週刊雑記帳(ブログ)

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本の紹介,「科学者と戦争(池内 了,岩波新書)」

科学者と戦争
池内 了(著)
難易度:☆☆


科学技術と戦争は切っても切り離せない関係だということに異論のある人はほとんどいないと思う。
ノーベルが発明したダイナマイトはその後戦争に使われたし、
インターネットは軍事目的で開発されたものが民間に転用されたものである。
では、科学は戦争を進めるのだろうか。
戦争は科学の推進に必要なものなのだろうか。
科学者は戦争にどんな責任を負うのだろうか。
戦争のための科学と人類のための科学の境目はどこにあるのだろうか。
そんな戦争と科学について、国内外の歴史や最近の流れ等をまとめて論じた新書がコレ。
科学者が戦争とどのような関わりを持ってきたか、
その歴史から最近の流れまでを整理して解説する。

歴史の部分では海外の事例とともに、日本の戦中戦後の話が書かれていて興味深かった。
戦中は日本の少なくない科学者たちが、軍事研究に協力した。
しかし、敗戦。
協力した研究者たちも含め反省し、再び軍事研究に加担しないという決意のもといろいろな仕組みを作っていった。
このあたりのことを整理して理解することができる。
その文脈の中で現在の軍事研究反対の主張を考えると、
文脈から切り離して考えた時とはまた違った受け取り方ができると思う。

また、軍からお金がでる基礎研究とはどのようなものなのかについて、
最近の日本の防衛予算のものも含めて知ることができるのもおもしろい。
軍事系の予算は他の科学予算とは性質が異なる。
この視点は研究者の側もわりと欠落していて、
確かになあと思うポイントがいくつかあった。
特に、軍事という性質上、研究の自由や発表の自由に制約が起こりやすいというのは忘れがちな視点だと思った。
最初は自由度が高いが徐々にそれがなくなっていく性質があったり、
研究者が食いつきやすいように各所に工夫が施されているという話があったりして、おもしろかった。

最近日本でも防衛省系の公募型研究費の募集が行われている。
これを巡って、大学界隈では応募の是非を巡って議論がなされおり、
研究費を受け入れたい研究者や肯定的な意見を持つ研究者も見られるようになった。
肯定的な意見も一見正しいところもあるように思えるのだが、
やや一面的なところがある。
この本を読むともう少し多面的に問題を捉えられるようになると思う。
問題が問題なだけに、肯定するにしろ否定するにしろ、多面的に捉えた上で意見を持ちたいもの。
多くの研究者に読んでほしい一冊である。



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Update 2018/07/01
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