さて、前回授業編を書いた。
今回は、研究編。
よって、学生のための学び方入門ではなくて、研究をしようシリーズに。
ただ、研究の中で鍛えられるというだけであって、大学生のうちに身につけておきたいより一般的な意味での質問力と意味合いもある。
研究のみでしか使えないということではないので、その辺は誤解なきよう。
授業で鍛える質問力は、疑問点を見つける力、それを言語化する力、それらに加えて質問度胸、がメイン。
コンテンツの理解を助ける、というところに力点が置かれていた。
ただ、研究で鍛える質問力は、正解に迫るためのテクニック。
授業編の1番最後に書いた、矛盾点をつく、というのがやや似ている。
社会に出ると、その段階で答えが存在しないことがかなりある。
最もらしく聞こえる他者の意見について、質疑を通じてその真偽を見極める、というのは結構大事な技術になる。
もちろん、これを自分の内に向けることもできる。
自問自答した上で、よく練った案を出す、というのが極めて役に立つのはいうまでもあるまい。
研究編で鍛える質問力は、こうした真偽の見極めに必要な質問力と思っていただいて差し支えない。
社会に出た後、仕事をする上でかなり役に立つので、研究活動の中でぜひ身につけてほしい。
では、いざ本編。
レベル0:質問度胸をつける
この段階と次の段階は、授業編でも身につくこと。
ゼミなど研究発表の場で、他者に必ず質問をするようにしよう。
必ずわからないことを見つけ、それについて質問することで質問度胸をつける。
いざ質問するとなるとドキドキしてなかなか言い出せないもの。
ただ、これは慣れみたいなものなので、どんどん質問するようにしよう。
ただし、質問については吟味して、自分が思いつく中で1番難しいものにする。
これは発表者とその場にいる人たちに対する礼儀でもある。
早い段階で質問度胸をつけたら、次の段階へ進んで意味のある質問ができるようになりたい。
なお、レベル0は、質問力を鍛える〜授業編も参考になる。
レベル1:質問瞬発力をつける
研究編の質問で難しいのは、限られた時間で質問を作らなくてはならないところ。
授業の場合であれば、後々資料を見返しながらリアクションシートやメールで質問するという方法もある。
が、研究の場での質問は、発表時に付随した限られた時間で行わなくてはならない。
これが結構きつい。
集中力を最大限発揮しながら、わからないポイントを考え、その中から1番重要そうなことを質問にする。
質問を言語化する時間も限られおり、瞬発的にポイントをつかみ、考えた上で言語化して相手に投げかけなくてはならない。
このスタイルの質疑応答は、社会に出ても会議を中心にかなり必要となるシーンが多い。
大学卒業しても身についていない人が多いので、質問ができるだけでも結構なアドバンテージだと思う。
ただ。
おそらく最初はうまく質問が考えつかない。
そこで、最初のうちは、研究発表についてあらかじめ予習をしておき、場合によっては質問を考えておくなどの準備が必要。
論文紹介のゼミなら、あらかじめ論文を読んでおき質問を考えておく。
学会や研究報告会などの研究発表の場では、研究の発表資料や関連論文をあらかじめ読んでおく、などが考えられるか。
準備をしっかりした上でゼミや発表に臨んだ場合、自分で質問を捻り出すのも訓練になるが、他者の質問もかなり勉強になる。
なるほど、この材料からこういうポイントを質問するのか、と他者の質問から学ぶことができるのも、ゼミや発表会の醍醐味。
レベル2:知らないことを質問をする
まずは、発表の中からよくわからないことを聞く。
素朴なものでもなんでもいい。
一回の発表を聞いて全部完璧にわかる、なんてことはないはずなので、何かは出てくる。
この段階の質問が出て来ない場合、発表に集中できていないか、疑問を言語化することができていないかのいずれか。
練習だと思って果敢にチャレンジしたい。
なお、自分のわからないことは、その場の多くの人もわかっていないことが多い。
純粋に知らないから説明してくれ、でも、ゼミの場くらいなら問題はない。
あまりに基礎的なことで、それを自覚しているのであれば、次回以降はちゃんと勉強して聞かなくて済むようにする、などの自助努力は必要。
時間は有限なので、自分の勉強不足みたいな質問は最小限にしたい。
でも、教育の場では、しないよりははるかにマシだと思っている。
レベル3:場の理解を助ける質問をする
知らないことを聞く、の高等なバージョン。
