週刊雑記帳(ブログ)

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IQとはなにか

IQという言葉、一般的によく使われるわりに、どういう数字かを知っている人は少ないよう。
うちの学生さんもしっかりと理解している人は多くない印象。
よく質問もされるし、今回はIQについてくだいて説明しようと思う。

IQと知能

IQとは「知能」というとらえどころないものをテストによってなんとか数値化したもの。
日本語では知能指数という。
そもそも知能ってなぁに、というのが難しく、100人の専門家に聞くと、100通りの答えが返ってくると言われている。
そのくらい定義が難しいものを無理やり数字に落とし込んだものがIQである。
なので、IQテスト自体も何種類も存在し、それぞれの定義に沿って問題が作られている。
時代とともに知能観が変わるため、同じ系統のテストであっても何度も改訂される。
テストの内容が違えば測られる知能も変化する。
当然、異なるテスト間での数値の比較は無意味である。
まあ、そういったもの。

IQテスト間での共通事項

そんな何種類もあるIQテストであるが、ほとんどのテストで共通していることがある。
それは100が平均であることと、数値が高ければ知能が高いということ。
そして、100から離れた数字であればあるほど、全体の中でレアな存在であること。
この3点はほぼどのテストにも当てはまると思う。
例えば、テレビなんかで「IQ180の天才!」なんてのを見ることがあるが、上記の3点を考えると数値の意味もなんとなくわかると思う。

2系統あるIQテスト

では。
具体的にIQの数字はどういう意味を持つのだろうか。
実は同じIQテストでも質の異なる2系統がある。
1つ目が精神年齢という概念を持ち出し、実年齢との割合で数値を出したもの。
2つ目は統計的な技術を使ってテスト点数の値を調整したもの。
両者は前項で説明した共通事項の3つを満たすが、意味と数値の性質が異なる。
1つずつ説明していく。

精神年齢と実年齢の割合によるIQ

まず1つ目がコレ。
精神年齢とはテストで測られた知能の年齢。
IQテストを作成してたくさんのデータを取ると、各年齢・月齢の平均点数というのがわかる。
このデータベースを使って、新たにテストを受けた人の点数から、いったいどの年齢の人の点数に近いかを調べると、その人の知能の年齢がわかる。
これを精神年齢という。
受けた人にはそれぞれ本当の年齢(実年齢)がある。
これらを利用して以下の式でIQを求めたのが、この系統のIQ。
IQ=精神年齢/実年齢×100

平均が100になり、点数が高いほど知能が高くなる値であることは、式を見れば容易に理解できると思う。
後々調べてみると、平均付近ほど人数が多くて、離れれば離れるほど人数が減ることがわかった。
考え方がシンプルでわかりやすい。

さて。
この系統のテスト。
数値の特性上、問題点が存在する。
それは何か。
異年齢(実年齢)間の数値の比較が難しいのである。
例えば、実年齢15歳で17歳の精神年齢であった場合、
IQ=17/15×100=113
となる。
一方で、実年齢5歳で精神年齢6歳の場合、
IQ=6/5×100=120
となる。
たしかにIQは15歳の方が低く出るのだが、本当に5歳児の方が知能は高いのだろうか。
そうとは言い切れない、というのがわかると思う。
実施時の実年齢によって数値自体の質が変わってしまうのだ。
ちなみに実年齢4歳で精神年齢6歳の場合、IQ150の天才が出来上がる。
十で神童、十五で才子、二十歳過ぎればただの人、という言葉もある。
発達に早い遅いはつきもので、この後精神年齢がゆるやかに実年齢に近づいていく、なんてことはままある。
まあそういうこと。

統計手法による調整タイプのIQ

精神年齢と実年齢の比によるIQの問題点を埋めるために、違った発想をする必要が出てきた。
そこで考え出されたのがこのタイプ。
定義は以下の通り。
各年齢(月齢も含めて細かく区分する)ごとにIQの平均値が100、標準偏差が15になるようにデータを調整した値
もう少し簡単に言うと、IQとは各年齢の平均値が100で平均から±15の範囲に約68%の人が入るようにデータを調整した値。
ちなみに標準偏差とは全データのばらつきを示す統計用語。
平均±標準偏差の間に約68%のデータが、平均±(標準偏差×2)の間に約95%のデータが入る。

ちょっと難しく思うかもしれないが、そんなことはない。
僕らは数値を扱う時、平均値やばらつきを変える操作をよくやる。
例えば、100点満点で平均値が50点のテストがあったとする。
できる人できない人が見た目でパッとわかるように0点を平均値にするには、全て人のテストの点数から平均値50点を引けばよい。
全部50点下がるわけだから、平均値も50点下がる。
その結果、平均が0になって、±○○点という点数に変換される。
平均を100にしたければ、さらにその後全データに100を足せばよい。

