雑記帳(ブログ)

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授業を疑ってみよう(大学生のための学び方入門5)

授業の内容は正しくないかもしれない。
いきなり何を言い出すのか、と、思われるかもしれないけど、大学の授業はそのつもりで聞いた方がいい。
どういうことか。

まず、高校までの学習内容について。
小中高で教えられることは文科省によってかなり厳密に決められている。
専門家が複数人参加して、専門的にゆるぎない内容を選んで、難易度・系統性も考えながら慎重な議論の上に構成される。
こうして出来上がった「教えるべき内容」に基づいて、各出版社が教科書を作る。
教科書の執筆についても、その分野の専門家が複数人集まって行われる。
教科書の後ろの方に執筆者一覧が載っているが、専門分野の結構な大御所から教科教育の専門家、学校の先生まで幅広くかなり多くの人が参加していることがわかる。
もちろん、その執筆段階でも入念なチェックが行われる。
そして、いざ教科書が出来上がってもそのままは発行されない。
次は文科省のチェック(検定)が入る。
ここでも専門家が複数人参加。
いろいろなクレームをつけて対応を求められる。
こうしたプロセスを経て作られるので、教科書の内容は基本的に正しい。
少なくとも、その時代においては。
これに加えて各教科書会社が出しているしっかりとした指導書があるので、教員が授業する段階においては間違いが起こりにくくなっている。
もちろん、各教員の力量で間違っていることを教えていることはある。
でも、基本的に間違いにくい仕組みにはなっている。
そして、どの教科書で学んでも基本的には同じ内容を学べるようになっている。
これも高校までの教育の特徴。

一方で大学。
大学は各学問分野の最先端のことを学ぶ場所。
それがゆえに、高校までの検定教科書のようなものを作ることができない。
それどころか、その分野の教えるべき内容を統一することすらおそらくできない。
が、これは長くなるので次の回に改めて書く。
そんなわけだから、教えるべき内容について、組織的なチェックが入らない。
ここに間違いが入り込む余地がある。
うっかりミスで自分の作った資料が間違っているなんてことはまああるし、
使用している教科書にミスを見つけて授業中に訂正の指摘をすることもある。
だって人間だもの。

教える教員はプロなんだから間違うなよ、というツッコミもあることと思う。
ごもっともな意見だと思うが、これも難しい理由がある。
そもそも大学の教員は研究者等の専門家である。
この専門家の専門領域というのは一般の方が思うよりもずっと狭い。
例えば、僕が教養の心理学を教えるとしよう。
ところが、僕が直接研究している分野の知見が教養の心理学にどのくらい入り込むかと言えば、おそらく15回のうち1回程度。
自分の研究の話はといえば教養レベルだとスライド数枚になるのではないか。
専門科目だともう少し多くなるかもしれないが、やはり自分の専門分野の話ばかりできるわけではない。
専門科目ではあるものの、組織のマンパワーの問題で専門外の教員が教えている例もある。
ここにも間違いが入り込む余地がある。
もちろん、間違わないように各教員それなりに注意をするのだが、限界はある。
専門分野から離れれば離れるほど間違いに気づきづらくなる。

でも一番は、大学で教えられる知が最先端である、ということに由来する間違いがあること。
日々研究は進んでいる。
授業で教えられることはその時点で正しいとされるものに過ぎない。
明日新しい発見がなされ、授業の内容が正しくなくなるかもしれない。
話している内容に重要な論理矛盾を含んでおり、指摘次第で正しさが覆ることがあるかもしれない。
専門分野で論争が起こっている場合、教員は自分の側の知見を正しいと思って話すが、それは正しくないかもしれない。
大学の知というものは出来立てほやほやであるため、そういうことが起こりうる。

まあそんなわけだから、大学の授業の内容(これは本の内容も含む)はそういうものであるという意識で聞かないと間違う。
盲信は危険。
おかしいと思ったら複数の文献をあたって調べてみよう。
間違いだと思ったら教員に質問してみよう。
学生さんの指摘で重要な間違いに気づいたら、教員としては青くなると同時にこれが知的な刺激になる。
きっと教員冥利に尽きることになるのではあるまいか。
大学の知というのは、そうやって発展してきた側面があるので、遠慮はいらない。
間違いを指摘して怒るような教員は大したことないので、ばーか、とでも思っておけばいい。

ではでは。
今回はこの辺で。




川崎の秘境駅にて。かいぎょう
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2019/12/29 18:48
休暇中。
二子玉隠れ家スタバにて。


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Update 2019/12/29
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