週刊雑記帳(ブログ)

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本の紹介,「池上彰東工大講義シリーズ(池上彰(著),文春文庫)」

池上彰東工大講義シリーズ
池上彰(著)
難易度:☆☆


わかりやすいニュース解説でおなじみの池上彰さん。
知らない人も多いとは思うが、彼は今東工大で教養系の教員をしている。
そんな彼の講義録を書籍化したのがこのシリーズ。
現代時事を理解する上で重要な近代史、世界事情、経済などをトピックごとに解説。
これがね、すごくおもしろい。

まず、圧倒的にわかりやすい。
スラスラ読むことができる。
わかりやすいと一面的で薄いものが多くなるが、
そこはさすがの池上さん、背景や事象の裏側までじっくりと書いてくれる。
知っている内容であっても、ああ、その視点もあるか、と気付かされることが埋まっていて、よい。
大学の講義録がもとなので、投げかけた質問に対する東工大生の答えなんかも登場し、
他大の授業の雰囲気を知ることができるのもまたおもしろい。
このシリーズに一貫しているのだが、池上さん自身の価値観や善悪をはっきり書かない。
代わりに、事実を説明したのち「あなたはどう思うか」と投げかけるスタイルをとる。
このあたり、ジャーナリストとしての池上さんの哲学を感じた。
現代教養として、ぜひ多くの人に読んでほしいな、と思ったシリーズ。

以下は、各本の短評。


この社会で戦う君に「知の世界地図」をあげよう 世界篇 池上彰教授の東工大講義

シリーズ1作目。
近現代の歴史を絡めながら、原発、経済、世界情勢と幅広いトピックを扱う。
講義録なので15回分あり、14トピック+総合討論の構成。
国家と科学、憲法、経済など重要なトピックの基本的な事項を説明する。
世界篇と銘打ってある通り、国際的なものが多い。
個人的にはメディアの章がおもしろかった。
最後の学生を交えた総合討論もなかなかよい。


この日本で生きる君が知っておくべき「戦後史の学び方」 池上彰教授の東工大講義 日本篇

シリーズ2作目。
日本の戦後史を各トピックごとにまとめた本。
海外の話も出るが、基本的には日本の戦後史の範疇。
政治から教育、沖縄の問題まで幅広く網羅している。
全共闘の話や教育の話は一般的な現代史の本にはあまりのっておらず、より興味深く読めた。
元になった講義名は「現代日本を知るために」だそうで、そのためには戦後史を知っておこう、ということらしい。
歴史の失敗から学べ、という氏の意図を強く感じた良書。
ちなみに講義の対象者は大学1年生。
この辺りに強くないという大学生・社会人の方は読んでみると大変ためになると思う。


学校では教えない「社会人のための現代史」 池上彰教授の東工大講義 国際篇

シリーズ3作目。
世界事情を第二次世界大戦後を中心とした近現代史から学ぶ時事系教養書。
前の2作は日本を知るという色が強かったが、この作品は世界情勢がメイン。
冷戦や韓国、北朝鮮、中国、テロやイスラムの問題まで地域・トピックごとにその歴史を紐解く。
歴史が次の状況を生み出し、それがまた次につながる。
現状を理解するには歴史を読むのが1番だと強く感じることができる本。
国際情勢にうんぬん意見を言う前に、このくらいは知っておきたいなぁ、と思える内容。
シリーズに通底する「歴史に学べ」は本作でも健在。



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Update 2017/12/04
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