週刊雑記帳(ブログ)

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本の紹介,「ことばの発達の謎を解く(今井むつみ(著),ちくまプリマー新書)」

ことばの発達の謎を解く
今井むつみ(著)
難易度:☆


赤ちゃんはことばをどのように学んでいくのか。
多くの人が特に苦労なく環境から学ぶ形で言語能力を獲得していくので、簡単なことのように思える。
しかし。
大人であればわからない言葉があった時、他の知っている言葉の言い換えで学ぶことができるのに対し、赤ちゃんではそうはいかない。
そういう状態で、一体どうやって言語を学んでいくのであろうか。
よくよく考えてみると、謎と不思議がいっぱい。
本書ではこれらの謎と不思議に迫り、ことばの本質について考える。

胎児の頃からリズムとイントネーションを学び始め、次第に高度に発達する。
言語も知識も未発達という制約の中でどうやってこれらを成し遂げるのだろうか。
ある時はヘレンケラーのような特殊事例、ある時は子どもがよく犯すことばの間違い等、事例を上げながらことばがどのように発達していくのかについて考察する。
ことば、と一言に言っても、名詞・動詞等の性質の違い、「て・に・を・は」の使い分け、等々、かなり細かなルールや機能を学ぶ必要がある。
これらの細かな一つ一つについて、事例や実験結果を上げながら迫っていく。
ああ、我々はこんな複雑なことを自然と身につけたのか、とびっくりさせられる。

特におもしろいな、と思ったのが、その調べ方。
著者の今井さんは心理学者で実験的手法も得意。
これらの成果も紹介してあり、これが大変おもしろかった。
子どもに疑似的な言語を呈示し、その反応を見ることでことばの発達を調べる。
例えば、「チモル」という意味のない動詞的な疑似言語を使って、動詞の理解を調べるというもの。
我々は文の中で、「チモル」のようなものが動詞的に使われていたら、これを動詞として認識するし、意味がわからなくても「チモッテイル」のように動詞的な活用もできる。
では、子どもはどうだろうか、というのを実際にこの言葉を実験的に呈示して調べるわけ。
これがすごくおもしろくてワクワクした。
僕の実験屋さんの血が騒いだ、というだけではないと思う。

後半では、言語と思考の関係についても展開。
いかに言語が思考をしばるか、さまざまな知見をもとに論じていて、これもおもしろい。
数の大きさを示す言葉が「1、2、それ以上」の3つしかない言語系の民族では、4、5が正確に捉えられないという話など、興味深い研究知見をもとに言語と思考の関係について書く。
この部分もまたおもしろかった。

非常に平易で、高校生から読める一般向けの本。
平易だが学術的にもおもしろく、隣接分野の研究者でも楽しめる。
引用や文献一覧がしっかりしているため、さらに学ぶことができるのもよい。
このトピックに興味があるすべての人におすすめできる良書。
言語以外の発達の知識があるとさらに楽しめること間違いなし。
発達心理学の乳児期・幼児期、教育心理学認知心理学の言語関連、この辺りの副読本としてもおすすめ。


では今回はこの辺で。
また。




f:id:htyanaka:20220404154009j:plain 鳥取市内にて。


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2022/04/04 15:27
今日は休暇。
日本の某所にて。



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Update 2022/04/04
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