週刊雑記帳(ブログ)

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本の紹介,「窓ぎわのトットちゃん(黒柳 徹子,講談社)」

窓ぎわのトットちゃん
黒柳 徹子(著)
難易度:☆


僕は大学で教員を目指す学生さん相手に話す機会が多い。
特に、一般の教室で困ってしまう子どもたちの教育についてよく扱う。
そんな授業で、時々紹介するのがこの本。

この本の主人公は著者の黒柳徹子さんの幼かった日々の姿であるトットちゃん。
時は太平洋戦争のちょっと前。
おしゃべりで気が散りやすい新小学生トットちゃんは、地元の学校で大はしゃぎ。
先生の手に負えず、ついには学校を追い出されてしまう。
そこで、ちょっと変わったトモエ学園という学校に通うことになる。
そのトモエ学園での出来事を中心に、トットちゃんの日常を描いた物語。

この物語、キーとなるのはトモエ学園の校長先生。
この先生がとてもよい。
常に子どものためを考えていて、子どもと対等で、優しくて、トットちゃんとは強い信頼関係で結ばれている。
彼が実践する自由で温かく見守るタイプの教育は、教育とは何かについて考えさせてくれる。
教員を目指す学生さんや現場の教員は、本書から学ぶものが多いことと思う。
そしてもうひとり素敵なのが、トットちゃんのお母さん。
怒ったりしばったりせずのんびりと奔放なトットちゃんと付き合う。
これは簡単なようでなかなか難しい。
作中でのびのびと育っていくトットちゃんの土台として、こういうお母さんと家庭があった。
この辺りもいろいろと考えさせてくれる。

彼らのすごいところは、この物語の舞台が昭和初期であるところにある。
この当時、発達障害という概念もADHDという概念もなかった。
今でこそ、これらについていくらか知られるようになって、読めば、ああADHDっぽいなとわかる。
当時は、特性や対応がある程度共有されつつある現代とはずいぶん違うはずで、その中で、こういう教育や関わりができたところに、教育と子育ての本質を垣間見ることができる。

で、もう一つこの本から学べるのが、日常と戦争。
平和で楽しく刺激に満ちたトットちゃんの生活にも戦争の影が忍び寄る。
そして大好きなトモエ学園にも。
黒柳徹子さんの年齢から考えて、彼女が入学した当時はすでに日中戦争は始まっていた。
太平洋戦争へ向けて、時勢はどんどん変化していた頃である。
ところが戦争が感じられるようになるのは後半。
戦争とはどういうものなのか。
当時の空気感を知ることができて、なかなか示唆に富む。

この記事を書くために今回読み直したのだが、何度読んでも新しい発見があるなぁ、と思った。
読んだことない人はもちろん、一度読んだことある人も読み直してみるといいと思っている。
教育に関わるすべての人にオススメな一冊。
もちろん、お父さん、お母さんにも。




お空より。

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2020/05/06 19:26
GWもおしまい。
お散歩先にて。



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Update 2020/05/05
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