論文を知る
まずはじめに。
とりあえず研究ってどんなものか、論文ってどんなものか読んでみる段階。
教員から論文を紹介されるか、教科書あたりで紹介されている論文を通して読んでみる。
どういう構成で成り立っていて、どんな文体で何が書かれているのか。
それらに触れてみる段階。
1度も論文を読んだことない人は、まず、ちゃんとした論文を数本読んでみて、どんなものかざっくりと触れる。
難しい、よくわからん、などなど、いろいろな感想を持つことと思うが、まずは通して読んでみて、研究や論文を感じてみたい。
ただ、この段階は本当に数本でいい。
これをいくら続けても、研究技術は身につかない。
初学者の論文の読み方
このステージの学生は、研究技術がほとんどついていない。
よって、論文を読むことで、各種研究の基礎技術を身につけることを意識したい。
具体的には、方法論、研究論文の吟味、これの基礎にある能力として読解力や論理的思考力、などを身につける。
また、論文をたくさん読むことで、どんな研究分野があるのか、分野内に研究がどのように分布しているのか、などを知っていく。
具体的に自分の研究進める前の段階で、基礎能力を育みながら、どのあたりの分野に興味あるのか、どの辺りなら研究ができそうか、のあたりをつけていく。
研究論文を読んでいくのと同時並行で、主となる学問領域の方法論の教科書を読んだり、教科書や専門書に目を通す、といったこともしたい。
初学者が意識すべきことを目的別にいくつか書くが、同時並行で自分に足りていない部分を意識しながら進めてほしい。
初学者1:方法論を知る
1番大事なのはこれ。
方法論を知らずして、自分で研究を進めることも個別の研究論文の問題点を指摘することもできない。
ものすごく大事なことなのだが、学生と接しているとちゃんと意識せずに論文を読んでいる人に会うことがあるので、気をつけたい。
方法論については大きく2つの方向性がある。
まずは、研究分野でよく使われる方法論を知っておく、というもの。
分野が成熟しており、方法論の教科書がある場合はこれを読んだ上で論文を読みたい。
方法論の教科書がわからない場合は、指導教員に聞くといいものを紹介してくれるはず。
心理学系の方法論の教科書については、別シリーズの 独学で心理学を学びたい人のためのガイド〜中級編 その2 に書いているので、それを参考にしていただくのがいい。
分野のよく使われる方法論については教科書だけでも網羅はできる。
しかし、教科書の内容は具体性に欠けるところがある。
教科書で扱っている各方法について、実際の研究では具体的にどうやって使っているのか。
これを知ることは研究論文を読むことでしかできない。
いくつかの方法論について、実際それを使用している研究論文をいくつか読むことで解像度が増す。
そして。
もう1つの方向性が、マニアックに深く技術を学ぶというもの。
方法論の教科書はごく基礎的な大枠の内容が並んでいるに過ぎない。
実際の研究論文では、研究を進めるために様々な方法論的な技術が記述される。
それを1つ1つ学ぶことで、自分が研究を進める上での道具を増やしておきたい。
論文を読みながら、方法と結果に関しては、わからないことのないように、しっかりと勉強をしながら読む。
何本か論文を読むと、重複している方法論的技術・知識が出てくることに気づくので、必要があれば専門書や教科書を取り寄せて勉強をする。
これの積み重ねは侮れず、論文を読む速度が一時的に遅くなるものの、研究生活後半に大きな差となって現れる。
論文にたくさん出てきているはずの基礎用語を読み飛ばしている場合、いつまでたっても基礎能力が身に付かず、自分が研究をする段になって困る。
逆に一度身につけてしまうと、多くの場合は様々な研究論文で共通して使われているので、論文を読む速度が速くなるし、自分の研究の道具としても苦労なく使うことができるようになる。
何よりも、これをちゃんとやっていないと、研究論文を読む上で極めて重要な、研究論文を吟味する、ということができない。
吟味できない場合、間違った知見を信じて使う羽目になる。
論文上の方法と結果のセクションに関しては、わからない文字列が完全になくなるように調べながら読む、というクセをつけておきたい。
初学者2:研究論文を吟味する技術を身につける
研究論文は必ずしも正しくはない。
これは別記事にも書いた通り。
正しくなさには様々なものがある。
研究の目的に対して、方法が対応していない。
目的は崇高なのだが、調べ方が間違っている、というのがこのタイプ。
方法論として間違っているものから、目的とは見当違いの方法を選んでいるものまで多数。