ばらつきについてもそう。
間違えて1000点満点のテストを作ってしまったとしたら、テストの点数を10で割れば100点満点に直る。
これは0〜1000点の範囲にばらついていたデータを0〜100点の範囲のばらつきに変換しているのと同義である。
理屈は同じで、全データを標準偏差の値で割ると、標準偏差は1になる。
標準偏差が1の全データに15をかければ標準偏差は15になる。
このように平均や標準偏差は全データに同じ操作をすることで自在に変えることができる。

少し話が逸れた。
IQに戻ろう。
定義で書いた通り、IQとは平均値が100、標準偏差が15になるように全データを調整した値。
高校まででおなじみの偏差値が、得点を平均値50、標準偏差10に調整した値なので、それと比較して理解していただければイメージしやすいと思う。
ここで注意したいのが、この手の値は、どんなデータの集まりかによって変化する。
そりゃあそうだ、平均値を使っているのだから。
どういうことか。
全く同じ問題の算数の実力テストを考えてみよう。
ある人の点数が50点であったとする。
しかし、この点数がごく普通の公立小学校の3年生の集団での50点と超難関私立小学校の3年生での50点はその意味が大きく異なる。
前者の中で比較すると50点は普通だったとしても、後者の中では低い得点であることが考えられる。
すると50点を偏差値にした場合、後者の集団の中では前者に比べて低めの値を示すことになる。
わかるだろうか。

IQテストではとある年齢集団の中で数値を求める。
例えば、10歳0ヶ月〜3ヶ月の集団のデータをたくさん集めておいて、その平均と標準偏差をつかって、その年齢の個々人のIQを求めるといった具合。
この項の冒頭で述べた定義、もう理解できるだろうか。

IQはなんのために使うのか

IQはもともと知的に遅れがある人を探し、教育的な対応をするために作り出された。
この発想は今も生きていて、IQは知的障害の判断の材料にされる。
教科書的にはIQ70以下を知的障害の目安として使う。
最近はIQそのもの値ではなくて、それを知能の領域の得意不得意を見るためにも使われる。
IQはとある知能観に基づいて複数で構成された質の異なるテストの総合点。
当然同じIQでも、どの領域も平均的にできる場合もあれば、領域によって出来不出来がはっきり見える場合もある。
これを分析することで個人の心理特性を把握し、支援に生かす、というような使われ方をする。
むしろ今はこっちが主流か。

あとは、IQが高い人についてのあれこれ。
よくテレビなんかでIQ170の天才!とか紹介される人が出てくることがある。
あの数値、受けたテストの種類や時期で意味が変わるというのはここまで読んだ人ならわかるだろう。
IQテストは学校で一斉に受ける以外は、困っている人が診断や支援のために受けるのが普通。
なので、メディアで紹介されている「天才」のIQは今のものではない可能性が高い、と思っている。
目にするたびに、どのテストをいつやった時のIQなんだろう、と考えてしまうのは職業病だと思っている。

ちなみに。
IQが高い、というのは無条件でよいことでうらやましい、と思いがちだが、これも違う。
標準に合わせた学校制度の中では、高すぎるIQを持った人は困難を抱える可能性がある。
学校のレベルが彼らのレベルに合わない。
一日中、簡単すぎるレベルの授業に付き合わされる。
想像以上に退屈で苦痛だと思う。
しかも、それをつらい、と訴える場もなければ、適切な支援も知られていない。
贅沢な悩みだと取り合ってもらえないばかりか、反感を買ったりいじめられたりする危険もある。
これは、医療の対象にはならないので、心理とか教育とかのフィールドの人のお仕事なのかなと思っている。

まとめと本の紹介

さて、つらつら書いてきたが、そろそろおしまい。
もう少し勉強したい人のために本を紹介しておくので、興味ある人は読んでいただきたく。

なお、IQの説明に出てきた、平均や標準偏差、その集団の話。
これは、心理系ではよく出てくる言葉で、知っておくと便利。
世の数字を読む基礎素養として全ての人に大事だと思うので、もし読んでいる人が大学生・院生さんならこの程度の言葉が説明なしに理解できる程度の初歩の統計学はやっておいたほうがいいと思う。

ではでは、また。


文献

知能指数―発達心理学からみたIQ (滝沢 武久,中公新書)
IQってホントは何なんだ?(村上 宣寛,日経BP社)

はじめての統計学(鳥居 泰彦,日本経済新聞社‬)




横浜の片田舎にて。


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2019/03/23 12:03
休暇中。
九州のどっかにて。


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Update 2019/03/23
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