週刊雑記帳(ブログ)

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論文を読む〜イントロ編後編(研究をしよう 7)

さて、前回の続き。
ではそのイントロをどう読んでいくか。
どう批判していくか。

前回の記事で、イントロからは研究の意義を読み取るのだと書いた。
ただ、そもそもイントロにこいつがほとんど書かれていないものがある。
それっぽく先行研究は引用されているものの、研究の紹介にとどまっていて、研究の目的には全くつながっていない。
こういうのは結構ある。
その場合は、ちゃんと書かれていないため意義がよくわからない、という判断をすればよい。
そういう論文をつかまえてしまって、それをゼミで発表しなくてはならなくなってしまった場合は、素直にそう指摘できればそれでよい。
これは書き手の責任。

次に注意するのがロジック。
ロジックというのは理屈の正しさ、みたいな意味ね。
詳しくはこちらを参考にしていただいて。
イントロでよくあるのは、「AはBである。ゆえに、Cと言えるだろう。」と書いてあるのに、1文目と2文目がつながっていない、もしくはつながりがうすいというもの。
これをイントロ全体で続けていけば、間違った形で意義があるように感じてしまう。
いやいや、そんなこと言えないでしょ、と、きちんと批判したい。
ロジックに対する批判をいくつか積み重ねていくと、ああこの研究の意義あまりないね、とか、よくわかんないね、とかと判断できる。
ロジックに対する批判については分量が多くなりすぎるのでここでは書かない。
知りたい方は新版 論文の教室あたりを読んでいただければ。

次に、根拠を疑ってみる。
多くの場合は先行研究で明らかになった事実を根拠にあげ、ロジックでつないで自分の研究の目的へとつなげる。
引用というやつ。
ところが、この引用がそもそも間違っていることがある。
「谷中(2018)はラーメンには依存性があることを明らかにした」という引用をしていたとしよう。
ところが、谷中(2018)を読んでみると、そんなことはどこにも書いていない。
「ラーメンは醤油が一番人気であることがわかった。ラーメンには依存性があるのかもしれない」と書いてあるだけだった。
なんてことはよくある。
谷中(2018)を読んでみたところ、確かに結論で「ラーメンには依存性がある」とあるのだが、谷中(2018)の様々なところがダメで、この結論言えないでしょ、ということもある。
もし引用した根拠の有無がその研究の意義に大きく関わるとすれば、こういう点を見つけることでその研究の意義がガラガラと崩れることになる。
大事だね。
ちなみに先行研究を引用したものの、先行研究がダメで引用している事実を言えないような場合、この責任は引用した先行研究の著者ではなく引用した人にある。
肯定的に引用する、ということは、書き手は先行研究を信じて受け入れたよ、ということになるのだ。
他にも、根拠として複数の文献をあげているのに、そのすべてが学術論文ではなく一般記事で根拠としては薄弱という場合もある。
これらをひとつひとつ批判しながら、全体としての研究の意義を考えるわけ。

さあ。
以上をやってなお、批判点が見つからない場合。
それはとても意義のあるよい論文な可能性がある。
自分の研究を進める上でかなり役にたつかもしれない。
こういう論文はかなり数が少ないので、覚えておいて自分が書くときのお手本として使ってみるのもよいと思う。
ただ、意義の判断は難しいもので、批判点が見つからないから意義が大きい、というものでもないのが困ったところ。
あくまでイントロに書き手が書いているはずの意義を読み取ろう、という話で、意義の大小についてはまた別の問題。
読み取った内容から自分で判断するしかない。
プロの研究者でも一つの論文に対する評価はわかれることがよくあるので、ここで判断基準を簡単に書くのはなかなか難しい。
書き手がイントロで意義を書ききれていないにもかかわらず、意義の大きい研究というものもないわけではない。
研究の意義、大変難しい。

そんなこと言われても困るよ、何か教えてよ、という人のために。
研究の意義とは何か。
それは新奇性以外の、その研究をやる理由。
なんでそれをやったの?という質問に対して、誰もやってないから、以外の理由すべてが意義につながると思っていただければよい。
それらの理由の価値が、意義の大きさにつながるわけ。
まあ最初は基本に忠実に、そいつらをイントロから読み取るというのを地道にやって行くしかない。
いつか気が向いたら、意義についてのみをテーマに記事を書いてみようと思っている。

そんなわけで、この記事ではイントロの読み方について、ポイントをいくつか書いてみた。
ただ、残念ながらいくら理屈を知ったところで経験には勝てない。
なので、ゼミの時間などを活用して数をこなすなど、積極的に経験を積んでほしい。

次は方法の読み方について書く予定。




門司港駅にて。


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2018/09/23 16:31
移動中。
スーパーはくと号の車内にて。


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Update 2018/09/23
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