週刊雑記帳(ブログ)

担当授業や研究についての情報をメインに記事を書いていきます。月曜日定期更新(臨時休刊もあります)。

エビデンスと確からしさ

前回の続編。
前回は科学的なエビデンスについてと、経験知だって役に立つ、ということを書いた。
今回は、エビデンスについてもう少し。

ある事実について、研究論文によるエビデンスがあるとする。
この事実は正しい、と信じてよいのだろうか。

正解は、ダメ。
なぜか。
まず、研究論文自体に問題があり、事実が正しくない場合がある。
例えば、方法論に問題があり、結論が間違っている場合。
統計手法の誤用、データの集め方がおかしい、実験・調査に構造的な欠陥があるなどなど。
論理展開に問題があり、結果と結論が結びついていない場合なんかもある。
そもそも、嘘で塗り固められた研究成果、ということだってないわけではない。
まあこの辺りは、以下の記事あたりを読んでいただいて。
論文は正しいとは限らない
論文に嘘を書いたりしないの?(研究こぼれ話 No.1)

その研究論文自体に問題がなくても正しくない場合もある。
例えば、たまたまその結果が出てきた場合。
あらゆる現象は確率的に生じるため、これはありうる。
前提としていた知識があとから間違っているとわかって、全部ひっくり返ることだってある。

このように、エデンンスは絶対的ではない。
ただ、絶対的ではないものの、エビデンス自体の「確からしさ」というものは存在する。
これは、一つの研究に限った話だけではなく、複数の研究成果を併せた知についても考える必要がある。
これを意識してエビデンスと付き合うと、正しくない情報に振り回されづらくなると思っている。
以下、「確からしさ」のレベルを解説していく。

レベル1:まだしっかりとしたエビデンスがない段階

研究論文は出版されているものの、問題点があるなどして実証されていない段階。
ひょっとすると将来実証されるかもしれないが、真実と信じると間違う可能性が高い。
特定の研究者やグループのみが主張している状況で、エビデンスというよりはまだ仮説と認識した方がいい。
簡単な問題点であれば、大学・大学院でしっかり研究リテラシーを身につけておくことで、見つけることができる。
わからなければ、他の研究者がどう言っているのかを聞くのがよいか。
エビデンスと誤解されることで悪影響のありそうな研究についてはいろいろな研究者の批判がある。

レベル2:1つもしくは少数のエビデンスがある段階

研究論文としては問題点のない論文が少しだけある段階。
特に出たての最新の研究成果などがこれに当たる。
マニアックで後に続く研究がないため、という場合もあるか。

この場合、その研究自体は正しいが、将来の研究において再現されない可能性、覆される可能性がある。
偶然その研究結果が出てきたけど、実は確率的なもの、という可能性があるのがこの段階。

速報的なエビデンスは大抵この段階であるため、無条件に信じるとえらい目に会うということを覚えておきたい。

レベル3:複数の研究で再現されているが、批判的な知見もある段階

レベル2のエビデンスも時間が経つと、研究を真似して確認(再現性を検証)する人が出てくる。
丸々真似をしなくても、その研究をベースに少し先に進む、ということはされる。
こういった、他のさまざまな研究が行われた上で、何度も結果が支持されている段階がここ。

研究成果が確率的に偶然出てきた可能性はかなり減り、ある手続きであれば何度でも再現可能。
こうなると、エビデンスは結構カタイということになる。
この段階であれば、ある程度信じても痛い目にあうことは少ない。

ただ、批判的な知見、否定的な研究結果はつきもの。
この場合、批判側のエビデンスがレベル1、2以下の段階にあって間違いであることもあるが、ある条件で普遍的に生じるある真実が隠されていることもある。
後者の場合は、将来的に否定的な部分も包含した新しい考え方が提案される可能性がある。

レベル4:ほぼ批判がない段階

多くの研究で再現されており、ほとんどの研究者が支持している段階。
もちろんレベル2以下の批判的エビデンスはあるかもしれないが、その数は極端に少ない。
さまざまな角度・条件での豊富な研究の蓄積があり、エビデンスとしての確からしさが高い。
理論的にも普遍性が高く、論理も一貫している。
こうなると、エビデンスとしてはかなりカタイ。

ごく稀に、斬新な視点やモデルなどによって、根本から覆されることもないではないが、そういうのはもう事故みたいなものと思っていいレベル。
例えば、コペルニクスによって天動説が地動説にくつがえされた話なんかがそう。



と、まあこんな感じか。
「科学的に証明された」「エビデンスがある」は悪用されうる。
例えば、これらの言葉を権威づけに使って、事実でないものを事実と信じさせようとだましにくるような場合もある。
科学やエビデンスという言葉の意味をよく知っておくと、そういうことはなくなるので、しっかりとおさえておきたい。

ではまた。




f:id:htyanaka:20220110163456j:plain 備後落合という風光明媚な辺境の駅。
よき。

-----
2022/01/10 16:31
休暇中。
鳥駅スタバにて。


雑記帳トップへ戻る
HPへ戻る


Update 2022/01/10
Since 2016/03/06
Copyright(c) Hisakazu YANAKA 2016-2022 All Rights Reserved.