週刊雑記帳(ブログ)

担当授業や研究についての情報をメインに記事を書いていきます。月曜日定期更新(臨時休刊もあります)。

独学で心理学を学びたい人のためのガイド〜初級編

心理学を勉強したいのですが、どうやったらいいですか。
これはわりと受ける質問。
せっかくなので、記事としてまとめておこうと思う。

心理学を学びたい、にはさまざまなレベルがある。
教養レベルの知識が欲しい、学部で心理学を専攻するのに準じた知識技能を身に付けたい、大学院で心理学系の研究科に進学したい。
それぞれのレベルに応じて、学ぶことが異なる。
よって、レベルをわけて紹介していく。

今回はその初級編。
ざっくり、教養レベルの知識+αを学びたい人向け。
想定読者は心理学以外の専攻の大学生、一般の方。
心理学系でも、自習するのに本が知りたいという人には、少し役に立つかもしれない。
もっと高度な知識技能を身につけたい方、心理学系の大学院に進学したい方も、まずはここから学んでいただいて。

心理学を全体的に知る

初級編では、まずざっくり心理学の各分野について学びたい。
心理学とはどんな分野なのか。
おそらくイメージしているものともちょっと違うと思う。
そのため、まずは広く浅くの本を読み込む、というのがスタートになるか。

なお、教養の心理学は15回だと全分野扱うのが難しく、わりと担当教員の専門分野に偏りがちになる。
よって、教養の講義で心理学を取ったとしても、それだけでは足りないのは頭に入れておいてほしい。

さて、ではどうしたらいいか。
下に2冊、広く浅くの教科書を紹介しておく。
これらの本を、2−3回読んでみてほしい。
できれば2冊とも読めるとよい。
だいたい、心理学という学問分野がどういうことを扱っているのか、わかることと思う。
どの分野がおもしろそうか、自分なりの興味を開拓するつもりで読んでみよう。

心理学 新版 (New Liberal Arts Selection) (無藤 隆 他著)

1番の推しはこの本。
心理学ではいい教科書がたくさん出ている有斐閣より、心理学の分野全体を満遍なく扱った教科書。
シリーズ名に「New Liberal Arts Selection」とあるように、教養レベルの本として編まれた好著。
ただ、この本は教養レベルにしては内容が厚い。
この本を学生に紹介すると、教養レベルであることを信じてもらえないくらい、厚い。
分野も、基礎の認知心理学系から、発達、教育の各心理学、盛り上がりを見せる社会心理学、そして心の支援を扱う臨床心理学まで、幅広く網羅している。
2018年に新版が出ており、最新の内容に更新されているのもよい。
僕が心理学を学びたい、と相談を受けるとまず紹介するのがこの本。
なお、ページ数は700弱あり、ボリュームも十分。

心理学 第5版補訂版 (鹿取 廣人 他編)

もう1冊は古典的な教科書のこいつ。
編著者はいずれも超大御所で、この本も結構昔から使われている。
この本も心理学を網羅的に扱っており、全体像を学ぶには最適。
有斐閣の心理学新版よりもページ数は少ないが、濃い。
編者が超大御所級なため、やや堅く古い気もしなくはないが、学ぶには最適。
有斐閣の心理学新版とこの本、どちらが好きかは好みによるところが大きいので、両方を手に取ってみて良さそうな方から読んでいただければいいかと。
僕はこっちの方が好み。

興味ある分野を掘り下げる

広く浅くの本を何度か読めば、なんとなくわかった気になる。
それと同時に、興味がある分野が出てくることと思う。
例えば、認知心理学がおもしろいぞ、とか、発達がたまらん、とか。
そういうのがわかったところで、次の本に進む。
本の攻め方としては、教科書系に進むのと、新書系に進むのの2つがある。
学ぶという意味では、その両方をやってみるのがいいと思う。

各論の教科書系

認知心理学発達心理学など、心理学の中でも専門に特化した分野を体系的に学ぶのがこれ。
その分野を網羅的に、学べるのがこの方法のいいところ。
掘り下げて、興味を持った分野にどのような知見があるのか知ることができる。
教科書系学習のよいところは、その分野を満遍なく学べて、取りこぼしが少なくなること。
同じ分野の教科書を2冊程度読むと、それなりの知識がつく。
難点は、具体的な研究からの距離がやや遠いこと。
これは、新書系での勉強で埋めたい。

おすすめの本をいくつか載せておくので、興味があったら取り寄せてみていただいて。
なお、各論の本は初学者だけでなく中級者にもおすすめ。
中級者の学びの中心は、これらの各論を学びまくる、というものになる。

いちばんはじめに読む心理学の本

いくつか各論が出ているこのシリーズ。
発達心理学は僕の授業の教科書指定しているくらいの名著。
「いちばんはじめに読む心理学の本」というコンセプト通り初学者にやさしい。
文献紹介が充実しているのもよいか。
この本を足がかりにさらに学べる。

New Liberal Arts Selection シリーズ

心理学新版で紹介したシリーズ。
認知心理学社会心理学など、いくつか各論の教科書が出ている。
心理学新版がハマった人は、このシリーズを使うのはあり。

よくわかるシリーズ

ミネルヴァから出ているこのシリーズ。
心理学に限らず、かなりマニアックに教科書が出ている。
数ページ読み切り1トピックで読みやすいのが特徴。
編者によって当たり外れがあるが、総じてよいものが多い。
難易度がやさしめなのもよい。
今回紹介したシリーズの中ではかなりマニアックな分野の本も出ている。
特定の分野について深く学ぶことが可能。

放送大学教科書シリーズ

わりと推しているのがこのシリーズ。
放送大学は全科目独自の教科書を出しており、これは一般向けに売られている。
この教科書は、教科書のみでも学べるように平易に書かれており、学ぶには最適。
放送大学公認心理師の養成を行なっており、それ向けの科目が豊富にあるのも魅力。
心理学部に迫る知識技能をつけたい、中級者も使える。

新書系の攻め方

新書ってなぁにについては、こちら(新書をうまく使う(大学生のための学び方入門11))を。
心理学系の新書については、ここでひとつひとつ紹介するのは難しい。
そこで、ここでは探し方を。

ひとつは教科書系の書籍の文献欄から見つけてくる、というもの。
最近の入門書は読書案内が載っているものも多いので、ここから探す。
参考文献、引用文献の一覧にいる場合もあるので、ここからおもしろそうな本を見つけてくるのも手。

大学生であれば、教養の心理学を担当している教員に紹介してもらう、というのもあり。
知り合いの心理系教員のところに遊びに行って教えてもらうというのもいい。
大学図書館の心理学の書架に行くと、新書が並んでいることもあるので、そこから探すというのも有効。
マニアックなやり方だと、各大学の公開されているシラバスを見る、という方法もある。
例えば、「発達心理学 シラバス」で検索をかけると各大学の発達心理学シラバスがたくさん出てくる。
この中には、熱心な教員による本の紹介が含まれていることがある。
ここからおもしろそうなものを選ぶ。
大学教員の選別が入っている場合、ハズレやマガイモノを引く可能性はうんと減る。

それ以外だと、大きな本屋(例えば、丸善本店)の心理学コーナーや新書コーナーに行って物色、というのもある。
これは、大学生協でもできる方法。
ぜひ、お試しあれ。

長くなった。
このシリーズ、心理学各論の学び方シリーズともっと深く学ぶ方法の、2方向に展開する予定。
ではまた。




益田駅、か。

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2023/05/07 19:15
GWの帰り。
鳥取行き飛行機内にて。


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Update 2023/05/07
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