結果に書かれているデータと、結論が一致しない、なんていうのもよく見る。
そのデータから、その結論は無理があるでしょう、という論理的に無理があるタイプがこれ。
研究を実施した研究者は、研究仮説を信じきっていて盲目になっているので、結果が自分に都合よく歪んで見えてしまうことがある。
結論を導くその過程で、論理が間違っている、という場合もある。
さらに、なぜその論文をやる必要があるのかがよくわからない、という場合もある。
もうそれ、誰かがやっているよね、から、新しくはあるけどわざわざやるほどかね、というものまで様々。
これは、イントロ(目的や背景)パートで吟味する。
これらを総合的に吟味して、その論文を評価する必要がある。
その上で、その論文の知見を信じるか信じないか決める必要がある。
問題点を見つけ、そこの穴を埋めることが次の研究につながる。
このように、研究論文を吟味する技術は研究を進める上で必須の能力である。
ただ。
これらは一朝一夕にはできるようにならない。
論文を読み、吟味し、批評をゼミの場で共有し、熟達者のコメントから自分の批評の間違っている点を把握しては、次の論文を読む。
その積み重ねで身につくものである。
で、まずは自分で批評をしてみる、というのがスタート地点。
トライアンドエラーで少しずつこれができるようになる、というのが基本であることは覚えておきたい。
ゼミが機能していない、指導教員が論文批評をしない・できない、という場合もあるので、その場合は自分で意識してそれが可能な場を求める必要がある。
具体的な論文の吟味の仕方については、研究をしようシリーズ 2から11を読んでほしい。
初学者3:研究の分野・分布を知る
初学者が研究論文を読む1つの目的に、自分の学問領域でどんな研究が行われているのかを知る、というのがある。
教科書を読むと学問領域にどんな知見があるかはわかるのだが、具体的な研究論文のレベルだとよくわからないということが多い。
自分の領域がマニアック過ぎて教科書からはよくわからない、という場合もある。
これを、研究論文を読みながらクリアにしていく、ということをする。
ゼミ生が何人かいると、各々の持っている論文の領域が異なることが多いので、メンバーの紹介論文をしっかりと読むことでこれに対応できる。
なかなか、網羅的とはならないが、どういう分野があって、どういうテーマの論文があるのか、どのあたりの論文が多いのか、がざっくりわかればそれでいい。
これは自分の研究のテーマ探しとも関係している話。
方法論を学ぶ、論文吟味技術を上げる、というのを意識しながら、いろいろなテーマの論文を幅広く読んでみるのがいい。
視野を広げる、と言ってもいいか。
他のゼミ生が紹介する論文も、視野を広げるという意味では有用なので、そのつもりで発表の聴衆になる、というのも大事。
初学者4:自分の興味を知る
幅を広げるのと同時にやるのがこれ。
なぜ、論文を読むのかといえば、学部生・修士学生の場合、結局のところ自分の研究をするため、というところに行き着く。
ただ、どのような研究に興味があるのか、いまいちよくわからないところからスタートする。
自分がどんな研究に興味を持つのか、これを探すために読む、というのもこの時期の目的となる。
そして、こればかりは読んでみないとわからないところが大きい。
研究というのは、基本的に自分の興味関心が最大のモチベーションとなる。
年単位で取り組んでかなりの労力を割いて1つの作品を仕上げるわけで、興味がないことを研究するのはちときつい。
自分はどのあたりの研究におもしろいと思うのか。
これを探すのがこの時期のかなり重要な目的になりうるのはいうまでもあるまい。
気をつけたいのは、自分の興味の対象はどこに転がっているかわからないということ。
この時期に読む論文はこれを意識して、狭い対象に固め打ちをせず、幅広くいろいろ読んでみるのがオススメ。
他のゼミ生が紹介する論文についても、そのつもりで読んでみるといい。
思わぬ自分の興味対象が見つかったりすることがある。
おしまい
というわけで、本トピック、初学者編まではおしまい。
中級編と上級編、場合によってはプロ編も書こうかと思っているが、いつになるかはわからない。
では、今回はこの辺で。
また。
横浜にて。
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2025/04/29 14:29
昭和の日をのんびりと。
鳥駅スタバにて。
Update 2025/04/29
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