知らないことの中には、知識としてただ教えてもらう類のものと、研究の本筋を理解する上で知らなくてはならないものがある。
ある程度質問慣れしてきたら、知らないことの中でも、研究の本筋を理解するのに必要なものを選んで質問するようにする。
この手の質問は、その場で発表を聞いている別のメンバの理解の助けになる。
わりと喜ばれるタイプの質問。
もう一段進むと、場のために意図的にそれをやる、という質問テクもある。
発表というのは、する側も不完全なもの。
それゆえ、研究の本筋を理解するのに情報が足りない、あいまいな点、などが入りこむ。
これについて、質問して追加情報を聞き出したり、確認をしたりして、場に追加の情報を提供する。
これはかなりいい質問で、これができるようになるとかなり武器になる。
就活のグループディスカッションなんかだと、いい意味でかなり目立つ。
社会に出ても会議なんかでは重宝され、ファシリテーターとして会議全体の力を引き出すキーマンとなれる。
レベル4:本質に関係ある疑義を質問する
研究発表にしろ会議にしろ、発表者の主張に対してあれやこれや議論して、一定の結論を導き出すためにやる。
研究だったら、その研究がどんなロジックでどんな結論(主張)をしているのか。
それは正しいのか、それともそうではないのか。
会社の会議でも同じで、発表者がなんらかの主張をしていて、その主張は正しそうなのかを判定するためにやることが多い。
すると、質問自体も、本質に関係あるものの方が意味があるということになる。
その方法論だと、その結論に至るには情報が足らないんじゃないか。
分析のこの部分がわからないんだけど、それがわからないと結論が正しいかがよくわからない。
先行研究と発表の整合性はとれているのか。
結論・主張にいたるロジックがわからなければ、それをクリアにする。
こういったことを質問する。
これによって、発表内容への理解が深まる。
質疑のレベルとしてはなかなかで、これができるとどこでも一目置かれる。
レベル5:結論・主張をひっくり返す質問をする
レベル4の究極な形がこの質問。
発表者は「〇〇である」という主張をする。
が、これが間違っていることはわりとある。
これを質問という形であぶり出す。
発表者の行う主張というのは間違っていることがある。
これは、意図的な場合と気づいていない場合の両方がある。
こういう情報を質問によって引っ張り出して、場合によっては結論をひっくり返す。
前提のこの部分は根拠として正しいのか、なぜそう考えるのか。
このデータの取り方だと、その分析はできないのではないか。
仮説の設定にいたるロジックに飛躍があるのではないか。
先行研究のこの部分と結果は矛盾していないか、どう考えたらいいのか。
などなど。
卒論発表会などで教員がしてくるであろう、大変イヤなタイプの質問を思い浮かべていただければいいか。
国会中継の野党の追及や、裁判でのやり取り、記者会見の記者による追及などもこの部類のものがある。
議論の場、討論の場における質問というのの大きな役割がこれ。
なぜ、会議をやるか、発表討論会をやるか、というと、内容の正しさをみんなで吟味する、というのが大きな目的。
理解ができているというのは前提として、で、発表内容は正しいのか、我々はこれを信じていいのか。
これを判断するために行う。
よって、主張をひっくり返す質問というのはかなり重要。
裏を返すと、これができる能力を有しながら、主張をひっくり返す質問ができない、主張をひっくり返せない、ということになれば、それは信じていい、ということでもある。
ちなみに。
このレベルの質問力は、自分が発表者になった場合にも生きる。
自分の発表内容について、研究について、自分で突っ込むことができるということ。
あらかじめ自分で高度な想定質問で突っ込んでおいて、その穴を潰しておく。
こうすることで、自分の研究や発表内容はかなり洗練される。
なお、このレベル5の話は、これ自体で1本記事が書ける。
いつか気が向いたら書いてみようと思っている。
が、長くなったので、本日はここまで。
ではまた。
羽田空港にて。
-----
2024/05/05 17:27
休暇だよ。
横浜のお気に入りタリーズ2号にて。
Update 2024/05/05
Since 2016/03/06
Copyright(c) Hisakazu YANAKA 2016-2024 All Rights Reserved.